第53話 闇宮先生の究極奥義①
中ボスを倒してからは、これといった特徴のある敵に遭遇することもなく……モンスターが出現する度にタマか闇宮先生が交互に鎧通しを放ち、半ばお散歩ムードで攻略を進めていった。
そんな感じで数十分、まったりとした時間を過ごした俺たちだったが……気づけばとうとうボス部屋の目の前まで来てしまった。
その扉を開ける前、闇宮先生は改まった雰囲気でこう語りだした。
「それではいよいよ……タマちゃんが打震を発動させた時に約束した、『門外不出にしようと決めていた究極奥義』をお見せしようと思います」
何かと思えば……そういえば、そんな約束になっていたな。
確かに、もうボス戦なので今日見せてもらうならあとここしかないか。
「普段ならオーバーキル過ぎて、危険度A程度のボス相手にはまず使わない技なんですけどね。ま、実演のためだけに無許可で封鎖級ダンジョンに立ち入るわけにもいかないですし、格下相手の実演となるのはしょうがないでしょう」
続けて闇宮先生は、そんな背筋が凍るような台詞を口にした。
本来は封鎖級……つまり危険度Sに収まらないほど高難易度で、それ故に迷宮協会からの指令無しにはSランク探索者ですら入れないダンジョンで使うに相応しいほどの技なのか。
つまりそれは、闇宮先生の究極奥義はSランクの次元を超越した代物ということを意味するが……そんなもの、本当にこんな軽い感じで公開してもらっちゃっていいのだろうか?
ま、闇宮家の技は基本の鎧通しですらタマ以外にとっては模倣に年単位かかる習得難易度だし、ネットの海に拡散されたところで悪人に技を盗用されるリスクなんぞ0に等しいか。
先生がオッケーと思っているならそれでいいんだろう。
「ぜひお願いします」
「にゃ(ぜひともみたいですにゃ)」
「では行きましょうか!」
話がまとまると、闇宮先生はボス部屋の扉を開けた。
そこで俺が目にしたのは、見覚えのあるモンスターだった。
「あ……なんか懐かしいモンスターですね」
ボス部屋に鎮座する、翼の生えた深い青色のモンスターを見て……思わず俺はそう口にした。
「どこかで見たことがあるんですか?」
「ええ、アメリカで。ダンジョンを破壊する前、既に外に出てきちゃってた数体のモンスターがあんな見た目でした」
「ああ、あの時の……。そりゃリッちゃんも『手に負えない状況だった』とか言うわけですね」
リッちゃん……?
あ、もしかしてリッチー・ラッシュバウム隊長のことを言ってんのか。
知り合いなのは、まあSランク同士そんなにおかしなことではないとして……どういうセンスだそのニックネームは。
まあいいや。
「知ってる敵なら説明も不要でしょうから、早速実演に入りますねー」
闇宮先生がそう続けると……武術経験が全く無い俺でさえビシビシと感じるほどに、周囲の空気が一気に変わった。
それは敵意を向けられているボスモンスターが一番強く感じ取っているようで……ボスは小刻みに震える以外何もできない様子となってしまっていた。
そんな中、闇宮先生はおもむろに詠唱を口にする。
「我が身に宿れ、信玄公」
すると――まずは闇宮先生の周囲に幻でできた甲冑が出現し、先生はそれを装着する形となった。
その瞬間、誰もいない林に来たかのように周囲が全くの無音となる。
闇宮先生は、まるで山のように全く動く気配を見せない。
しかし――それとは対照的に、闇宮先生の周囲からは無数の風でできた刃が、目にもとまらぬ速さでボスめがけて飛んで行った。
風の刃は炎を纏いながらボスモンスターの内部に食い込み、その全身を内側からひたすら焼き尽くし、切り刻んでゆく。
数秒後……ボスは爆散し、カプセルだけが残る形となった。
闇宮先生の方に視線を戻すと、既に甲冑は消えて元の姿に戻っていた。
「ふう……やはりこの技は疲れますね……。だから普段は、格下相手には使わないのですが」
軽く息を吐きながら、やりきった感のある表情で闇宮先生はそう言った。
「以上、闇宮家に代々伝わる究極奥義――『風林火山』でした」
さっきの技、そういう名前なのか。
言われてみれば、詠唱直後から「其の徐かなること林の如き」静けさだったし、闇宮先生のドッシリ構えている風貌は「動かざること山の如し」だったし、風の刃はとんでもない疾さだったし、その刃が纏う火は猛烈にボスの体内を侵掠していたな。
武田家の元護衛ということを考えても、まさに順当な究極奥義と言えよう。
ただ、門外不出にするというにはあまりその理由が分からない技のようにも感じたな。
そこは一体どういう意図だったのだろうか。
「かっこいい技でしたね。しかし……せっかく技術を一般公開しようと決めたのに、なぜこれだけは門外不出にしようと?」
尋ねてみると、こんな答えが返ってきた。
「ああ、それはですね……この技、教えようが無いんですよ、実演はしてみたものの。というのもこれ、闇宮家を含め戦国時代当時に信玄公の護衛をしていた七家のどれかの血筋を引いた者でないと使えない技でして……人を選ぶんです」
なるほど、見せたくない理由があるというよりは、見せたところで習得させることが不可能という方向だったか。
「でも……自分でもなぜそう思ってるのか分からないんですけど、なぜかタマちゃんならその壁も超えられるような気がして。実際、どうですか?」
説明に続け、闇宮先生はタマにそう尋ねた。
うーん、可能性は無くはないんだよなこれが。
なにせタマには因果律操作がある。
「にゃ(やってみたいにゃ)」
タマは即座に前向きな返事をした。
「にゃあ?(ボスを出して試してみてもいいかにゃ?)」
そしてタマは俺の方を向き、そう聞いてくる。
「ああ、良いんじゃないか?」
俺がそう答えると……早速タマは中ボスの時に習っ(てアレンジし)た技を発動した。
「にゃにゃ、にゃにゃにゃんにゃ(ここ、ツボにゃんで)」
すると――約五秒後。
中ボスの時と同じく、モンスターがリスポーンしたのだが……そいつはさっきの翼の生えた深い青色の風貌ではなく、全身が漆黒かつ少し透明で体中に無数の銀河のような模様があるドラゴンのような見た目をしていた。
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