第59話 道場を作ろう

「とりあえず、告知はこれでオーケーだな。で……道場の場所はどうする?」


 俺は改めてタマにそう問いかけた。

 すると……タマにはあらかじめ考えがあったようで、こんな答えが返ってきた。


「にゃ(テツヤさえ良ければ、この無人島を買いたいにゃ。買ってくれたら、ここの整備は自分でやるにゃ)」


 鳴き声と共に、俺のスマホの画面には一個のウェブサイトが映し出される。


「む、無人島……?」


 まさかの選択肢に、思わず俺はそう聞き返してしまった。

 道場を建てる時にはまず出てこない選択肢だと思うんだが……いったいどこからその発想に至ったのか。


 ……いや、考えてみれば妥当性は無くもないか。

 もし、タマの武術が地形が変わるレベルで強力なものだったとしたら……既存の体育館を借りるなんて間違ってもできない。

 それどころか、地続きだと遠くにまで揺れが及ぶような大技も教えるのだとしたら、「山奥の廃校舎を再建して道場に」とかでさえ厳しいものがあるかもしれない。

 そうして消去法で無人島に考えが至ったのであれば、おかしなことでも何でもないな。


 そうなると今度はアクセスが悪くなってしまうが、それもタマであれは「む〜とふぉるむで送迎する」なり何なりでどうにかできてしまうし。


 さて、じゃあまあ無人島を道場予定地にするのは一旦良しとして……タマのいう「候補」とやらを見てみるか。


 面積は600坪ほどで、見た目は岩山って感じだな。

 地盤の頑丈なところを候補にしたのだろうか。

 お値段は3000万円と。

 高いと言えば高いが、ここまでの稼ぎは完全にタマのおかげだし、今なら現金一括で手が届く額なので買うことには何の問題もないな。


 買うにあたっては……購入資格が定められているのか。

 条件は「Sランク探索者」あるいは「国境なき探索者」資格保有者……って、なんでこんなダンジョン関係の資格が購入条件になっているんだ⁉


 不思議に思って改めて頭からサイトを見返すと、このサイトは迷宮協会が運営しているものだった。


「迷宮協会って、島の売買とかもしてるのか……」


「にゃ(敷地内にダンジョンがある無人島は、探索者が購入して個人所有になったものを除いて基本的に迷宮協会の管轄にゃ)」


 俺が独り言を呟くと、タマが解説を入れてくれた。


 島にダンジョン……あ、確かに特記事項のところに「危険度C相当のダンジョン1つあり」って書いてあるな。

 習ったことをそのまま実戦で活かせるように、ダンジョン併設の道場にしようってわけか。


「にゃ〜ん(迷宮協会所有の土地の場合、条件を満たした探索者が買う時は簡略化した手続きで即日引き渡ししてもらえるにゃ。だから、早ければ明日には整備に入れるにゃ)」


「なるほど」


 稽古用の設備が充実しているだけでなく、契約のスピード感というメリットもあって一石二鳥だと。


「もちろん、タマのためならこれくらいのお金は出すさ。明日買いに行こうか」


「にゃあ!(わーいにゃ!)」


 こうして、無事道場建設予定地の目処は立ったのだった。


 ◇


 翌日の昼。

 午前中に迷宮協会での手続きを済ませた俺たちは、早速購入した無人島へと足を運んでいた。


「ここか……」


 ほんと何と言うか、ごつごつとした岩山だな。

 果たしていったいこれからここがどうなるというのか。


「にゃ(少し離れて見ててにゃ)」


 まずタマはそう言うと……おそらく俺の丹田を共鳴操作しているのだろう、俺はふわりと空中に浮き、タマから後方10メートルほど離れたところで静止することとなった。


「にゃ(夏メテオ)」


 そして――なんと、タマはいきなり無人島に隕石を投げつけた。


「……え?」


 あれ……せっかくダンジョン付きの無人島を買ったのに、破壊しちゃうのか?

 タマとしては別にダンジョン付きの土地が欲しかったのではなくて、ただスピーディーに手続きできる土地を狙ってただけだったのだろうか。


 いや……よく見ると、詠唱を省略している関係か威力はアメリカの時ほどではなさそうだな。

 単純にダンジョンの危険度が低い分この程度の威力で大丈夫ということなのか、それとも……。


 固唾を呑んで見守っていると、隕石が無人島にぶつかり……岩でごつごつしていた島のフォルムは跡形もなく、真っ平らな台地へと変貌していた。


「ダンジョン……いらなかったのか?」


「にゃあ(いや、完全には破壊してないにゃ。もうほぼ機能してないけど、一応ツボを刺激すれば任意のモンスターを出せるにゃ)」


 尋ねてみたところ……どうやら隕石を落とした目的は、ダンジョンの破壊ではなく機能の調整だったようだ。

 詠唱を短縮したところに違和感はあったが、やはり意図あっての手加減だったってわけか。

 それでちょうどそんな「生かさず殺さず」的な塩梅にできるあたり、なんとも器用なこったと思うが……。


 ともかく、これで「任意のモンスターを出せるように」なったってことは、弟子の成長具合に応じて実戦相手を用意できるようになったってわけだな。

 確かに、習いたての頃は普通の猫にとって危険度Cじゃ厳しすぎるだろうし、これは良い改変な気がする。


「にゃ」


 更にタマが小声で鳴くと、一面ツルツルの岩石だった島の表面が芝生で覆われた。

 硬い地盤は残しつつ、怪我しないように表面の硬度だけ調整した……ってところか?


「にゃ(これでできたにゃ)」


 どうやらもう完成のようだ。

 道場というと、どうしても瓦張りのドンと構えた建物みたいなのを想像してしまうが、タマはあくまで機能だけこだわって形式的な部分は気にしないタイプみたいだな。


 ともあれ、これで明日ネルさんのペットを迎えてコラボ配信できる準備は整ったな。

 実際どんな武術なのかは、明日のお楽しみだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る