第58話 タマの構想とネルさんの新しいペット
「ね、猫向けの武道……?」
「ごろにゃあ〜(最近暇だったから、身体操作を猫に最適化した武術を作れないか考えてたにゃ。だいたい理論は完成したから他の猫に教えてみたいにゃ)」
とりあえずオウム返しで詳細を聞いてみると、タマはそう答えた。
俺が何となくただのんびり過ごしてる間にそんなことを考えていたとはな。
しかも、もう実際に他の猫に教えられる段階まで来ていると。
どんな理論かは全く想像もつかないが、まあどうせ聞いたところで俺じゃ理解が及ばないだろうからそこは一旦置いとこう。
闇宮家の鍛錬みたいな超絶スパルタではないことだけは願っておきたいが。
まあ、タマがやりたいと言うならそれは一向に構わない。
しかし、急に道場を開くと言われても、まず何から始めればいいんだろうな。
集客……はまあ告知動画でも上げればなんとかなるとして、闇宮先生みたいに先祖代々の稽古場とかを持ってるわけではないので、道場の建設(というか土地探しから?)もしないといけないか……。
「良いけど、どうやって猫たちに道場の存在を知らしめるんだ? 飼い猫限定でいいなら動画で告知できるが……。あと、場所はどうする?」
「にゃあ、ごろごろ(まず告知については、一個いい考えがあるにゃ。ネルちゃんが飼ってる猫を一番弟子にすれば、コラボ配信で告知できるにゃ)」
そのへんの考えを尋ねてみると、まずタマは告知の計画をそう語った。
なるほど、それはいい考えだな――って、ちょっと待て。
ネルさんってそもそも猫飼ってたっけ?
もし飼ってるならこれまでの会話で一度は絶対そういう話になってるはずだが、そんな記憶は一つも無い。
「ネルさんが……猫を飼ってる?」
「にゃあ(この企画のために、ネルちゃんのスマホの広告が全部ペットショップの広告になるように調整してたにゃ。そろそろ飼ってるはずだから、電話して聞いてみるといいにゃ)」
聞いてみたら、まさかのそれも全部タマの計画のうちだった。
いや、やり方が強引すぎるだろ……。
メッセージに政治性こそ含まれてないものの、手法がほぼほぼプロパガンダのそれなんだよなあ。
うーん、まあじゃあとりあえず本当に今のタイミングで既に猫を飼ってるのか聞いて確認してみようか。
ゲラゲラ動画を開いて生配信中でないことを確認すると、俺は電話をかけた。
「あ、もしもし哲也さんどうしました?」
「突然すみません。タマから『ネルさんが猫を飼い始めたか確認してほしい』と言われたので電話してみたのですが……」
「なるほど、そういうことですか! そうなんですよね、実は私、タマちゃんに救われてからずっと、自分も猫を飼ってみたいなあってひっそり考えてはいたんです。そんな中、ここ一週間ほど『天啓か』ってレベルで猫の広告ばかり出るようになったんで、遂に昨日意を決して一匹お迎えしたんですけど……もしやあの怒涛の広告、タマちゃんの采配でした?」
「あ、仰る通りで……」
おそるおそる聞いてみると、ネルさんは全て合点がいったと言わんばかりに的確に真相を言い当ててきた。
なるほど、タマが広告戦略を始める前からネルさん自身も心の奥底では猫を飼いたいと思ってて、それを後押しする形ではあったのか。
ゴリ押しで無理強いさせちゃってないか少し心配ではあったのだが、それならまあ安心だな。
などと思っていると、ネルさんは更に予想を続ける。
「もしかしてタマちゃん、うちの子をコラボ配信に出してほしいとか思ってる感じです? うちのは普通の猫ですし、アイドルがペットで再生数取ろうとすると賛否両論が出そうなので、自分では特に配信に出す予定はなかったのですが……」
……察しがいいな。
「ええ、実は。それも、タマが『猫なら誰でも習得できる武術』を発明したようで、その一番弟子になってほしいとのことで」
話の流れ的にもちょうどいいと思い、俺は今回の相談の核心部分を話した。
ただし、動画に出演させることに関しては消極的っぽい感じが引っかかったので、
「でも、良いんですか? 元々動画に出すつもりがなかったんでしたら、こちらも無理にとは言いませんが……」
と一応言い添えておく。
すると、ネルさんはこう返事してくれた。
「あ、全然構いませんよ! タマちゃんのお願いというのが前提にあれば、動画に出演させたからと言って私に批判が来ることは無いでしょうし。それにうちの子……ステラって名前にしたんですが、タマちゃんの動画見せたら目をキラキラさせてぬいぐるみに猫パンチとか始めるんですよね。威力は普通の猫ですが。タマちゃんの強さに憧れてる節はありそうなので、むしろ喜ぶかもしれません!」
「な、なるほど」
そんな経緯があったとは。
確かに、もし本当にタマの強さに憧れてるとすれば、まさに一番弟子に相応しいことこの上ないだろう。
というかタマの場合……「そういう性格の子がネルさんの元に来るよう調整」していたとしても不思議ではないんだよなあ。
「ありがとうございます! じゃあ、その内容で今度コラボ配信をお願いできますか?」
「ええ、もちろんです! こちらのスケジュール的には、最短の空きは……明後日とかで良いですかね?」
「ではそれでお願いします」
あ、そうだ。
そういえば、猫用武術の話で危うく忘れかけていたが……その前に、キャットウェアの案件配信のことを考えないといけないんだった。
先方の企業からは「案件動画の企画内容はコラボ配信でも何でもご自由に」と言われているし、ここにそれも混ぜていいか聞いてみようか。
「ついでに一件、今度配信でまつもとリテイリングのキャットウェアの宣伝もすることになっているのですが……それをコラボ配信の時に併せてさせてもらっても?」
「全然いいですよ! そういうことでしたら、私も配信までにステラ用に一着買っといた方が良いですかね?」
「あーそれは……わざわざ買っていただくのは申し訳ないですし、先方から『案件用に追加で欲しければ相談ください』と言われてるんで、こちらで手配できないか聞いてみます!」
「かしこまりました!」
案件を混ぜる話も、こうしてトントン拍子で決まった。
「突然お電話してすみませんでした。ではまた明後日!」
「いえいえ! こちらこそよろしくです!」
いい感じに話もまとまったので、俺はここで電話を終了した。
さて、残る課題は……道場の場所やら設備やらをどうするか、明後日までに決めないとな。
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