第3話 夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを

 夜が明けるまでに私の前を何十往復もしている兵士達。

 そして夜が明けても私を見つけきれないとか…節穴かな?

 …おおう、とうとう馬と車?が出てきて南へと駆け去っていった。

 見つけ次第殺す気か、それとも飼い殺しか。

 私としては飼い殺しの場合、躊躇いなく断食行をはじめますが。

 あ、真殊と彼方が来た。

 二人は俺が見えるようで真っ直ぐ此処へ向かっている。

「今すぐ此処を離れよう。北の方に小さな町があるらしい」

 彼方が私の元に着くなりそう提案してきた。

 尚、真殊は涙目で私に抱きついています。

 読経を止め、立ち上がる。

「行きますか」

「突っ込みどころは満載だが…いや良い。急ごう」

 私達は少し早足で外壁へと近付く。

 外壁の上に居た見張りはこちらを見ていなかったのか騒ぐようなことはなかった。

 そのまま壁の側を歩き、北への通りへと出た。

「一晩中ああしていたのか?」

「勿論」

「…まさか水も食事も」

「していないな。と言うよりも今食事はまずい」

 食べたり飲んだら眠くなるし、出るモノが出る。

「もう少し離れてからだな。北の小さな町は別の貴族領らしいから問題無い」

 彼方はそう言いながら私にパンパンの布の袋を渡してきた。

「これは?」

「食料と携帯テント、そして葡萄酒だ。預かっていたお金はそのままその中に入っている」

「いや、購入した分は───」

 ギュッ、と私の袖を真殊が掴んだ。

「あっ、はい…はい」

 涙目には勝てないよ…


 十数分歩いた所で草原から林道に変わる。

「具体的に、何キロ位で着く予定?」

「店や酒場で聞いたが、徒歩半日らしい」

「6~8時間計算として2~30キロか?」

「20キロそこらだと思うぞ?」

「彼方の経験上か?」

「ああ」

 恐らく人間観察をし、歩幅と移動速度から平均を割り出しての結論だろう。

 私は平均時速4キロと考えたが、彼方は3キロちょいと判断したか、途中休憩を挟んでいることを確認したのだろう。

「なら、そんなに急ぐことはないか…と言うとでも?」

「いや、言わないだろうなぁ」

「マコは大丈夫か?」

 小さく頷く。

「足が痛くなったら言ってくれよ?」

 私は言わないが。

 疑いの目で見られてる!真殊に疑いの目で見られてるぅ!

「雅、此処に残って何かする予定は?」

 ナイス彼方=サン!

「全くないな。ただ、隠者のような生活はした」

 ヴンッ

 突然目の前に半透明のスクリーンが現れた。


【豊穣神の号哭、闘神の怒りを獲得しました】


「……うーん」

「どうした?何が出た?」

「今この瞬間も神々は私達のことを見ているらしい」

「と言うと?」

「まあ、私はマコの付属品レベルだとは思うけど、豊穣の神様から嘆き悲しまれ、闘いの神様からは不甲斐なさに怒られているようで」

 そこまで言うと彼方は「あー…」と納得したような顔をした。

「神々に過去を見られているのか。日本では冤罪を晴らす際に暴力使ったらアウトだしなぁ…かといって謀略の類はお前の趣味ではないだろ?」

 趣味ではないが、使わなきゃ行けない時は裏で動くけど…

「あの時はソレをする土台すら無理だったからなぁ…学校全体が敵で、教育委員会も日和見。そして私は小学生…親も頼れないと言う状況だったし」

 あ、書き換わった。


【豊穣神の号哭、闘神の(敵対者への)怒りを獲得しました】


「……闘神様は敵対者への怒りらしい」

「そう言いたくなるよなぁ…卒業後に怨返しはしたんだろう?」

「やった結果が中学校での穴2つ状態なんだけどね」

 不良に絡まれる、愚連隊に絡まれる、組織の人に絡まれ…まあ、バイトは出来たからヨシ。

 真殊が私の服を引っ張る。

「怨返しの内容が知りたい?」

 私の顔を見て頷く。

「私以外の親にリークしただけだよ?『おたくのお子さん、学校で苛められてましたけど?』って。

 私以外もう一人苛められていたから庇ったりしていたんだけど、その子の家庭状況から推察して母親の仕事以上の暮らしをしていたから「これはおかしい」って子どもながら思ってね」

「それで、どうしたんだ?」

「その子にお父さんと会う事はある?って聞いたら月一会うって言っていたからチャンスと思ってね。

 その子を苛めていた子達と黙認した教師連中の名前とイジメの内容、証拠を付けて中学校になったら庇いきれないかも知れないと書いて確り封した封筒を渡した」

「…恐ろしい小学生だな。証拠まであったのか」

 彼方が興味深そうに聞いてくる。

「家にあった親の古いスマートフォンを使って写真や動画をね」

「ああ、成る程。で?」

「中学校に上がる前にいじめっ子達は不幸な事故に遭ったらしいよ?教師連中は女性問題や借金トラブル、家族のやらかしで騒いでいたみたい。詳しくは知らないけど」

「新聞社に持っていけば少しはマシな社会制裁がで来たんじゃ無いか?…とは言い切れないんだよなぁ」

 真殊がため息を吐く彼方を見た後で首をかしげて私の方を見る。

「苛められる方にも問題があったとか言うようなコメンテーターがいた頃だからね。今も一定数居るけど」

「度し難いよなぁ…出る杭も弱い物も食い物にする…ソレを止めもせずバレたら「忙しくて知らなかったんです」で済まそうとするんだから」

「忙しいのは無駄な会議と提出物のせいだけどね。教師連中もある意味学生と同じレベルだよ。授業をする学生。心もそのレベルだったりするし」

 そんな話をしながら林道を抜ける。

 小高い丘があり、そこに日よけ目的と思われる木が数本立っていた。

「あの丘で休憩するか、それとも此処で休憩するか」

「林を抜けた此処で」

 私の即答に彼方は「分かった」と頷き、みんなで道から少し離れる。


 異世界初襲撃。いぇーい。

 人ではないけどね。身長1メートルはない位の灰色のヒトガタ。ただし頭は人の2倍あって体はマッチョ。棒を持っている。

 ゴブリンではないよなぁ…餓鬼、に近いのかな?

 タタンッ

 ドサッ

 終了。

 彼方が即座に其奴の頭を撃ち、終了。黒い粒子となって消えた。

「その銃って、出回っているの?」

「昔のコンセプトライフルだけど、出回っては無いな」

 成る程。聞いてはいけない代物でしたか。MAGPUL PDRって出回っていないのかぁ…残念だ。

「?」

 真殊が何かを見つけたようで、ソレを拾って私に渡してきた。

「ありがとう。銀貨?え?この世界ゲームの世界?」

「それはないだろ…しかも、俺等の持っている銀貨とは違うなぁ…他の国の銀貨か?」

「国によって貨幣違う可能性を忘れてた…」

 まあ、山や森で過ごす予定ですが!

「街道から出ると遭遇するのか?いや、この場合は別の条件か」

 彼方はブツブツと呟きながら発生条件を考えているようだ。

 そう。

 林の中からヤツは湧き出てきた。

 突如という程ではないが、ユラリと空間が揺れて10秒ほど経ったら姿が形成されていき、20秒で形成された。

 クイッ

 真殊が私の服を引く。

「あっ」

 今度は林との境界付近に歪みが発生した。

 少し大きめな歪みだ。

「ちょっと実験をしてみよう」

 私は布袋から組み立て式の棒を取り出し、繋げる。

 テントの支柱となるその棒を姿が形成されていくナニカの首辺りに差し込む。

 そして、完全に形成が完了する直前に勢いよく引き抜く!

「!?」

 現れた先程の餓鬼の大人版は驚いた顔をしたまま首を押さえ、押さえたまま後ろ向きに倒れ、黒い粒子となって消えた。

「───うん。此処のレベル帯が低いせいなのか、無防備で簡単だなぁ」

「いや、いやいやいや待て。ソレは想像してもやる奴はいないだろ!」

 おお、ナイス突っ込み。

「多分引き抜いたりしなかった場合は取り込まれる可能性があると想定していたけど、引く瞬間に生じた先端の揺らぎで喉周りが散らされて結果致命傷って…哀れ」

「いやお前がやったんだからな!?」

 真殊が私に何か差し出してきた。

 白い小袋だ。

「もしかして、また落ちてた?」

 真殊が頷く。

「なんだろね…うっわ」

 小袋の中は金貨6枚と小指の先程の赤黒い宝石だった。

「アルマンディン?にしては…しかしこれだけのことで6万円と宝石っぽいモノが手に入るなんて」

 真殊に金貨2枚を渡すと要らないと首を振られる。

 私が倒したから全部私のものと言いたいらしい。

 それならさっきのヤツは彼方に銀貨を渡したいのだが…

 彼方を見る。

「さっきの物も雅が持っていてくださいね?」

 ニッコリと笑みを浮かべた状態で強く言われてしまった。

 笑みって、攻撃的ですよねぇ!


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