第61話 伝承! タマ流ニャイ氣体術
「にゃ(では……タマのオリジナル武術、『タマ流ニャイ氣体術』の伝承を開始するにゃ)」
タマはそう宣言した後……カメラに向かってこう続けた。
「にゃ(今回はリアルタイムで字幕が出るようにしてるから、字幕オンで見るのを推奨するにゃ)」
どうやらここからは、タマが通信に介入して配信に字幕を出してくれるようだ。
確かに、この企画に関してはそうしてくれるのが視聴者にとってありがたいだろうな。
普段は必要に応じてタマの鳴き声の内容を俺が通訳してるが、正直(おそらく相当難しいであろう)タマの武術理論をその方式で正しく伝えきれる気がしないし。
「皆さん、タマが字幕を出してくれてるので、字幕オフで見てる方はオンに切り替えてください」
俺はそうアナウンスした。
タマは小さく頷くと、再びステラちゃんの方に顔を向けた。
「にゃ(まず最初は、この武術の原則からにゃ。この武術には……『呼吸』『姿勢』『調和』『意念』の四大原則があるにゃ」
「にゃ!」
タマが説明を始めると、ステラちゃんはしきりに頷きながら話に聞き入った。
「にゃーん(正しい呼吸により全宇宙から力を取り込み、正しい姿勢によって全宇宙に力を返す。そのダイナミズムは『調和』により際限なく大きくなり、さらに森羅万象の理解にも繋がるにゃ。そして、それらの根幹にあるものこそが『意念』――ということにゃ)」
早速、説明はとても抽象的な内容へ。
:?????
:何言ってるか分かんなくて草
:これ字幕の内容合ってる?
:全宇宙とか壮大すぎて訳分かんねえw
:開始数秒で置いてけぼりにされるとは思わなんだww
視聴者たちは既に理解を放棄しだしていた。
うん、俺も武術解説で初っ端から宇宙とか出てくるとは思わなんだよ。
「にゃあ?」
「にゃあにゃあ!(良い質問にゃ! その通り、ただ力を取り込んで返すだけじゃ意味ないにゃ。『意念』によって、自分にとってプラスになる力を取り込み、マイナスになる力を返す。いわば『意念』は『呼吸』や『姿勢』にとっての肝臓や腎臓みたいなもんにゃ!)」
一方、ステラちゃんは何やら質問を投げかけ……その鋭さをタマにベタ褒めされていた。
ちゃんと理解追いついてるのか……。
これが俺たち一般人と、「因果律操作で選ばれた武術の素養がある猫」の差か。
「にゃ(じゃあいよいよ、具体的な身体操作の説明に入るにゃ。まずは四大原則の一つ目でもある呼吸法から)」
「にゃあ!」
「にゃあ?(腹式呼吸はできるにゃ?)」
「すぅー……にゃ!」
「にゃ、ごろにゃーん(上出来にゃ。今、呼吸の時に横隔膜に力が入るのを感じたはずにゃ。そしたら次は……ヒゲから肉球まで、全身が横隔膜だと思って呼吸してみるにゃ)」
「にゃあ!」
よし、今回は腹式呼吸までは理解できたぞ。
「肉球まで横隔膜」については……そもそも俺には肉球が無いので、感覚的に理解できないのはしょうがない。
「にゃ(そうにゃそうにゃ。これができると、全身が一つの丹田になって……高次元の宇宙からエネルギーを受け取れるようになるにゃ。受け取れるエネルギー量は、丹田の完成度に比例するにゃ」
「にゃん!」
「にゃ(じゃあしばらく練習してみるにゃ)」
説明パートは一旦休止で、ここからは今までのレクチャーの内容を反復練習する時間へ。
「横隔膜に力を入れるっていうのは、私もボイトレでよく習いましたが……全身を横隔膜にというのは斬新ですね……」
練習を見ながら、ネルさんは久しぶりにアイドルらしさを感じる感想を口にした。
「ま、まあ、同じ『呼吸』でも歌と武術ではニュアンスが違うんでしょうね」
「確かにそうですね。とはいえ武術でも、『全身を丹田に』なんて流派は相当珍しいかと思いますが……」
「なるほど」
「全身を丹田に」が珍しいかはともかく、丹田を高次元の宇宙に繋げるなんてのは他のどの流派にも無いだろうな。
などと思いつつ、ふとコメント欄を見ると……いくつか興味深いコメントが流れていた。
:丹田の概念壊れる
:この理論を思いつく方が異次元なのは前提として、すんなり理解できる方も大概だよな……
:てか、心なしかステラちゃんのサイズちょっとデカくなってね?
:確かに
言われてみれば……初対面の時より一回り大きくなっているような。
「タマ、これはいったい……?」
「にゃ(あー、実はこの呼吸法、練度に応じて少しだけ全身が大きくなるにゃ)」
聞いてみると……どうやら気のせいではないようだった。
「にゃ(ステラちゃんの場合、最大で今のタマと同じサイズまで到達するにゃ。もっとも、サイズが変わるのはこの呼吸法で呼吸してる時だけにゃ)」
続けて、タマはそう詳細を説明する。
そういうもんなのか。
とするとーーあっ、なるほど。
「にゃ(ちなみにタマは素でこのサイズにゃ。呼吸法を使えばもっと大きくなるにゃ)」
タマの巨大化に合点がいったぞ、と思いポンと手を叩いたところ……そんな俺の様子を察して、タマは訂正を入れてきた。
関係ないんかい。
「にゃ(やってみたらこうにゃ)」
タマが一旦目を瞑り、呼吸を整える時……一瞬にして、二階建てのスーパーくらいのサイズにまで大きくなってしまった。
おうふ、そこまでデカくなるんか。
てか服を着たままそこまでデカくなったら、キャットウェアが破れてしまうんじゃ――いや、問題なさそうだな。
「タマ、服は……」
「にゃ(素材監修の時に伸縮性の因果律も変えてるから問題ないにゃ)」
「そ、そういうことか……」
因果律操作にまだ続きがあったとは。
「にゃあ(この呼吸をすれば、サイズがデカくなるだけじゃなくて体の頑丈さや敏捷性も上がるにゃ。とりあえずステラちゃんは、虎くらいのサイズになれたら次のステップに行こうにゃ)」
「にゃ!」
タマは元のサイズに戻りつつそう言った。
それからしばらくは、また反復練習が続くこととなった。
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