第55話 闇宮先生の究極奥義③

 直後、ついに究極奥義の詠唱を口にする。

 すると――タマの周囲に、猫の体型にぴったりフィットする形の甲冑が出現した。

 直後、これまた実演時と同じく、周囲が全くの無音になる。


 タマの近くからは無数の風の刃が出現し、ドラゴンに迫った。

 風の刃は青白い炎を纏いつつ、ドラゴンがアワアワと開けている口から体内に侵襲していく。


 数秒後――ドラゴンの体表の銀河の模様が消え、代わりにビッグバンの模様が出現した。

 それも三秒ほどで収まり、ドラゴンの模様は胸のあたりに一つの巨大なブラックホールを残すのみとなってしまった。


 どうやらそれが死を迎えたサインだったようで、ドラゴンはカプセルへと姿を変えた。


「か、完璧じゃないですか……!」


 一連の流れを見た闇宮先生からの評価は……満点のようだった。


「てか、私より技の完成度上じゃありませんでした……? まるで父の技の発動を見ているようでした!」


 複雑そうな表情で拍手する闇宮先生。


「にゃ(ちゃんと発動できたみたいで何よりにゃ)」


「え、ええ、そうですね……! ウチの秘技が失伝せずに済むみたいで何よりです!」


 そう言って、闇宮先生は何やらスマホをいじりだした。

 俺もコメント欄を見てみることに。


 :【赤】うおおお! マジでやった! ¥10,000

 :【赤】ヤベえ銀河ドラゴンが一撃wwwww ¥20,000

 :【赤】血筋ガン無視で本家超えは草ァ! ¥15,000

 :【赤】出会って数十分で全伝継承wwww ¥10,000

 :【赤】甲冑姿もかわいかった!! ¥50,000


 うおお、コメント欄が真っ赤だ。

 しかも上限額の投げ銭まで来てるし……。


 しかしなるほどな、甲冑姿にギャップ萌えって要素があったか。

 闇宮先生の様子を見るに「風林火山」は結構力を消耗する技のようだし、ギャップ萌えのためだけに技を連発できるかというと難しいだろうが……猫用の服とか売ってる会社の企業案件を受けてみたりするのもいいかもしれないな。

 今度水原さんにそういう会社との伝手とかあるか聞いてみるか。


「にゃ(ちなみに別に連発は可能にゃ。何なら甲冑の幻を出したところで技を中断してそこで維持することも可能にゃ)」


 え、今思考を読まれた?

 てか、そんな器用に甲冑だけ出すことまでできるのか……。


「なんか先祖代々の奥義が着せ替え要素として使われようとしてるんですが……」


 なんかすんません闇宮先生。


「てか、今メール送っておきました!」


 そして闇宮先生はといえば、スマホを触っていたのはどこかへメールを送るためだったようだ。


「メール……ですか?」


「ええ、迷宮協会のさいたま市支部長に、この配信のリンクと共に『哲也氏が封鎖級ダンジョンに無断立入していないことを私が保証します』って送っときました! これでコズミックドラゴンのカプセルを売ろうとした時に余計な疑いをかけられることは無いかと」


 ああ、確かに言われてみれば、封鎖級ダンジョンは協会の指示なく立ち入ることが無いので、協会が把握してない封鎖級のドロップ品が売りに出されると騒ぎになる恐れがあるのか。

 それを先回りで防いでくれたとは……ありがたい話だ。


 などと思っていると、ボス部屋の床全体が淡く光りだした。

 そして次の瞬間には、俺たちの周囲の風景が地上に変わっていた。


「あれ、このダンジョン、ボス部屋に帰還システム無かったはずなんですけど……なんで地上に戻れたんでしょう?」


「にゃ(ボスをリスポーンさせる時、ついでに活法でダンジョンのシステム書き換えといたにゃ)」


「それは親切にありがと……って、そんなことできるんですか⁉」


 どうやらこうして帰還できるのは普通ではなかったようで、闇宮先生はタマにノリツッコミを入れていた。


 一連のイベントは全て終わったので、俺は投げ銭のお礼と締めのあいさつをし、配信を締めくくった。


「今日はありがとうございました! ウチの流派の魅力もしっかり伝わったと思いますし、何より『風林火山』の継承者ができて嬉しかったです!」


「こちらこそ、色々貴重な技を見せてくださりありがとうございました」


「また機会があればぜひ!」


「ええ、こちらこそ!」


 挨拶の後、俺たちは飛んでそれぞれの家に戻ることに。

 山梨までは一緒に飛んだあと、闇宮先生とはそこでお別れし、それからタマと俺はさいたまの実家に戻った。

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