第6話 倫理的にアウトなことは言っちゃダメだよ!?(それが酷い相手でも!)

 手を握られた――初日からお姫様抱っこで女子を運んだり、他人の行方を推測するのに壁ドンをするような女だ。

 距離感の測り方がバグを起こしていても不思議ではない。


 ラノベやノベルゲームなどで相手のまつげが長いと表現するシーンを多数読んできた。

 神岸一華は長すぎるまつげによってダメージを受けそう……って心配になるくらい長い。

 それに瞳が綺麗だ――いつもジメジメっとして淀んでいる不純物まみれの私の目と違って、宝石みたいにキラキラとしている。

 というか、潤んでいる?


 包み込まれた手は握手と言うよりも保温といった感じだ、手から出る蒸気によって手荒れを回避できるなら今後とも続けて貰いたい。

 ただそういうんじゃない、感情が極まって思わず握ったって感じだ。

 実際に一華は恥ずかしげに頬を染めているし。


「私は運がいい女だ、どれくらい運が良いかと言えば他のみんなに自分が探せばすぐに見つかるから教室で待っていろと言って信用されるレベルだ」


 探しに行ってしばらくで頓挫したけど、私の行方を知っている生徒を引き当ててるから、相殺して運が良いことにしよう。

 

「運が良いエピソードは枚挙にいとまなく、宝くじだって高額当選したのは一度や二度ではない。買ったことを怒られたけど」


 彼女が高額だとうそぶくのだから云百とか、云千万の世界なんだろう。

 羨ましくもあるけど、何百とか何千円を担保にお金を稼ぐ手段に身を染めたのだから、その点は怒られてもしょうがないと思う。


 常識外れなコト言ったり、純粋培養お嬢様感ある一華だけど、その実育ちの良さを感じるのは両親の教育の賜物なんだろうな。


「だが、一番に運が良いと実感した事実は……キミに出会えたことだろうな」


 小っちゃくね? と否定したかったけれども、両手を包み込むように握られ、キスせんばかりの勢いで顔を近づけられるとネガネガの言葉を口からだそうって気になれなかった。

 これが天然王子の自信培養術なのか、販売できたら世界が良くなりそう。


「まずは親友から始めよう」


 メッチャ胸がときめいた――陽キャを演じている自分とマジモンの陽キャの皆様とは勝手に距離を感じていた。

 良いとこ友人止まりで卒業したら縁が切れるんじゃないかと予測していた。


 でも親友は違う……友達の誘いは都合が合わなければ断る可能性があるけど、親友はよほどのことが無い限り付き合うはず(個人の感想です)


「ふふっ、そんなに嬉しそうな顔をされるとこちらも照れるな……てか、キミは本当に嬉しそうな顔をするときに小動物感が漂うんだな」

「そ、それは妹ちゃんやうちの母しか知らない事実……!」


 とびきり好きなものを頬張っているときとか、温泉で弛緩しているときにそのようなオーラを出すらしい。

 なので、演技で褒められても嬉しくないと妹ちゃんに怒られる。


「……いや待て、キミは過剰なくらいはしゃいでいる印象があったが」

「申し訳ありませんっ!」


 ボロが出るのが怖くて、聞き上手の盛り上げ上手を意識しながら、みんなが私といて気持ちよくなれるように頑張っていたまでで。

 うう、関係の変化で演技がバレてしまうとか「あ、親友は無し」とか言われちゃうかな……と、小っちゃくなっていると。


「だがこれからは私の前では演技は不要だ……ああもちろん、二人きりの時限定……言わば、私と怜だけの秘密だ」

「ええと、体力が切れそうになるくらい盛り上げるのはこれからも続けて良いでしょうか?」

「身体に差し支えが出るような行動をするな。いざとなれば私がフォローする」

「……」


 そのフォロー、ふたりちゃんは絶妙に流してくれるかもしれないけど、ストレートな物言いをする雅ちゃんと海未ちゃん相手に火の玉ストレート投げられやしない?

  

 勉ちゃんさんの謎本塁打みたいに打ち返せるならともかく、空振り三振でゲームセットってオチになったりしない? 大丈夫?


「なんだその心配そうな顔は」

「いえ、焚き火に息を吹きかける感じになったりしないかと心配で」

「誰が歩くボヤ騒ぎだ! SNSは絶対にやるなと両親から止められているが……メッセージアプリはセーフだよな?」


 スタンプで済まされたり海未ちゃんや雅ちゃんに既読スルーされている事もあるけど。

 まあ、SNSで発信するよりはマシだろう。


「だが……キミに直球で変なことを言われるのも良いものだな」

「えっと……痛い方が好きな人?」

「凹むぞ?」

「ごめんなさい冗談です」


 過度に自身や周囲を貶める表現を用いないよう、全身全霊で盛り上げ役の陽キャを演じていたけれども。


「でも良かったぁ、一華がフォローしてくれるなら、あだ名が気持ち悪いタイプの虫とかになっても生きていけそう」

「そんなことをする人間がいたら私が暴力沙汰を起こすからな?」


 私の冗談交じりの発言に返ってきたのは真剣な眼差しだった。

 あまりに不釣り合いで背中にメッチャ緊張が走る……え、今のチャーミングな自嘲じゃなかった?


「その、怒っても良いけど……暴力はダメ、絶対」

「保証は出来ないな」

「そこは折れるところじゃないかな!?」


 ふざけ半分で人を傷つけるのに相応の報復をあるって言うなら、仕方がないことなのかな?

 なんか友人以上のなにがし……あっ、これがもしかして親友の距離感ってやつ!?

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