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 会社に戻って、デスクのパソコンで七面の動画を眺める。隣の席の日比谷さんがいないので、サボりだと見咎められる心配もない。

 画面のなかで、神酒樋は溌溂と村の過去を語る。無精髭はなく、髪もつやめいて、耳には幾何学模様の大きなピアスが揺れている。

 俺の写真を持つ手には、貴重品を扱う際そうするように白い手袋をはめていて、指先が霊をさすと、カメラがグンとその顔に寄る。

 父は俺に強く関心を持った様子だった、と神酒樋は言った。

 失踪後、家に残されたパソコンからは、七面を主として、俺の写真を使用した動画を繰り返し見ていた履歴が出てきた、とも。

「なんかこう、消えたいとでも思ってたのかなって……。そんで親父、待さんに共感とかしたんじゃないか、って……」

「……そんな深い意味なんかねーよ」

 昼、神酒樋から言われた言葉に、独り今さらな応えを返す。

 メールボックスを開いて、保留にしていたメールをいくつか処理する。時間は早かったけれどそれで今日の業務を終わりにし、レインコートを抱え、オフィスビルを出る。

 駐輪場で自転車を見つけると、神酒樋に借りたままだったタオルが、籠に残って濡れていた。手に取るとそれはひたひたと重く、伝う水は、昼間の雨よりもずっと冷たかった。

 神酒樋が、新たな心霊写真の動画を配信したのは、それからひと月ほどが経った頃。

 そのおぞましい写真は、またしても、視聴者から送られてきたものだということだった。

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