第42話 因縁の敵との再戦
「ちょっと待ってくださいね」
ネルさんはそう言うと、ギターを構えたまま静かに目を瞑った。
それから数秒後……ネルさんは何やら納得したように何度か頷き、それからゆっくり目を開ける。
「どうしました?」
「今、究極奥義の使い方が『降りて』きました」
ああ、究極奥義のインストール中だったのか。
「どんな使い方でした?」
質問すると……ネルさんはこう語りだした。
「簡単に言うと、敵を服従させるスキルですね。発動用の文言を唱えると、このギターからシールドが伸びていきます。その先端が敵に刺さると、敵が完全に私の傀儡となり……私の意のままに戦闘させることが可能になります。同時操縦可能数は熟練度次第ですが、シールドが刺さりさえすればある程度格上にも通用するのが良いところですね」
「なるほど」
名前だけ聞くとアレだったが、ギターを使うあたりちゃんと元々の戦闘スタイルにマッチした技が覚醒したんだな。
そういうものであれば、アイドルとしてのイメージが傷つくこともなくて、純粋に良いパワーアップだと言えそうだ。
効果を聞く限りかなり強力な技のように思えるが……その実力やいかに。
「早速使ってみますか?」
「そうですね……ちょっと試してみたいです!」
ネルさんも乗り気のようなので、俺は次の戦闘をネルさんに任せることに決めた。
またしばらく歩いて、何かにエンカウントしたらそれ相手に究極奥義を試してもらおう。
と、思った俺だったが――。
「にゃ(そういうことなら、ちょっと実験台を呼ぶにゃ)」
何を思ったか、タマがそんな提案を出した。
実験台を……呼ぶ?
いったい何をする気なのやら。
不思議に思っていると……タマの目の前に直径一メートルくらいの沼が出現した。
「ふしゃっ」
その沼に向かって、タマはごく軽く威嚇をし……そのまま沼は消えてなくなる。
「……何だ何だ?」
困惑していると、更に数秒後のこと。
今度は十メートルくらい前方に、同じく直径一メートルくらいの沼が二つ出現した。
「にゃ(ほら、そろそろ来るにゃ)」
二つの沼からは、小鬼の頭のようなものがゆっくりと姿を表す。
なんかあの頭、見覚えがないか?
……あっ!
これあれだ。俺たちが最初にダンジョンに潜った時、ネルさんの獲物を横取りしてしまったと勘違いした……確か名前はニンジャゴブリンって奴だ。
「こ、こ、こ、こいつらは……!」
あの時の恐怖が蘇ったのか、ネルさんは震える声でそう呟く。
「にゃお〜ん(あの時とはもう違うにゃ。あれに勝てれば、前より明確に強くなったと確信できるはずにゃ。違うにゃ?)」
なるほどな。敢えて因縁の敵と戦わせることでトラウマを克服し、一段成長したことを実感させようってわけか。
そう考えると、納得いく敵のチョイスだな。
問題は、当のネルさんがちゃんと戦えるかだが……。
「あ、あの、それはそうですけど……。な、なんでいきなり2体なんですかぁっ!」
複数体ということもあり、完全にビクビクしてしまっていた。
そんなネルさんに対し、タマは落ち着いた雰囲気でこう口にする。
「ごろにゃ〜?(冷静に考えるにゃ。敵を服従させる技を、一対一の戦いでどう活かすというにゃ?)」
それを聞いて――ネルさんは何やらハッとしたようだった。
「あっ、確かに……!」
途端にネルさんは落ち着きを取り戻し、ボディを敵に向ける形でギターを構えた。
そして、
「優しい人に、ならなくちゃ」
それが「世界征服」の詠唱文言なのだろう。
その言葉と共に、ギターの接続口からシールドが飛び出し……ニンジャゴブリンのうち一体に刺さった。
「……なるほど」
繋がるとすぐさま、ネルさんはなにやら納得した様子でポツリと呟いた。
「このモンスターの性格や、どんな特性や技を持ってるかなどが全部手に取るように分かります! これなら……」
まずネルさんは、シールドの繋がったニンジャゴブリンにもう片方のニンジャゴブリンを小突かせた。
すると殴られた方は、「なんで?」と言いたげなポーズで困惑しだした。
仲間に攻撃されるはずがないと信じる性格を読み取り、それを逆手に取って隙を作らせた……といったところだろうか。
次にネルさんは、シールドの繋がった方に懐から短剣を取り出させ、それを自身の胸に突き刺させた。
えっ、なんで味方に自傷行為をさせるんだ……?
と思ったが、どうやらそういう意図ではなかったようだ。
シールド付きの方が胸の短剣を抜き、滴る血を舐めると……力が膨れ上がり、全身から真っ赤なオーラを出し始めたのだ。
そこからは、一方的だった。
シールド付きの個体はもう一方を激しく蹂躙し、ものの数秒でグチャグチャのスクラップ状態に変えてしまった。
「もう大丈夫ですね」
ネルさんがシールドを抜くと……その個体の赤いオーラが消え、続いてドサッと倒れ、微動だにしなくなった。
「初戦の相手としては最高でした。ニンジャゴブリン、命を代償に死ぬ寸前だけ大幅にパワーアップする禁術を持ってたので……その技を使わせるだけで両方まとめて処理できましたね」
なるほど、傀儡にした方の後処理も考えての戦法だったってわけか。
理に適ったやり方だ。
「にゃあ(よく頑張ったにゃ)」
「うん! 怖かったけど、私頑張った〜っ!」
タマに褒められると、ネルさんは気の緩んだ笑顔を見せつつタマに抱きついた。
:おつかれ!
:良く頑張った!
:【赤】タマちゃん、いい師匠だったよ! ネルちゃんにも後でスパチャするね ¥20,000
:【赤】宿敵打破おめでとう!¥10,000
:【赤】今日はめでたい日や!¥10,000
コメント欄も完全に祝福ムードだ。
よし、じゃああとはいつも通りオマケのボス戦をやって終わりか。
と、思ったが……。
「にゃ(本当によくやったにゃあ。じゃあ次は、その技を極めたらどうなるかお手本を見せるにゃ)」
「「え……?」」
タマの一言に、俺とネルさんは呆気に取られた声をハモらせてしまった。
なんか……今タマがとんでもないことを言った気がするんだが。
「世界征服」を極めた……お手本?
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