第62話 伝承! タマ流ニャイ氣体術②

 三十分ほど、ネルさんが雑談で場を持たせてくれた後……ステラちゃんが小ぶりの虎くらいのサイズになると、タマが「一旦今日は合格にゃ」といい次の内容に入ることとなった。


「にゃ(今のステラちゃんの様子だと、タマのサイズになれるまでには3か月ほどの自主練が必要にゃ。ま、それでも相当早い方にゃ。これから毎日、ちょっとずつでも自主練をしておいてほしいにゃ)」


「にゃあ!」


「にゃ(良い心意気にゃ。では次に……四大原則の二つ目、『姿勢』に入るにゃ)」


「にゃあ!」


「にゃ〜ん……にゃにゃ、にゃにゃにゃんにゃ(『姿勢』といっても……別にこれは、決まったポーズを取れとかそういう話ではないにゃ。大事なのは、骨や臓器といった体の組織を正しく連動させ、しっかりとした『軸』を形成することにゃ。……ここ、ツボにゃんで)」


 タマはそこまで説明すると、ダンジョンのツボを刺激し……斧を持った巨人のようなモンスターを生成した。


「あ、あれは危険度Aのアックスティターン……あんなの呼び出して何するつもりでしょう?」


 出てきたモンスターを見て、ネルさんはほんの少し引きつった表情でそう呟く。


「にゃ(さっき、『正しい姿勢によって全宇宙に力を返す』と説明したと思うが……例えば、『姿勢』を極めるとこういうことができるにゃ)」


 アックスティターンというらしいその巨人は、斧を上段に構えてタマに迫り……タマの額に向かって斧を降ろした。

 が……斧はタマの額に触れた瞬間、勢いを完全に失って静止した。


「にゃ(あの斧が持つ運動エネルギーはタマにとってマイナスになる力なので、『姿勢』を通じ、『意念』により選択的に全宇宙に散らしたにゃ)」


 そう言って、タマは今起きた現象について解説する。

 ……おいおい。タマのことだからあんな巨人に何されても無傷で済むって頭では理解してるけど、それでも心臓に悪いわ。勘弁してくれ。


「にゃ(ちなみに今、この巨人は斧を通じてタマと合氣的に繋がっているので、『姿勢』によって巨人の生命エネルギーを全宇宙に散らすことも可能にゃ。それをやると……ほら、巨人は死んだにゃ)」


 そしてタマがそんな補足を口にしたかと思うと……アックスティターンはカプセルへと姿を変えてしまった。

 てっきり防御系の技かと思って聞いてたら、そんなエゲツないカウンターにまで応用できるのかよ……。


 :今 何 が 起 こ っ た

 :【橙】これは酷すぎるwwwww(褒め言葉) ¥5,000

 :前半は百歩譲って理解できる けど後半は……ほんまに武術の範疇か⁉

 :存在そのものを消力シャオリーするとか流石に草

 :【赤】タマちゃんは猫にしてGOATだぜ (訳:タマ) $300


 視聴者のみんなも唖然としているようだ。

 存在そのものを消力シャオリー……なんか当面頭にこびりつきそうだなそのパワーワード。


「にゃあ! にゃあ?」


「にゃ(ここまで極めるのにかかる時間? そうだにゃ……ステラちゃんなら一年と少しで行けるかにゃ)」


「にゃー!」


「にゃあ、にゃ〜お(そうにゃ、続ければ必ずできるようになるから、毎日練習を続けてほしいにゃ。肝心の練習方法は……とりあえず基礎編では「型」の練習をやるにゃ。最初は念力でサポートするにゃ)」


 タマの大技を目の当たりにし、大興奮な様子のステラちゃん。

 タマは体を捻ったり、ユラユラしたりしながら「型」とやらを教えだした。

 人間には健康体操っぽいようにしか見えないが……ああ見えて実はすごい繊細な身体操作をやってるんだろうな、多分。


 :闇宮先生のトゥイート見た?

 :見た見たw 「猫ってそうやったら軸が整うんだ。勉強になる」とか言ってて草

 :これが教材になる方も大概どうかしてるぜ()


 前言撤回。「人間には健康体操っぽいようにしか見えない」と思ったが……ちゃんと理解できる人間もごく一部存在したようだ。


「にゃ(ちょっとそこで練習続けておいてほしいにゃ)」


 タマはそう言うと、一瞬どこかへ行き……コップ一杯の水を持って戻ってきた。


「にゃ(もう少し練習したら、これでテストするにゃ。一旦、これを凍らせるとこまでできたら、次のステップに進もうと思うにゃ)」


「にゃあ!」


 こうしてまたしばらく、反復練習が続くこととなった。

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