第66話 闇宮先生の知り合い
メールには数十分で返信が来て、俺たちは二日後に闇宮先生と会うことになった。
闇宮先生曰く、「門下生が通いやすくなるかもしれない手がかり」は先生の知り合いが持っているとのこと。
その知り合いに闇宮先生が連絡を取ったところ、明後日は予定が空いていたらしく、そこで会う約束を取り付けてくれたのだ。
そして――当日。
闇宮先生から指定のあった牛込神楽坂駅前で待っていると、空から二人の人間が飛んでくるのが目に入った。
一人はもちろん、黒い袴に薄い青のサングラスの女の子。
もう一人は、白衣を着た三十代前半くらいに見える女性だった。
「降ろすよー?」
「うん」
まずは闇宮先生が着地し、白衣の女性に声をかけてから白衣の女性も着地する。
やり取りからするに、白衣の女性は闇宮先生の合氣による補助で飛んでたみたいだな。
「おお、この方が例の……」
「そうだよ、タマちゃんだよー。でっかくてかわいいだけじゃなくて、すっごく強いし飲み込みも早いんだよー」
白衣の女性は、初めて生で見るタマに目が釘付けになった。
闇宮先生はといえば……気心の知れた知人相手にはもともとこういう喋り方なのかもしれないが、その見た目でその喋り方だと本当に幼い女の子に思えてくるな。
そんな闇宮先生も、三秒くらいするとハッと我に返り、俺の方を向いた。
「すいません初っ端からこんなテンションで。まずはお疲れ様です。……ほら、自己紹介しないと」
白衣の女性の裾を引っ張り、闇宮先生は自己紹介を促す。
「あっ、申し遅れました。私、
白衣の女性はそう言って、まず自分の名前と血筋を明かした。
闇宮先生の知人てだけあって、この人も由緒ある家系の人なのか。
「普段はダンジョンとは何ら無関係の研究医をやってるんですけどね。玄白が遺した書物の一つに、もしかしたらタマちゃんの助けとなるかもしれないものがあるので、ご協力させていただければと思いました。なので今日は、ウチの実家の書庫をご案内しますね!」
続けて杉田さんは、どういう形で「手がかり」を持っているのかを説明してくれた。
「ありがとうございます。改めまして、木天蓼 哲也と申します。今日はよろしくお願いします」
「にゃあ(タマにゃ。よろしく頼むにゃ)」
もう既に闇宮先生から色々聞いてるかもしれないが、一応俺達も改めて自己紹介をしておく。
「白実ちゃんの実家、こっから近いんですよ。私がみんな連れて行きますねー」
前置きもこの辺でとばかりに闇宮先生はそう言うと、ふわりと宙に舞い上がった。
と同時に、俺たちも身体が浮き上がるような感覚を覚える。
ここから高速移動が始まるか……と思った俺だったが、意外にも闇宮先生はあまり速度を出さなかった。
それどころか、出発点がまだ見えているうちから高度を下げ始める。
真下を見ると、俺たちは数百年の歴史がありそうな立派な屋敷の庭に向かっているところだった。
「こっから近い」ってそのレベルかよ。
関東地方のどこか、くらいかと思いきやまさかの徒歩圏内とは。
「着きました!」
なんて思ってる間に、俺たちはその庭に到着した。
「こちらです」
着地してからは、杉田さんが先導する形で庭を歩いていく。
「それじゃ開けますね」
そう言って杉田さんが立ち止まったのは……かなり年季が入った感じの、一般の一軒家にもありそうなサイズの物置小屋の前だった。
これが……この由緒ある家の書庫?
と思ったが、杉田先生が物置小屋の戸を開けると、中には何も入ってなかった。
不思議に思っていると、杉田さんは物置小屋の床に手をつく。
「オランダ・オーセンティケーション」
何かと思えば、杉田さんはそんな詠唱を口にした。
するとーーなんと、床がゴトゴトと音を立てて開き、下に階段が現れた。
「い、今のは……⁉︎」
「杉田家に一子相伝で伝わる生体認証魔法です。今日ご紹介する書物もそうですが、重要な家宝はだいたいこの認証魔法で守られた空間で保管してます」
びっくりしたので尋ねてみると、杉田さんからそんな回答があった。
「試しにタマちゃんもやってみてはどうですか? 一子相伝とか関係なく多分いけるんじゃないですかね」
次いで闇宮先生からはそんな提案が。
いやそれ……できたとして、やっていいものなのか?
人ん家の合鍵を勝手に作るような行為にも思えるが。
「あっそれいいですね! 私、こう見えてもう54歳なもんで……子供もいないので、自分が死んだらここを開けられる人がいなくなるの心配してたんです! ヒロちゃんの風林火山も使えたくらいですし、多分いけそうかも!」
……杞憂だったようだ。
むしろ杉田さん本人も乗り気なようだ。
てか、地味に杉田さんも
54でこの見た目ってことは、さてはそこそこ強いな?
今は研究医とのことだが、医学部の部活はかなり体育会系らしいし、昔はダンジョン部のエースだったとかありそうだ。
などと考えていると、物置小屋の床が閉じた。
認証の時間制限でもあるのだろうか。
「おっ、閉じましたね。じゃあお願いします!」
予想は合っていたようで、杉田さんはそう言ってタマを物置小屋の目の前に誘導した。
「にゃあ(やってみるにゃ)」
タマは右の前足を伸ばし、床に触れる。
「にゃにゃんにゃ、にゃあにゃんにゃにゃあにゃん(オランダ・オーセンティケーションにゃ)」
タマがそう唱えると……先ほどと同じく、床がゴトゴトと音を立てて開き、下に階段が現れた。
「「おお〜!」」
声をハモらせつつ、タマに拍手を送る闇宮先生と杉田さん。
「やったな、タマ」
「にゃあ(こんな感じかにゃって思ったらできたにゃ)」
俺はタマの頭を優しく撫でた。
それじゃ、引き継ぎも上手くいったことだし。
いよいよ、手がかりとなる書物とのご対面だな。
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