第49話 それを合氣と言ってしまっていいのだろうか
「じゃ、立ち話も何ですし……そろそろダンジョンに向かいましょうか!」
ひとしきり感動した後……闇宮先生はそう言うと、ふわりと空中に浮かび上がった。
衝撃的なエピソードの後だからか、なんかもう驚きも薄れているが……この人も当たり前のように空を飛ぶんだな。
と思っていると、続けて更に訳の分からない事が起きた。
何と……俺の身体も同じように空中に浮かび上がったのだ。
「え、ええええ……⁉︎」
「ふふっ」
突然の出来事に驚きの声を上げると、闇宮先生はなぜか可笑しそうに笑う。
「せ、先生……こ、これは⁉︎」
「いやはや失礼しました。普段タマちゃんと一緒に空を飛ばれてるんで、説明不要かと思いましたが……一応解説した方が良かったですかね?」
「ええ、お願いしますよ……」
得体の知れない技で浮かされ続けるのも気味が悪いので、俺はこの技について教えてもらうことにした。
すると、闇宮先生はこう語りだした。
「これはごく基本的な合氣による丹田操作ですよ。よく合気道の実演とかで人が吹っ飛ぶのとか見たことあるかと思うんですけど、あれって要は重力を操作しているんですよね。丹田を上げれば反重力がかかる、人間はそういう風にできてるんです。人間は本来、丹田の操作により自由に空を飛べるんですよ」
「へ、へえ……」
「ちなみにある程度以上の熟練者になると、他人の丹田と自分の丹田を『共鳴』させることもできるようになります。丹田を共鳴させた相手は、当然自分と同じように反重力がかかるので…今哲也さんはそれで飛べているってわけですね」
「な、なるほど……」
そ、そういうもんなのだろうか……。
なんか俺の知ってる合気道とは随分かけ離れたもののように思えるが、専門家にそう言われては納得するしかないか。
「ちなみに闇宮家の武術は、これ以外にも当て身とかでも重力の操作が出てきます。重力操作はウチの全ての魔法に通ずる基礎なんですよね。とりあえず今は、そのことだけでも覚えてもらえると嬉しいです」
「へえ、勉強になります」
そういえば、言われてみればタマが使ってた「黒い鞭を放つ技」も、周囲の空間が歪んで見えたりしてたな。
あれも重力操作が絡んでたりしたのだろうか。
……まあ、その辺はおいおい解説があるだろうから今は置いとこう。
――一方、タマはと言えば。
「てか、それはそうとして……タマちゃんの丹田、一ミリたりとも共鳴しませんね。どんな生物にも反重力がかけられるくらい基本を極めたつもりだったのですが……修練不足だったようです」
「にゃ(すまないにゃ。抵抗しようとしたらできるものなのか、ちょっと検証したかったにゃ)」
なんか謎の高等技術を使っていたみたいだった。
申し訳無さそうに軽く頭を下げつつ鳴くタマとは対照的に……闇宮先生はポカンとしたまま口が塞がらなくなる。
それから数秒の静寂の後。
「いやその……確かに抵抗は可能ですよ⁉︎ 私だって、道場生の丹田操作くらいなら抵抗すれば無効化できますし。でも、初見でそれをやってのけるってどんだけ天才なんですか……」
闇宮先生は頭を抱えつつ、ため息交じりにそうツッコんだ。
これもう模倣とかいう領域じゃないよな。
合氣による反重力については見よう見まねってのも分かるが、その相殺なんて誰も実演してないのに。
なぜ本家本元が絶句するような応用を「ちょっと検証」のノリでできちゃうのか。
「にゃあ〜(もう検証は大丈夫にゃ。だからこれ以上は邪魔しないにゃ)」
仮説通り上手く行ったからか、タマは満足そうにそう鳴いた。
直後、闇宮先生による丹田の共鳴が可能になったからか、タマもふわりと浮き上がる。
合意の上なら浮かすのは余裕なんだな。
「じゃ、入り口まで運びますね!」
闇宮先生はそう言うと、急加速して移動し始め……連られて俺たちも同じスピードで飛ぶこととなった。
タマと飛ぶ時はタマにピッタリくっついてるからまだ大丈夫だが、単独で飛んでるとなんかちょっと怖いな……。
などと思っている間にも、開けた空間にポツンと鎮座する、洞窟のような見た目のダンジョンの入り口がグイグイ目の前に迫る。
闇宮先生が減速すると、俺たちも入り口手前で着地することとなった。
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