第60話 本題の前にキャットウェアの宣伝を
次の日。
午前中にまつもとリテイリング本社に赴き、ネルさんのペットの分のキャットウェアを用意してもらった俺たちは、コラボのために昨日整備した無人島へ向かった。
無人島に到着してから、特注キャットウェアの着用などをしつつ30分くらい待っていると、おなじみの落雷とともにネルさんが到着する。
その腕には、子猫から成猫になりつつあるくらいのサイズの三毛猫が一匹抱えられていた。
「お疲れ様です哲也さ――」
その三毛猫は――タマと目が合うなり、いきなりピョンと腕から飛び出し、タマに向かって猛ダッシュしてきた。
尻尾をピーンと立てたまま、タマの足元にスリスリとすり寄る。
「あはは……ステラったらもう、憧れのお師匠様に会えてすっかり有頂天みたいですね」
「それは何よりです」
電話口でもタマに憧れてるっぽい話は聞いていたが、ここまで会った瞬間から懐いてくれるとはな。
俺としても嬉しい限りだ。
「にゃーん!」
「にゃあ(うむ、今日はよろしくにゃ)」
タマは大きな肉球でそっとステラちゃんの頭を撫でた。
「そういえば……これが例の案件のキャットウェアですね。企業側も、こんな巨大なのをオーダーメイドで作る日が来るなんて思ってもみなかったでしょうね」
ネルさんは、キャットウェアに関心が移ったようで……タマの側に来ると、キャットウェアを触って感触を確かめだした。
「これはですねぇ、大きさだけじゃなくて素材もタマが監修して特注で作ってもらったものなんですよ。なんか技術提供とかも要所要所でしてたみたいで……開発部の方々も『こんな奇跡みたいな素材ができるなんて』とか言ってましたね」
せっかくの機会なので、俺はここぞとばかりに制作秘話を語っておく。
そうこうしていると……突如ステラちゃんがピョンピョン跳ねながら鳴き始めた。
「にゃあ!」
「どうした?」
「にゃ(ステラちゃんも着たいって言ってるにゃ)」
何かと思えば、タマがそんな日本語訳を口にする。
「え……珍しいですね。猫ってキャットウェアをあんまり着たがらない子の方が多い印象なのに、自らアピールするなんて……これもタマ先生への憧れからでしょうか?」
「にゃ~お(いや、多分タマが素材監修の時に、猫が着たがるよう因果律操作をかけたからにゃ)」
不思議に思うネルさんに、タマはそう解説を加えた。
待て。因果律操作の話は俺も初耳だぞ。
いやちゃんと開発部とのやり取りを聞いて入ればその時言ってたんだろうが……あまりにも材料工学の専門的な話になり過ぎて、途中からついて行けてなかったんだよなあ。
「あ、へぇ!? 技術提供って、そのレベルで根本からがっつりと!?」
ネルさんもあまりにびっくりして変な声が出ていた。
「にゃ(当然にゃ。スポンサーの売上は案件収入に直結するからにゃ)」
まあ、確かにそう言われればそうなんだが。
何にせよ、これは重大な宣伝ポイントだから、しっかり配信でアピールしないとな。
配信開始時刻まではあと5分ほどあるが……既に待機部屋の同接数も10万を超えているし、これだけ着たがってる状態のステラちゃんの様子もカメラに収めたいから、もうフライングで始めちゃうか。
「ちょっと待ってね。カメラ回ったらすぐ出してあげるから」
「にゃん!」
「じゃあネルさん……少し早いですが始めますね」
「え、ええ」
俺は配信開始ボタンを押した。
「どうもー、『育ちすぎたタマ』チャンネルへようこそ。こちらのかわいいもふもふがタマで、私が飼い主の哲也です」
まずは恒例の挨拶から始め、企画の説明へ。
「今日はタイトルにもあります通り、タマが猫向けの武術を開発したとのことで、実際にその武術を猫に教えてみよう! という企画になっております。そうなると今回は、教える側の猫が必要になるわけですが……ここで飼い主に登場していただきましょう! 旋律のネルさん、どうぞ!」
「ど〜も〜! 『レスポールさえも凶器に変える女』、旋律のネルで〜す! 実は私、タマちゃんに救われた時から自分でも猫を飼いたいと思ってて……この度飼うことに決めましたー! こちらがうちのステラでーす!」
俺の企画説明に続き、ネルさんはステラちゃんを抱えながら自分の挨拶を口にした。
「タマちゃんとしても、私に猫を飼ってほしかったみたいで……ここ最近、タマちゃんの仕業で私のスマホの広告が全部ペットショップ関連になってたんですよね。タマちゃんと違ってなんの変哲も無い猫ですが、とってもかわいいことには変わりないので大切に飼っていきます!」
:おお、ネルちゃんも猫を飼ったか笑
:とんでもないステマで草
:ステマで飼われたステラちゃん、なんちゃって()
:↑なんか氷河期来たな……
:そ う そ う 変 哲 が あ っ て た ま る か
「にゃ(なんの変哲も無いことはないにゃ。ネルちゃんが武術のポテンシャルが高い猫を選ぶよう因果律を変えてたにゃ)」
「あ、あの、今のは訂正です……。私、タマちゃんの采配で自分でも気づかずに武術の素質がある猫を選んで飼い始めたみたいです……!」
:な ん じ ゃ そ り ゃ
:変哲あって草生える
:裏で調整入ってるのは流石に笑うしかないw
:wwwwwww
ひとしきりネルさんの経緯の説明が済んだところで、俺は案件の話へと入ることにした。
「というわけで、今日のメインはタマによるオリジナル武術の伝承なんですけども。皆さん見ての通り……今日ちょっとタマの様子がいつもと違いますよね。実は今回……タマ監修で、まつもとリテイリング社に作っていただいたキャットウェアを着てるんです!」
:きゃわいいいい!!!
:甲冑姿も良かったけどこれも良き
:タマちゃんほんと何でも似合うな
:しかしまあよくこんなデカいの作ってもらえたもんだ
「実はこのキャットウェア、タマが素材から監修した特注仕様になっておりましてね……素材の因果律を調整して、猫が自発的に着たがるようになっているんです」
「ほら見てくださいよ。うちのステラも、ずーっとタマちゃんの服に視線が釘付けで……配信始まる前からずっと欲しそうにしてたんです!」
「では、今回は急遽まつもとリテイリング様にてステラちゃんの分も用意してもらったので……早速開封しましょうか!」
「にゃ(任せるにゃ)」
開封する話の流れになると、タマが念力でキャットウェアの入った段ボールを浮遊カメラの前に持ってきた。
そして、念力で包装を剥がしてキャットウェアを広げて見せる。
「では、これを来てもらいましょう!」
ステラちゃんがネルさんの腕から飛び出すと、タマはそれに合わせてキャットウェアの位置を調整し……スポッとはまるように着る形となった。
:すげえええ
:え、これ欲しすぎる
:うちの子服着るのめっちゃ嫌がるから諦めてたけど、これは試す価値あるかも!
:にしてもタマちゃん、今回も例にもれずサラッと異次元なことしてて草
:タマちゃん、ぜひ弊学に材料工学の特任教授としていたしてください()
コメントを見る限り、猫を飼ってる視聴者たちの反応も良さげだ。
じゃ、案件としての効果はこれでバッチリだと思うし。
本題の「タマのオリジナル武術」について、俺もまだどんな物なのか知らないので配信がてら視聴者たちと一緒に見させてもらうとするか。
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