さらわれる

葦田河豚

さらわれる

『パリン』


「あちゃ、皿割れた!!」


厨房に少女の声が響き渡る。それと同時刻、


「あちゃ、攫われた!!」


少年が誘拐された。



「なんてことをしてくれたんだい。この皿は一枚5万円もするんだよ。弁償しなさい、弁償を」


厨房にオーナーの罵声が響き渡る。


「申し訳ありません。どうか、どうか、それだけはおやめください。お許しを!!」


少女が、悲痛な声で叫んだ。それと同時刻、


「お前の家族に身代金を請求する。携帯番号を教えろ」


愚かな誘拐犯は言った。


「申し訳ありません。どうか、どうか、それだけはおやめください。お許しを!!」


少年は椅子に縛られていた。



「そうか、それならばお前はクビだ。今すぐに荷物をまとめて出ていってくれ」


オーナーの冷淡な声が厨房に染み渡る。


「はい、分かりました」


少女がうつむきがちに言った。それと同時刻、


「それならばお前を殺そう。金の取れない男などいらぬからな」


愚かな誘拐は言った。


「はい、分かりました」


少年は密かに縄を解いていた。



「あーもう終わりだ」


少女は荷物をまとめながらつぶやいた。それと同時刻、


「あーもう終わりだ」


少年が上を見上げた。



「なんてね。バカみたい」


少女の目から涙が溢れる。それと同時刻、


「なんてね。バカみたい」


少年は愚かな誘拐犯を煽っていた。



「サヨナラ」


そう言って少女は帰路についた。手には壊れた皿を持っている。


「サヨナラ」


少年は強かった。



「ヤバい!!」


廃工場から出てきた少年の肉体を見て少女は思った。


「ヤバい!!」


少年は人気のない道を歩く少女に見惚れて思った。



少女の手は小刻みに震えていた。今にも皿を落としそうである。少年は少女に近寄った。


「「さらわれる!!」」

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さらわれる 葦田河豚 @ashida-fugu

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