第2話 やはり異世界の洗礼はまちがっている
「そうきたか異世界」
私は今、絶賛野営中です。
最悪を想定するのが常な私なんですが、今回は最悪の三歩手前でした。
では、回想どうぞ。
現地時間 13:21
草原に転送された私達はすぐに周辺の状況を確認し、一息吐く。
彼方の方は不意を突かれないよう自然体のまま周辺に気を配ってはいるが、私はそれ以上できないので真殊の方を見る。
私にしっかりとしがみ付いて目を瞑っている。
「マコ、無事着いたよ」
背中を優しくトントンと叩くとゆっくりと目を開け、辺りをキョロキョロと見る。
「周辺に気配なし。今のうちに現状確認をしようか」
彼方がそう言ってくる。
「ステータスチェック」
そう口にすると、目の前に半透明のスクリーンが現れた。
名前と現状、通称や職業含めた個人情報諸々が記載されている。
うん。通称。
あとさ、名前、間違えているんだけど…
2人ともステータスをチェックしている。
「2人は何か特殊能力とか得たかな?」
彼方が私たちに聞いてくる。
「ん」
真殊がステータスをオープンにし、私たちに見せる。
「「うわぁ…」」
そこに記載されていたのはザ・チートと言わんばかりの記載だった。
【
165cm/50kg 男性 職業:神子 研究者 賢者 庇護者
護身術8 魔術適正(全)8 儀式魔法適正(全)8 神術適正9
幸運8 察知&カウンター(全)8 オートバリア7 呪病毒耐性8
何がチートかというと、この世界の技能レベルに関する最大値は6だそうだ。
完全に1人で世界を相手取れる存在となっている。
彼方の口元が引き攣っている。
「はは、分かってはいたけど…凄いね。じゃあ次は俺が」
そう言って見せてくれたステータスは、
【
182cm/72kg 男性 職業:エージェント 神官 商人 指揮官 研究者
家伝武術6 魔術適正(火・風)4(水)2 儀式魔法適正(時・闇)2
神術適正4 戦術指揮4 呪毒耐性3 銃火器適正5
「まだまだ伸び代があるということはいい事だ」
満足げに頷く彼方。
さて、私の番ですが…
「見たいか?驚くぞ?」
「それはいい意味でか?悪い意味でか?」
「言うまでも無いだろ?悪い意味だ。あと読み方が間違っている」
【
179cm/52kg 男性 職業:助手 生贄 何でも屋
万能3 神術適正3 魔術適正(火・鉱)2 儀式魔法適正(犠)4 法術(3)
不運7 悪運4 適応4 亜空間ボックス(共有)4 鑑定2
「「………」」
2人揃って絶句している。
真殊に至っては涙目だ。
神様もツンとデレを織り交ぜすぎて情緒不安定になっていません?
悲哀のち試練って、殺しに掛かりすぎでは?あと帰れないのかぁ…それは別に構わないですが。
職業生贄とかなんでしょうね?スケープゴート的な意味だろうけど。
今までの四半世紀にも満たない人生で数十回は経験しているな…そりゃ職業扱いされるわ。
不運7を悪運で相殺してマイナス分を適応で更に相殺している感凄い。結果+1。
「うーん…世界が私を殺しに来ている気がしないでもない」
「いや、どうなんだ?これは…」
「~~~~!」
真殊。そんな涙目で私を掴まなくても…私自身が困惑しているからね?
「とりあえず街に行かないか?」
「……そうだな」
(コクリ)
とりあえず予定通り街に向かう。
私達三人は確認し合い、歩き出した。
同時に予備策も考える。
もし私が街に入れなかった場合、食料とテント等を買ってきて貰おう。
一応持ってきた携帯食料はあるが、帰還不可状態な私には食料品は必須。
彼方ならそういった類の知識は当然あるだろうから必要な物は分かるはずだ。
そんなもしもの話を振ると彼方は神妙な顔で頷き、真殊は…ああ、泣いてる!
宥めながら城門前に辿り着いた。
「お前みたいな限度を超えた不運の者を街に入れたら街が壊滅する!出て行け疫病神!」
「ですよねぇー…と言うわけでお二人とも予定通り行ってきてください」
「…なんか、スマン、すぐに買ってくるから待っていてくれ」
「………」
「はいはい。マコちゃん泣かない。あのおじさんも仕事なんだから。恨んだら駄目だよ?マコちゃんが恨んだら絶対あのおじさんバッドステータスになるから」
(コクリ)
「私は外で待っているから彼方とお買い物よろしく」
真殊にそう言って持っているお金を全て渡す。
真殊は彼方と共に街へと入り、扉が閉められた。
先程までは開けていたにもかかわらず、大扉を閉めたのだ。
「ほほう、やりますねぇ」
余程私の事が嫌いらしい。
「これは主神や審判神が狙ってやっているのかな?」
私に直接手を出せば問題が生じるために事故で扉が閉まったので他意はありませんよ、と。
「まあ、期待してはいませんでしたが、予想通りと言えば予想通りですね」
外壁から少し離れ、草原まで下がって腰を下ろす。
そのままが死して即身仏になるのもアリかなぁ。ただし世界全てを呪ってとか。神々にとっては正しくギャグだろうけど。
そして冒頭に戻る。
座禅を組んで瞑想をする。
「済まんな真殊。他人を恨まないでくれよ?」
火を起こしてもいないのだから狼とか魔物が来るだろう。そのまま餌になる感じ───は無理か。特殊プロテクターがあるし。
良かろう。ならば断食チャレンジだ。
プロテクターが駄目になるのが先か、餓死が先か、勝負だ!
尚、真殊に泣かれたら困るのであの子が来たらストップという事で。
大聖堂の鐘が激しく鳴る。
神託が下された時の緊急の鐘の音だった。
「馬鹿な…神々の愛し子に絶望を与え、主神が見守る者をよりにもよって殺そうとしているだと!?
審判神の試練はその者を中心に世界全体を対象としているのだぞ!?」
年老いた大司教に青年が怒鳴りつける。
「しかし、審判神の試練を有した者は不運の値が上限を超えているという事で…」
「当たり前だ!そうでなければ試練にならん!相殺するように悪運なども高いはずだ。もしその人物が生を諦め自死した場合、神々は世界に裁きを下すだろうよ」
「そんなっ!教皇様!」
焦る大司教に対し青年は大きなため息を吐く。
「門番は良かれと思って神の愛し子と審判神の試練を有する者を切り離した。
我々教会は、審判神の試練について広く教えていたのではなかったのか?数百年前の大崩壊について、切り離してはならない者達を切り離した結果があの大崩壊だと、教えてはいないのか?」
「………」
大司教は目を逸らす。
「まさかとは思うが、あの話が作り話だとでも思っているのか?」
「あっ、いえそのような…」
「守人の言だけではない。当時の記憶水晶もあるぞ?ただし、それを見れば恐怖で暫くの間は眠れぬか、発狂するが…エルン大司教、それを見る覚悟は?」
「いいいいいえっ!至急、至急試練を有した者を都市の中へ連れ戻します!」
老人とは思えぬ速さで走り去るその後ろ姿を見てため息を吐く。
「……教会も俗にまみれ始めていたか。大司教以上はアレを必ず見せるべきか…」
何度目かのため息を吐くと側に待機していた侍従に指示を申し渡すと執務室へと戻っていった。
現地時間 19:51
「問是 観世音菩薩 一心名称───」
現在のんびり読経中。
えっ?何故般若心経ではなく観音経か?気分ですよ言わせんな恥ずかしい。
まあ、慈悲も何もないのでひたすら「羯諦羯諦波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶」でも良いかも知れないが。
むしろそっちが良い気がしてきたよ?
「おい!居たか!?」
「草原で座り込んでいたという情報は聞いている。間違っても森には行ってないだろう…捜せ!」
何やら兵士達が多分私を捜している。
まあ、無視です無視。
というよりも、何故見つからないのかなぁ?
まさかとは思うけど、アレか?観音経の効力?
ファンタジーにお経持ち込んで有効ってヤバくないですか?
だって観音経ってある意味最強ですから。
と言うわけでそのまま唱え続ける。
ワラワラと兵士達の数が増えているけど、やはり私をスルーしている。
────と言うか多くね?
数十名規模で探しているんだけど…まあ、雑念は捨てて唱え続けましょう。
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