第11話 私も一応女の子なんですけど……(見れば分かります)
一華には遠回しな物言いではなく、直接的に告げた方がかえって伝わる。
これは私の説明力に難があって、彼女の理解力に差し障りがあるからではない。
「私のおもてなしに絶望してない? この勝負を途中で打ち切りたくなってない?」
なお、友人dayにスーパーや鮮魚店精肉店等の商店街来訪は今後とも起こりうる。
妹ちゃんや母に内情を詳らかにし、代替を進言されたけども私は納得をせんなんだ。
「確かに面食らったよ? 期待もあったから買い物に行くと言われたとき、自分が嫌われているかもと不安にもなったさ」
「ここで土下座しろと言われたらするから……」
「だけどね?」
表情の推移からして、彼女が期待を裏切られたのも不安を覚えたのも事実。
ただ一華は些細な問題だと言いたげに胸を張りながら。
「友人でありながら買い物や夕飯作りをキミが担当しているを知らなかった。単刀直入に言えば自分に不足があったんだよ」
「か、かっこいい……」
私の責任を追及するのではなく、あくまで自分の問題だと主張するスパダリ。
向けられた笑みは自分が独占するのが勿体ない美麗さ。
発言の内容も含めて人間ができすぎてて、感想が小学生レベルになってる。
ただ、至らない褒め言葉にも彼女は頬を赤らめ、そっぽ向くように目を逸らした。
「キミは素で嬉しいことを言ってくれるから、力尽くで押し倒したくなるよ」
「今日は親友としてのおもてなしができるから」
抱き寄せられてからおでこのあたりに頬を寄せられると、年甲斐もなく緊張しちゃう。
年頃の女の子同士ではこれでもスキンシップの範疇だ。
でないと妹系元気娘の雅ちゃんのやっていることが発情した乙女の所業になっちゃう。
「ん? ということはこれからは買い物に行く回数が」
「す、少なくなるだけなの! それはあの、ごめんなさい」
先にも言ったとおり妹ちゃんや母は取って代わるのを進言したけど。
「お一人様一点の商品が一華がいると二点買えるの! 貧乏性でゴメンだけど、これ本当に大きいの!」
「それ親友というか体よく利用されているだけじゃないかい?」
「うん……さすがのあなたでもフォローできないんじゃないかと不安で」
今までの関係も無しにされてもおかしくない酷いことを言っている。
「今日は親友dayだ……や、キミがタイムセールに突撃をしたいなら」
「だ、だいじょうぶ! 今日もありすちゃんとお母さんが頑張ってくれるから! ……おもてなしプランも脳内に材料がなくて妹が決めてくれたから」
完璧超人は友情イベントがタイムセール直撃でも構わないと言った。
が、さすがの私もしこりが残るので、恋人dayと同様に二人きりで過ごせる時間を今回は確保している。
そして放課後に行われたありすちゃんの友人計画は、一華から「感謝の意を伝えてくれ」と好評だった。
※
翌日の恋人day――先日と同じように二人きりになった私は少々怯えていた。
少し抱きしめさせてくれと一華に言われて、背中に力強さを感じたときに安心感を覚えたけど。
初日は私の都合で買い物へ出かけ、昨日はありすちゃんプロデュースの友人イベントだった。
つまりはその、桜塚怜は今日に至るまでおもてなしがまるでなっちゃいないのだ。
恋人関係はおろか友人関係の破綻すらあり得るダメダメさ……。
「キミのぬくもりを堪能させて貰ったよ。ありがとう」
「いつでもになると恥ずかしいけど、これくらいなら都合を合わせるよ?」
この期に及んで「またタイムセール突撃」もあると言ったんだから、抱き寄せられるので許されるならいつでも身体を提供する。
「母にな、スーパーに行くイベントについてご教授を願った。自分の中だけではどのように結論づけていいのか分からなかった物でね」
クラスメートの中に放課後に買い物に行って、かつ夕飯の準備も担当している人間がどれほどいるか。
それは可能性ゼロじゃないけど、友達と遊ぶイベントがお買い物になる人間はいないだろう。
ウインドーショッピングとかじゃなくてガチモンの買い物だからね、その上片方は手持ち無沙汰だから。
「私は最初からそんなつもりは無かったが、キミを手放すなと言われたよ」
「えぇ……」
即刻別れろとアドバイスされても不思議でない所業だったのに?
「その年齢で生活力のある人間はいないと言われた。確かにその通りだ」
「……と、遠回しな嫌味だったりしない?」
「私は調理実習なども無難にこなしてたが、家事となればおおよそ初心者だ」
一華の家にはお手伝いさんがいて生活スタイルがほぼほぼ従業員任せらしい。
普段から家事をする必要が無いのは羨ましいかな? 私の性根からして手持ち無沙汰になりそう。
「将来への展望が甘すぎると言われたよ」
「いやいや!? 高校生で未来が予想できているのは珍しいでしょ!?」
「私は優秀だ――疑ってこなかった」
「当然だよ!? そこは自信を持って良いと思うよ!?」
「だがキミのように、働く相手を支えて子を育てられるかは甚だ疑問だ……ああ、君が私を孕ませたいならいつでも言ってくれ」
「どうやってかな!?」
会話の方向性がズレてしまったけども、放課後は覚悟してくれと顎クイをしながら言われた。
褒められたことは嬉しいけど、私を落とすことに磨きをかけた点についてはお恨み申し上げますぞ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます