第9話 そして始まる物語 (くーっ! プロローグは終わりです!)

 私の自虐はまだまだ続く。


「友達として好きっていうのが、恋人としての好きと同じとは思わないし、 今の私の気持ちは……あなたと恋人になりたくないとかじゃないよ?」

「つまりは照れ隠しをしているわけだ」

「そう受け取ってもらっても構わないかな?  本当に今の気持ちが分からないんだ」


 百年の恋も一時に冷める発言を繰り返していると思う。

 分からないって言って関係性をキープしようって考えられてもしょうがない。


 私が友人を欲しがっていることは実は陰キャですという言葉と一緒に告げたつもり。

 ぼっち関連に縁がない彼女にどれほどの理解があるかは謎だけど。


 自分の浅ましさには反吐が出るけど、友情をキープしたい心持ちには全校生徒から理解を得られる自信がある。

 だって彼女は神岸一華なのだ、誰もが友人ないし恋人になりたい超弩級のエリートなのだ。


 

 相手が素晴らしい人間だからこそ脳裏に「どうして私が」って言葉が無数に散らばって、なんと相手に伝えていいのか戸惑う。

 あなたが完璧で私が卑屈になるから付き合えませんとか、好きですって宣った相手に伝えられるのかな!?



「私を見ろ。これほど恋人のしがいがある女はいないだろう。 鏡を見ながら私は自信を持ったよ。この告白もうまくいくはずだってね」

「私があなたほどの容姿を持っていたならば、自信満々に過ごせていたと思う……でも私は私だし」

「だから私は君を好きになった。違う人間だからこそだ……同じ人間だったら、もしかしたら仲良くなれなかったかもしれない」

「本当に嬉しいことを言ってくれるね? 私を肯定的に見てくれる…… 今まで家族しかいなかったのに」


 自分が告白したのだから自信を持て、要約すればそんなことを言っている。

 白いシャツに付いたカレーのシミみたいなネガネガさが浄化されようとして、また戻ってを繰り返している。


 私はただただ安心したいだけなのかもしれない。

 関係性の変化を恐れて前に行かないのを、一華が手を引こうとしているのかもしれない。


 この手を取ったならば栄光の未来へ進んでいける……いや、彼女が進ませてくれるのかも。

 でもそれってただただ依存しているだけで――


「こうして女の子の集団でグループを作って、仲良くすることがいつも通りになってる」

「ありがたいことだね」

「でもさ、私とあなたが恋人同士になって…… それで別れたら仲良く会話していられるかな?」

「もちろんだとも」


 定められた運命であり背くことはあり得ない。

 勇者な一華がネガネガ魔王の私に剣を向ける――桜塚怜……私をただただ圧倒。


「だって私は君を一生逃すつもりはないし、君も私を生涯愛し続けるだろう――私はこの世で一番素敵な女だからな」

「自信満々にもほどがあるでしょう!?」


 私は何度ともなく「自信がない」「分からない」を多用しているのに、彼女はどこ吹く風(ウマ娘スキル)を利用して「本心では一華を愛している」と都合良く変換しちゃってる!?


 いやね? 神岸一華レベルの超絶美少女だったなら、付き合う人間は漏れなく幸福を味わうことができ、すべからく恋人同士になるべきだから、未来を思えば手を取るのは当然だって考えても、そりゃ分かるよ。

 100年経っても大丈夫的なイナバ物置思想でも納得はしちゃうけど。


「私を好きだって気持ちが燃え続けているかもしれないけど……」

「まさしく太陽のように」

「…… 太陽だっていつかなくなってしまうと言われてるじゃない? 好意だってもしかしたら」


 一華がグループの他の誰かに告白したのなら、構わず押せと無責任に言い放ってたかも。

 彼女への信頼がないわけじゃない。むしろ自分と仲良くして、告白までなんて感謝しかない。


 ただ、唐突にろうそくの火がかき消えるみたいに、一華の情熱が私が原因で冷めてしまって、別れようってなったならば。


 私は絶対に責任を感じずに入られないし、グループのメンバーとして笑顔でいられる自信がない。

 陽キャを演じて二ヶ月早々でもうダメの状態なのだ。

 さらに友人を演じるなんてコトになったら10日持つ自信がない。

 10日後に関係性を喪うワニみたいなもんだ。

 

「分かった……君と恋人になりたい私と友人関係を保ちたい君が……幸せになる方法が1つだけある」

「誰かを犠牲にしてとか、そういうんじゃないよね? 誰もが笑っていられるような話だよね?」

「もちろん……その話とは恋人のフリだ」


 お付き合い一歩手前みたいな関係性でいようという提案だ……なるほど、一華や私が一方的に妥協をしているんじゃなく。


「そして同時に親友として付き合う……これならどちらがいいのか決められるはずだ」


 結論の先延ばしだ――現状維持で契約更改してまた新年一緒にやりましょうや、と……とても魅力的な提案に思えてきた。


 ネガティブな物の見方をしてしまえば、私は嫌われたくないので一華をフリたくないし、一華はこんなアホな私にフられたくない。


 ただただ妥協の産物であり、よい未来が描けそうなイメージがとんと沸かない……でも、私はそんな提案に頷いてしまったのだ。


(……そうだよね、嫌われることには慣れている。一華を傷つけないようにすることだけ気をつければいいよね?)

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