第10話 ふと考えてみれば (湯あたりはいけません!)

 お風呂掃除をしていても黒カビを完全に防ぐことはいと難しく。

 水垢と黒カビとの激戦を思い出しながら、私にはびこるネガネガと似ているなんて笑ったりもして。


「……へぁ」


 雑踏なら人々の中に簡単に埋もれる小さな溜息も、お風呂の中では何倍も膨れ上がって耳に届く。

 恋人としても親友としてもお付き合いをする――花形満が星飛雄馬対策の一環で鉄球をフルスイングしたレベルの提案に思えてきた……乗ったのは私だから、無しにしてくれなんて言えないんだけど。


「のんべんだらりと3年間恋人か親友かを決めるのは辛いので期限を設けよう」


 一華は発言から勘違いされることもあるけど、本業の学業でも学年トップを誇る才女である。

 辛いのは本音に近いだろう。でも、答えを先延ばしにする牛歩戦術を先読みして、イベント期間を設けるのは抜け目ない。


 この一月の間に恋人の素晴らしさを教えるとのことだけど、なにをされても屈服しない。

 かと言って親友の素晴らしさをプレゼンできるかと考えれば不安が先立つ。


 友人を超えた友情の知識がこしらえられて無いから、一華に突拍子もないコトをしでかして、恋人も親友も無しグループからも脱退ね……となったら、お風呂に入っているのに震えが止まらなくなる心持ち。


(でも、私と恋人なんて結論にさせられたら申し訳ないよね……)


 グループから脱退して卒業するまでぼっちになることが確定事項だったとしても、神岸グループの元メンバー(笑)だったとしても、友人関係without怜(これは0と怜をかけた……)な感じになったとしても、高校を卒業してからも残り続ける黒歴史を一華に作らせるよりかはマシだと考え、気合いを入れたらクラリと来た。


 ――ありすちゃんに介抱をされたのは嬉しさ半分悲しみ半分と言った感じだけども、これが作戦の失敗を示す伏線にならんことを願いたい。



 その日を親友か恋人として過ごすのかは事前打ち合わせにより「交互」となった。

 桜塚怜が「今日は親友」神岸一華が「今日は恋人」のサインを出すのは両者が容易に想像ができたから。


 私が「なんかごめん……」と言うと「今から恋人というのは無しか?」と腰のあたりに手をかけられグイッと顔を近づけさせられたので、謝意はものの見事に吹き飛んだ。


 一華曰く、シンパシーを感じるイベントを起こしたことで強引に行きたくなった――とのことだけども。

 私は親友、彼女は恋人と交わらない提案だったのは完スルーなんだろうか? 私の気持ちまで完スルーとは行かないで欲しい。


 や、桜塚怜ならぞんざいに扱われてもしょうがないけど、他の人にそれをしちゃったら一華が嫌われちゃうかもしれない。


 交互に親友と恋人として過ごし……本日は親友dayなんだけど。


「ふふっ、怜から二人きりを望んでくれるなんて、今日からはずっと恋人dayなのかな?」

「その……ね? やってることが同じだと思ってさ」

「二人きり……やっている……それはつまり今日はホテルへ」

「先走りすぎだから!」


 あわよくば抱き寄せるのやめて貰っていい?

 恋人になりたいって言葉は否定しないけど、私の中で疑わしさ満載だからそれを増幅する結果になっちゃう。


 あと、ボディタッチに粘度を感じるのは一華が私に恋人関係を求めているから? 年中梅雨模様だと周りから変に思われちゃうかもよ?


「ええと、初日は買い物に付き合ってくれてありがとう」

「ああ、義妹さんやお義母様によろしく」


 「いもうとさん」「おかあさま」と発音したのに、どことなく関係性の深さアピールされた気がするけど。


 彼女が私の家族に感謝の意を述べたのは、夕飯の買い物をするのを忘れて「親友としての付き合い」を開始したからだ。


 「ドコに行くんだ?」と一華に言われたときに「あっ」と呟いた私は家の近所のスーパーの名前を言ったんだけど、その時の彼女のガッカリっぷりったらもうね。

 五分後には「新婚生活の参考になる」とフォローしてくれたけど、そつのなさには感謝しかないけど……。


 後日の恋人dayのほうがアイス食べさせあいっこしたりしたから、よっぽど友人関係らしいことをしたってオチが付いたからね……。


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