第47話 コラボの待ち合わせ先にいたのは……
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件名:お初にお目にかかります、闇宮ヒロと申します
本文:
「育ちすぎたタマ」 運営者 哲也様
(動画に出ている名前しか存じ上げないため下の名前で失礼します)
突然のご連絡失礼致します。
「闇宮家家伝魔法術」第15代目宗家 闇宮ヒロと申します。
この度は是非貴チャンネルとコラボさせていただきたく思い、ご連絡差し上げました。
まずは簡単に自己紹介から申し上げます。
私は戦国時代、武田信玄を護衛していた七家の一つ「闇宮家」の末裔でして、家に代々伝わる一子相伝の魔法術を父及び祖父から教わっておりました。
父と祖父は既に他界しているため、今のところは私が現存する唯一の闇宮家家伝魔法術の全伝継承者となっております。
一子相伝の技法のため、「闇宮家家伝魔法術」は当然、今まで門外不出となっておりました。
しかしながら私の代からはその制限を解き、誰でも学べるようにしております。
理由は二点ございます。
一つ目は、一子相伝という伝承方法が今の時代にそぐわないからです。
群雄割拠の時代ですと、技術が流出すると自分の家が不利になるため、一子相伝が理に適っておりました。
しかし今はもう世界平和が尊ばれる世の中です。
今なお技術流出による命の危険を危惧したりしていては、いささか時代錯誤と言わざるを得ないでしょう。
また、伝承の中には学ぶ過程で命を落としかねない危険な稽古も多く、それをこの時代に「実子だから」という理由だけで強制するのもいかがかという観点もございます。
それよりは元から学ぶ意欲のある者にのみ教える方が適切かと考え、この判断に至りました。
そして二つ目は、個人的な野望として「全てのダンジョン資源を余すことなく利用できる世の中にしたい」という思いがあるからです。
哲也様はタマちゃんによるダンジョン破壊を目の前でご覧になっておられますので、世の中には「破壊した方がマシ」とされる、扱いづらいダンジョンもあることを身に沁みてご存知のことと思います。
あの未曾有の危機から多くの人命を救ったことそれそのものは非常に有意義であり、あれがあのタイミングで最善の選択肢であったことは間違いないというのは、私も賛同するところです。
しかしながら、同時に私は思うのです。
世の中にもっとSランク探索者がありふれていれば、どんなに扱いにくいダンジョンだって有効活用できる。
人類側に十分な実力があれば、有害なダンジョン・有益なダンジョンなどという区別は消え去り、全てのダンジョンが人類の宝として重宝される。
そちらこそが、長い目で見ればあるべき姿なのではないかーーと。
そこに目標を置くからこそ、私は道場を開き、Sランク相当の探索者の量産を目指すことにした……という側面もあります。
とはいえ、闇宮家の伝承が客観的には非常に過酷なのも事実。
残念ながら、道場を開いて8年が経とうとしているにも拘らず、あまりの離脱率故に1年以上続けて通ってくださる弟子は現在2人しかいない……という現実がございます。
つきましては、全国ーーいや全世界から「本気の弟子」を募るためにも、貴チャンネルの影響力をお借りできますと幸いです。
先日の配信にて、タマちゃんが闇宮家の「鎧通し」を使用していたこと、またその後他人の究極奥義を見よう見まねで本人以上に使いこなしている場面も拝見いたしました。
もしよろしければ、その類まれなる模倣力を活かし、私がまだネット上で披露目していない数多の秘技を「お土産」として持ち帰ってくださって構いません。
(猫パンチに発勁が伴うのも可愛らしいと思いますので、ぜひ!)
もちろん、金銭的な報酬もふんだんにお支払いする所存です。
私としても、現役時代の資産を腐らせておくのも不本意ですし……笑
もし引き受けてくださるのであれば、ひとまずは楽しいコラボ配信にできればいいかなと思います。
入門希望者を広く集めるためにも、堅苦しい雰囲気で進める気はございませんのでご安心ください。
それでは、良きお返事お待ちしております。
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闇宮家家伝魔法術 宗家
闇宮 ヒロ
〒400-0014
山梨県甲府市古府中町2601
電話番号:XXX-1521−1573
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「……良かった」
読み終えて……ひとまず俺はホッとした。
蓋を開けてみれば、中身はただのコラボの打診だった。
技を真似したことについてキレられてないどころか、むしろ好意的にすら思ってもらえているというのは何よりありがたいことだろう。
となると次は、この依頼を受けるかどうかだな。
まあ結論から言っちゃえば……この内容なら、依頼は受ける一択だろうな。
悪い見方をすれば影響力に寄って来ていると言えなくもないが、それも全ては世界をより良くするという崇高な目的のため。
「Sランクをありふれた存在にする」などとカジュアルにとんでもないことを言ってはいるが、少なくとも私利私欲で動く連中とは一線を画した綺麗な動機なのは明白だろう。
ウチとしてもタマが新技を覚えられるなら視聴者も喜ぶだろうし、お互いにとってメリットしかない。
そもそも元とはいえSランクの探索者に会える機会なんて滅多に無いだろうし、どんな感じなのか純粋に興味もあるしな。
俺は承諾の旨の返事を出した。
するとすぐに、承諾へのお礼と具体的な日程の候補についての返信があった。
コラボは三日後、福岡県の筑豊炭田近くの危険度Aダンジョンで行われることとなった。
このダンジョンの選定理由は、「危険度Aの中でも限りなく危険度Sに近いダンジョンで、自分が付き添いで連れていけるダンジョンの中で最高難易度だから」だそうだ。
待ち合わせの時間が近づくと、俺はタマにむ〜とふぉるむで最寄りの直方駅まで連れてってもらった。
着陸後、周囲を見渡し、強そうな雰囲気のおばあちゃんがいるかを探す。
が――それらしい人はどんなに探しても見つからなかった。
所要で少し遅れたりするのかな?
などと思っていると……7歳くらいに見える、黒い袴を着て薄い青のサングラスをかけたかわいらしい女の子が俺を見るなりスッと近づいてきた。
どうしたんだろう。迷子で迷ってる……とかなら俺ではなくサービスカウンターを頼ってほしいが。
なんてことを考えていると――その女の子は衝撃の一言を発した。
「お初にお目にかかります、闇宮ヒロと申します。本日はよろしくお願いします」
え、え……は⁉
いやいやいや……え、どういうこと……?
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