異世界バイト旅~バイトのはずが帰れません(諦め)

御片深奨

第1話 ふぅん…みーちゃん、バイトしない?

「バイトしない?」

 そう言われた場合、主に4パターンの反応をすると思う。


 1.普通にOKする。

 2.何らかの理由で断る。

 3.怪しむ。

 4.断れない。


 だと思うんだけど。

「断りたいんですけど?就職活動したいんですけど?」

「面白いこと言うわね。就職活動、する気あるの?」

「ありますよ」

 2%くらいは。

「絶対一桁パーセントね。しかも四捨五入で0になるレベル」

 馬鹿な!?

「貴方の両親から貴方を譲り受けたから問答無用よ?」

「人、それを人身売買という」

「浮気して身代潰す父親と、現実を見ない母親の元にいたかった?」

「大学卒業してそのまま朽ちて逝きたかった…」

「…みーちゃんどんだけ絶望しているのよ」

 中一の頃からですが何か?


 さて、私の説明をしよう。

 私の名は塚原 雅つかはら みやび(仮)ごく一般的な男のk…男性だ。

 ごく一般的な家庭…は小学校1年の時に崩壊済みなこの度大学卒業したばかりの就職浪人だ。


 一時期は電気ガス水道まで止められてサバイバル生活していたり、小学校高学年の時に二件の冤罪事件で人間の汚い部分の上澄み液くらいは見たつもりだ。

 中学校に入ってマフィア擬きや暴力を生業としている方々の抗争に巻き込まれたり、どこぞの組織が逃走途中に私を人質にしたりとそこそこヘドロな部分に近付きつつあるごく一般的なニートですっ。


「でもアルバイトしないと家、無いわよ?」

「何故?」

「いや、家、物理的にないわよ?」

「何故?」

「だいたい貴方の両親のせい」

「OK把握」

 あのクズ親ども、私の私物も全部処理してドロンしたんだな?

「で、バイトしない?新しい所で心機一転生活できるよ?」

「山や森はありますか?」

「あるわね」

「そこで暮らすか…」

「待って?死ぬか仙人擬きにならないで?アルバイトの話しているんだから」

「自死はしませんよ?あの時貴女に吹っ飛ばされるくらいビンタされましたし」

 ただその結果右耳聞こえんが。

「みーちゃんファンタジーは好きよね?」

「そこそこは」

「異世界モノとかどう?」

 転生ものかな?転移ものかな?召喚ものかな?

「少し前にネット小説界隈で流行り…いやまだ流行っているかな?好きな方ですね」

「で、本題。異世界行かない?」

「あ、了解。トラックの前に飛び出せという比喩表現でしたか。ヨロコンデー」

「自死しないって言った矢先に何飛び込む宣言してるの!?」

「いや、自死ではなく自己犠牲ですよ?そこのところ間違えて欲しくないですねぇ教授プロフェソーラ?」

「その淀んだ目でなければ本当にいい男なのになぁ…」

「お褒めいただき恐悦至極」

「表情もほぼ抜け落ちてるし」

 それはこれまでの生い立ちさんに言ってくださいませんかね?

 道を踏み外していないだけマシと思いません?

「───話を戻すけど、ちょっと実験で次元の壁というか、異世界との扉を開いちゃったみたいなのよ」

 そんなとんでもない事を事も無く言うこの人はこの私設研究所の所長で、結構莫大な私産を自身の趣味に費やしている変人だ。

 広大な土地に研究施設を建てて暮らしているのだ。

「ええ加減にせぇよ残念美人」

「みーちゃん突然の反抗期!?」

「いや、突っ込み入れないと心底駄目な気がした。そんな事ばかりしていると真殊まことくん泣いちゃいますよ?」

「そう!まずはそのまこちゃんとあと1人の3人に行って欲しいのよ!」

「どう考えても厄介な人選じゃないですか。現地にいる人とコミュニケーション出来ない2人の時点でアウトですよね?」

 私はコミュ障判定ギリ出るレベルだが、もう一人は心因的な理由でほぼ喋ることが出来ない。

 そして私は知っている。こんな厄介2人を引率できるような研究所のメンバーは3~4人いるが、恐らくは…

「それに対して彼方かなたくんを護衛兼ガイドに付けるわ!」

「うーわームッチャ嫌なんすけど」

「…みーちゃん本気で彼方くんの事嫌なのね」

「嫌いではないですが、ウザイと嫌いの合間ですね」

 陽キャは私の半径2メートル以内には入ってきて欲しくない。

「いやぁ…君のことは純粋に友達として好きなんだと思うけど」

「3回狙われましたが?3度目は4ヶ月前ですが?」

「……うん。何か、ごめん」

「でも良いんですか?最愛の弟さんをヤベェ2人に任せて。しかも何が起きるか分からない異世界なんて」

「あの子に旅をさせたくてね。あの世界ならしがらみもないし、空気も良さそうだから心身にも、ね」

「異世界と言うからには色々危険はあるんじゃ無いですか?」

 モンスターとか、山賊とか、奴隷商とか、魔法とか。

「勿論危険は満載よ?先にあの世界で衛星を打ち上げているからこちらからサポートも出来るわ」

「え?」

 いや、ファンタジー世界に何持ち込んでやらかしてるの?この人。

「転移するともれなくスキルも得られるし、ステータスも分かる」

 ほう?

「異世界言語は自動で取得できるみたい。読み書き会話出来るわよ?そしてここに戻って来たら…外国語にも適用されるわ」

「なん…だと…?」

「ほらほら、行きたくなった?」

「いや、全然?」

「今までのやりとりは何なの!?」

 いや、だってこれ明らかに厄ネタでしょう?

 バレたら国家権力含め色々大変な事になるぞ?

 異世界の魔法やら、魔法薬やら領土獲得やらで世界が沸く。

 そしてそれが出来るここに攻め入るだろう。

「みーちゃんが思っていること、分かるよ?異世界移動技術や異世界の技術等が欲しくて世界がここに襲いかかる的なことを考えているんでしょ?」

「簡単に言えばそうですね」

「でも私に勝てないよ?」

「は?何て?いや、普通に教授には勝てませんが」

 この人、頭おかしいほど強い。そして自身の頭脳を駆使して様々な武器防具を身につけている。ある地域では『アジアの火薬娘』と恐れられているらしい。何をしたんだ一体…

「この異世界転移技術後に真っ先に向こうへ行ったのは私よ?」

 あ、オチ読めた。

「絶対神スキルや賢者スキル、MP無限とか頭おかしいスキルや加護が付いているに違いないんだ。ご都合主義ラノベみたいに、ご都合主義ラノベみたいに」

「どうして分かるのかなぁ…あと感情入ってない」

 わからいでか。そして感情さん、あんまり仕事してくれないんですよねぇ…

「教授がもとより世界のバグだからですね。知ってました?バグにバグを掛けてもバグにしかならないんですよ?」

「…本当、みーちゃんくらいだよ?私に平然とそう言うのって」

「家族のようなものですからね。辛辣にもなりますよ」

 かれこれ8年くらいか?あの件からは5年…実の家族よりも顔を合わせているのは間違いない。

「その家族の調査を手伝って!」

「…既にマコには俺も同行させる予定って伝えているんですよね?」

「勿論!じゃないとまこちゃん絶対行かないし」

 警戒心の塊小動物なあの子が参加するわけがない。

「あの子の俺に対する信頼度はどうしてカンストしているのか…」

「じゃあさっそくブリーフィングするよ!第4会議室に行こうか!」

 教授が私の腕を引いて第2会議室から第4会議室へと連れて行こうとする。

「何この断れない流れ…」

 私はため息を吐きながら大人しく引っ張られていった。


 第4会議室に入るとそこには少年と青年がいた。

 少年は私を見ると満面の笑顔になり隣の椅子を引いて私を見る。

 そこに座れと?後ろに変態がいるのにか?

 引かれた椅子の後ろの席には穏やかな表情の青年が私に軽く手を振っている。

「さあ座った座った。これからブリーフィングを始めるよ」

 教授はそう言ってホワイトボード前に立ったので、

 俺は入ってすぐのテーブルに腰掛けた。

 途端にシュンとする2人。

「いやそこに居られると説明しにくいんだが?」

「見えますのでそのままどうぞ」

「いやいや」

「見えますのでそのままどうぞ」

「いやあのね」

「見えますのでそのままどうぞ」

「ではブリーフィングを始めるよ」


 さて、ブリーフィングの内容を更にまとめるとこうなる。


 1.転送ゲートから地方都市付近の草原に転送させるよ。

 2.私と真殊には特殊装備等を。彼方には護衛装備渡すね。

 3.転送後、まずは3日でこちらに強制送還されるから宜しく!

 4.貨幣価値は金貨1万円、銀貨千円、銅貨100円程度だよ。


 まあざっくりこんな感じ。

 で、渡された特殊装備というのは私と真殊には3つ。

 ・特殊プロテクター(防御フィールド発生装置)

 ・採取ポシェット(800リットル95キロ収納)

 ・現地貨幣(金貨2枚、銀貨5枚、銅貨10枚)


 そして彼方はこれにプラスして武器類を。

 ・鋼鉄製の刀

 ・MAGPUL PDRと弾薬多数。

 ・爆薬


 殺意高過ぎんか?

 あと、ここ日本よ?法律は?

「今更今更」

 爽やかな笑顔でそう言う彼方(27歳)。

「でしょうね」

 出会いも人質の時でしたしね。

 採取ポシェットに飲料水と携帯食料、簡易医療キットを詰め込む。

「とりあえず3日間適当に生活よろしく!現在も含め監視はしているから」

 監視て。

「どうしようも無い事態になった時、そっちに回収部隊送り込むから」

 その回収部隊のお兄さん方苦手なんですよ…そうならないことを祈ります。


 転送ルームへと入る。

『現地情報だけど、現在あちらは午後1時。ブリーフィングでも行ったけど、ほぼ全ての街の外壁の扉は午後6時に閉まる。そこは注意して欲しい』

 全員頷く。

『現地モニターは…現在の映像がこちら』

 衛星からの映像が映し出される。

 高さ10メートル程の外壁に囲まれた都市で、中に外壁の倍程の城壁がある。

 そこそこ立派な都市だ…が。

「車?と馬?」

『列車とかはないけど、だいたい1880~1920頃のヨーロッパといった感じだよ』

 ジャンルとしては、微妙…

『まあ、車は量産不可能で貴族や大商人の道楽だ。それに通常の車の時速は30キロ。軍用車は50キロ。コスパ的にはまだ馬優勢だし、モンスター便が早い。

 3人とも身分証は持ったかい?』

 全員支給されたカードをカメラに見せる。

『それを見せれば街には入れる。まこちゃんは商家のお坊ちゃん、みーちゃんは付添人、彼方は護衛兼執事。なってる?』

 カードにはノーア商会所属と書かれている。

『その商会は存在するからね?ペーパーカンパニーだけど問題無く使えるよ』

 室内に駆動音が響く。

『さあて、3人とも準備は良いかな?』

「私、まだバイトするって言ってないんですけどね…」

 移動は全て捕まえられてたから帰れなかったし。

 そして真殊が「えっ!?」って顔でこちらを見る。あ、泣きそう。

 頭を撫でるとギュウッと抱きついてきた。

『時給5000円、プラス出来高払い』

「承りました教授」

『宜しい。では、3人とも行ってらっしゃい!』

 視界がホワイトアウトした。


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