第54話 闇宮先生の究極奥義②

「わあ……なんだあれ」


 ドラゴンのあまりにも異様な見た目に、俺は一周回ってそんなコメントしか出せなかった。


 ドラゴンの全身の銀河の模様、よく見るとちょっとずつ動いているんだよな。

 身体の模様が変化し続ける生物なんて存在するのか?

 綺麗っちゃ綺麗だが、なんかちょっと不気味だな。


「えぇ……これをスポーンさせちゃうんですか……」


 一方闇宮先生は、呆れ気味にため息交じりの声でそう呟いた。


「いくら何でも、危険度Aのダンジョンでコズミックドラゴンにお目にかかることになるなんて思いませんでしたよ? どれほど強烈な思と念でダンジョンに活法の刺激を入れれば、危険度Aから封鎖級中層の個体を出せるんですか……」


 どうしたのかと思えば、どうやらコイツは相当上位の敵のようだった。

 まあ、見た目のインパクトからして薄々そんな気はしていたが……まさか危険度Sをすっ飛ばすほどとはな。


 :かっけええええ!

 :【黄】見た目がやべえ笑 ¥3,500

 :【橙】こんなロマン溢れるモンスターを出せるとは! 流石タマちゃん! ¥6,000

 :えっ今封鎖級って言った?

 :流石にヤバすぎやろ……


 コメント欄を見てみると、ドラゴンの見た目に言及する者と危険度に言及する者に分かれていた。

 スマホから目を離し、再びドラゴンに目を向けると……ドラゴンは、何やら喉元あたりに巨大銀河の模様を集結させているところだった。


 何が始まるんだろうか、と思っていると、闇宮先生がふいに俺の袖を引っ張り、焦り気味の声でこう言った。


「ヤバいのが来ます!」


 その言葉の後、左手を俺の背中に添える闇宮先生。


「あの咆哮はガンマ線バーストです。ダメージ相殺のために私が活法で全身のDNAをリアルタイム修復しますので、咆哮が終わるまで動かないでください!」


 流石に封鎖級モンスターの攻撃相手だと油断できないのか、闇宮先生はかつてなく緊張感のある声でそう指示してきた。


 いや、え……ガンマ線バースト⁉

 それ、放たれた時点で俺たちがどうこうというより地球が終わらないか。

 そこはダンジョン内だから外には影響ない……という考えでいいのだろうか。

 しかし仮にそうだとしても、封鎖級ダンジョンで封鎖級のモンスターと戦ってるならともかく、危険度Aのボス部屋なんかで封鎖級の一撃に持ちこたえられるのだろうか……。


 というか、放射線による遺伝子の損傷まで合氣のカバー範囲内なのかよ。

 それもそれで驚きだわ。


 何に対してどんな感想を持てばいいのか分からなくなるくらい混乱した俺だったが……そんな時、タマがこう呟いた。


「にゃあ(その必要は無いにゃ)」


 タマの方を見ると……タマの目は、かつてないくらい眩く黄金色に輝いていた。


「ごろにゃあ〜(電磁波の咆哮なら、逆位相で相殺しちゃえばいいにゃ)」


 えっと……それって要は「目力で放射線を無に帰す」と言っていると解釈すればいいのか?


「にゃお(そっくりそのままお返しするだけの簡単なお仕事にゃ)」


 いやその、確かに猫の目にはタペタムという反射板が備わっているので、来る光をそのまま跳ね返すことは理論上できるのだろうが……にしてもガンマ線バーストをそのままお返して。


 普通なら信じがたい発言なところだろうが、しかしこれまでのタマの実績もあり、不思議と俺には「タマならできて当然」という確信があった。


 そんな中、ドラゴンが劈くような叫び声を上げる。


「キィァァァァァァァァッ!」


 おそらく今、とんでもない光量がぶつかり合っているところだろう。

 だが、俺は全くと言っていいほど周囲の明るさが増したようには感じなかった。


「え、えと……活法、本当に要らないみたいですね……」


 闇宮先生も、そう言って左手を背中から離す始末。


「にゃ(終わったにゃ)」


 数秒後、タマはそう言って咆哮を相殺しきったことを報告した。


「タマ……目は大丈夫だったか?」


「にゃ〜ん(人間が西日を一瞬直視した時ほどのダメージも無いにゃ)」


 一応気がかりだった目の損傷について尋ねてみると、実質ゼロと言って過言ではない様子だ。

 一方ドラゴンの方はといえば全身を震わせていて、今の攻撃が効かなかったことにかなり動揺している様子。


「にゃあ?(じゃ、こっちから攻撃していいにゃ?)」


「あ、ああ」


 てか別に、先制攻撃してくれても良かったのだが……何か狙いでもあったんだろうかな。


「にゃ(それじゃやってみるにゃ)」


 そしてその言葉と共に、闇宮先生が実演した時と同じく、周囲の空気が一気にピリピリ感を増す。

 封鎖級のドラゴンとは言えどこれには恐怖を感じたのか、ドラゴンが少し縮こまったように見えた。


「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ、にゃんにゃあにゃ(我が身に宿れ、信玄公)」

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