第57話 タマの新しい趣味

 闇宮先生とのコラボから一週間が過ぎた。


 ここ一週間の出来事を振り返ると、まず俺はコラボの翌日、迷宮協会に足を運んでから水原さんとキャットウェア案件の相談をした。

 迷宮協会に行ったのは、コズミックドラゴンからドロップしたカプセルを売るため。

 ダンジョン破壊の際の黄金カプセルと同じく手元に置いておくことも考えたが、せっかく闇宮先生が支部長にメールしてくれたのにそれを無碍にするのも違うと思ったので、今回は売ることにしたのだ。


 コズミックドラゴンのカプセルは、一応売れるには売れた。

 といっても、戦利品アップグレードのかかった封鎖級のドロップ品など前例が無いため、「当日は暫定の換金額を受け取るに留まり、正式な報酬は後日査定が完了してから差額を受け取る」という形になったが。


 暫定の報酬ですら5000万円も支払われたので、どうやら協会側はカプセルの中身に相当な期待を寄せているようだ。

 ちなみに万が一正確な査定額が5000万円を下回ったとしても、差額の返還が求められることはないのだとか。


 まあとは言え、タマが言うには中身は「全世界の天候を好きに操作できる水晶玉」とのことなので、最終的な査定額が5000万円を下回ることはほぼ考えられないだろうがな。


 そんな感じで迷宮協会での手続きが終わった後は、キャットウェア案件について動くことに。

 とりあえずどこかへ話を繋いでもらえないかくらいの軽い気持ちで水原さんに連絡をしてみたところ……どうやらまつもとペットフードの関連会社がキャットウェア事業をしているとのことで、水原さんはその企業から俺に案件が回ってくるよう手配をしてくれた。

 そこからはトントン拍子で話が進み、翌日にはキャットウェア事業を手掛ける会社(まつもとリテイリングというらしい)との打ち合わせがの予定が組まれ、タマ仕様の巨大キャットウェアを一着無償で提供してもらえることとなった。


 見た目も素材もタマのこだわりがふんだんに採用され(というかもはや「タマ監修」と言って良いレベル)たので、俺としては案件報酬とか以前にもうこの時点で満足なくらいだ。


 それからの数日間は、久しぶりにちょっとゆっくりしていようと思い、掲示板を見たりなんだりしてタマと一緒にのんびりくつろいだ。

 あ、そういえば掲示板と言えば……なんか「戦国時代にタイムトラベルして武田信玄と当時の闇宮家の関係を配信してほしい」みたいなことが書かれてたな。


 掲示板では「タマの力でタイムトラベルした場合、この世界線の過去が見れるのかそれとも並行世界が誕生してしまうのか」が議論されていたが、結論タマ曰く「因果律の調整次第でどっちにもできる」らしい。

 ただ、並行世界を誕生させない(=この世界線の過去に行く)場合はタイムトラベル中の行動次第で歴史が大きく変わってしまうリスクがあるのだそうだ。


 そのことをトゥイートしたら、リプ欄は「じゃあ見に行かなくていいです。怖いんで」みたいな意見で満場一致してたな。


 そんなこんなで、今日もちょっと良い刺し身を買い出しに行ってタマと食べつつのんびりしていたところ……トラックが近くで停まる音と共に、家のインターホンが鳴った。


「はい」


「まつもとリテイリングからのお届け物です」


「にゃ(すぐ受け取るにゃ。もう手を離して大丈夫にゃ)」


「……え? 今どこから声が?」


 配達の人が困惑している間にも、タマは念力でドアを開けつつ荷物の段ボールを部屋の中まで浮遊移動させた。


「にゃ(ありがとにゃ)」


「ええと、それでは失礼します。……あー、なるほどここがあの猫のねー……」


 インターホン越しに、配達員が何やら独り言を呟く声が漏れ聞こえてくる。

 一体何に納得したのだろうか。


 タマは更に念力でガムテープを剥がし、段ボールの中身を取り出した。

 入っていたのは、企業案件でもらったタマのキャットウェアだ。

 タマの意向で、見た目は海賊っぽい仕様になっている。


「……届いたか」


 さて、こうなるとせっかく案件用の衣装を貰ったのに配信まで日を開けるわけにもいかないし、そろそろ次の配信について考えないとな。

 どんな配信だと数字が取れるだろうか。


 などと思案していると……おもむろに、タマがこんなことを言い出した。


「にゃあ、ごろにゃ〜ん(タマも闇宮先生みたいに道場を開きたいにゃ。猫向けの武道を教えるにゃ)」


 ね、猫向けの……武道?

 いったい今度は何を考えているのやら……。

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