第8話 寝るときに考え事して3時間経つとかないの!?(それはないでしょ)
告白に憧れがあったのは言うまでもない。
告白より告発の方が近道っぽい人間にも、こいねがう権利くらいはあって貰いたい。
「何を言ってるのかよく分からないけど……」
目の前にいるのはカーストの頂点を極めるモッテモテ女子だ。
同性からも異性からも分け隔てなく愛を告げられているハチャメチャっぷりだ。
でもね、そいつが愛を告げたってのが他者から神岸グループの一員以外の情報がないミジンコなのだ。
脳が理解を拒んでいる。顕微鏡で覗くレベルじゃないと視認できないレベルの私に何故……いや、そのレベルになったら美少女なのか?
一華のレンズが超越していて、本来顕微鏡で確認しなければ分からないことも彼女のeyeなら分かるってこと?
「何を言ってるのかよくわからない? 適切な言葉を使って告白したつもりだったんだが」
「内容は聞き取ったつもりだけど、自分に告白してくれる人がいるなんて驚きだよ……」
「なるほど、何も言ってることが分からないというのは、私の言葉が足りなかっただけかな? つまりはOKってことだね」
「論理の飛躍があるけど、それはこれから話し合っていきましょうか」
恋に落ちると表現する理由を模索していたけど、沼にハマるようにズブズブになるからだなと。
関係性は改めて深めれば良いと天下無双の笑顔で一華は言うけれども、私は友情ってのは横へ広がっていくもんだと思う。
友情は知りたい欲求が低いけど、恋愛はドンドン相手のことを知りたくなる。
事実、彼女は私のことを深く知ろうとしている。
やっぱり、私が認識している感情と一華が持っている感情は差がある。
人生の中で友人と呼べる存在がいなかったから、親友と言われて天に昇るような心持ちだった。
言わば幸福の絶頂だと思ってた段階から階段を上るようなものだ――
頂点に上ってそのまんまだったら、それはとっても幸せなことだろう。
でも、お風呂に入って弛緩している状態がいつまでも続かない。
幸福が続いて行くとのぼせ上がってしまうのだと私は知っている。
それは裏切りとかの表現で呼ばれるものじゃなくて、青い鳥とか灯台下暗しみたいな感じで、気づいたらしみじみと感じなければいけないもので。
全方位から幸せのオーラ力が飛んできたら暴発しちゃうって言うか。
「今の今まで私はすごく幸せな気持ちだったけど、なんかねすごく複雑だよ。自分が好かれるような人間じゃないって思ってたから」
「私から見て、君はすごく素敵な女の子だと思うよ? だからこそ一人の女の子として好きになった」
スラスラと恥ずかしい台詞がポンポン耳に届いて、こちらはお腹いっぱいだ。
あ、今のはポンポンとお腹をかけた(略)
恋愛経験なんてないし、ましてや恋人や友人すらいなかった私が、素敵とか好きになったとか言われても。
こういうことって一生に一度くらいのペースでないの?
相手には文句もないけど、自分とはまるで釣り合っていないというか。
「一華はね、ゲームとかやらないと思うから分からないと思うけど、私にとって友達はレアモンスターみたいなもので、それが仲間になるだけでも驚きなのに、じゃあ恋人になりましょうとか言うとか、なんかもう天地がひっくり返る感じで」
「なるほどそれはとても光栄だね。私も君が頷いてくれなかったらどうしようと考えて、昨日は8時間しか眠れなかったよ」
「それは健康的でとてもいいことだと思う! 平均越えてるよ!」
眠る前に思考の袋小路に入って睡眠時間を減らす私は、布団の中の考え事で時間を溶かさないって事実に衝撃だよ?
彼女の自信満々な陽キャっぷりは眩しくて、私の陰キャ要素なんて吹き飛んでしまいそう。
でもガスコンロにこびりついた頑固な油汚れみたいな部分は解消できないんだよなぁ(みつを先生風)
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