第43話 「世界征服」の完成形
「にゃ(じゃ、ついてくるにゃ)」
状況が飲み込めないうちにも、タマはさっさとむ〜とふぉるむへ変身してしまう。
俺が念力でタマに吸い寄せられると……ネルさんとこうしちゃいられないとばかりにギターを帯電させだした。
直後、高速移動が始まる。
移動が終わったのは……周囲が青くぼんやりと光る宝箱の前だった。
「にゃ(これに触れるにゃ)」
え、また宝箱……?
さっきの言いっぷりだと、究極奥義のオーブをもう一個手に入れる意味は無かったはずだが。
まあ、でもとりあえずタマがそう言うなら触れてみるか。
……ん? 触れる……だけでいいのか?
疑問は残るが、とりあえず言われた通りにしてみる。
すると、一瞬宝箱がブォンと鳴り、続いて地面に巨大な魔法陣が出現した。
その様子を見て……ネルさんはおそるおそるタマにこう尋ねる。
「あ、あの、これってまさか……」
「にゃ(そうにゃ。実演は向こうのダンジョンでやるにゃ)」
向こうのダンジョン……?
などと思っていると、突如として視界が暗転した。
直後、視界が開けると……目の前からは魔法陣も、宝箱もなくなっていた。
「いやー、まさかこれをワザとやる場合があるなんて思いもしませんでしたよ……」
ネルさんはと言えば、頭を抱えながら何やら意味ありげにそう口にしていた。
あれ、これ俺だけ状況分かってない感じ?
「転移トラップって、普通即死の罠ですからね。どの危険度に送られるかは完全にランダムなので、危険度Sはもちらん、最悪封鎖級ダンジョンとかに着く可能性もありますし。確かにタマちゃんならどこでも大丈夫そうな気しかしませんけども!」
続けてそんなツッコミを入れてくれたおかげで、俺はようやく現状を把握できた。
なるほど、今元々のダンジョンとは別の、より高難易度のダンジョンに来てるのか。
……それがあるなら入口のゲート認証の意味とは?
あっ、即死トラップって共通認識なら普通誰も故意に触れないから意味あるのか。
「にゃ(今回は危険度Aダンジョンにしたにゃ。封鎖級でも良かったけど、実演だけならここで十分にゃ)」
「危険度Aに『した』って……さらっと言ってますけど、もうめちゃくちゃですよ……」
ああ、それも因果律操作でどうにかなるのね。
「にゃ(じゃ、行くにゃ)」
息つく暇もなく、また移動が始まる。
一瞬で、俺たちはボス部屋前に到着した。
「にゃ(タマが良いと言うまで目を瞑っておくにゃ)」
部屋を開ける前、タマからはそんな指示が。
何か分からないが……たぶんそうしないとマズいことになるんだろうし、一旦従っておこう。
俺とネルさんはタマの尻尾に触れて目を瞑り、誘導されるがままに歩いた。
数秒後、何やらグチャッという音がした後で、タマから次の合図が。
「にゃ(もう開けて良いにゃ)」
目を開けると……そこには禍々しい見た目の大蛇がいた。
良く見ると、その蛇は目が潰されている。
「あれは……?」
「おそらく、プラナリアバジリスクかと。実物は初めて見ましたが……危険度Aのボスとしては名高いので存在は知ってます。目が合うと即死させられるので、タマちゃんがあらかじめ目を潰してくれたんでしょうね」
へえ、そんな特性のモンスターがいるのか。
「にゃ(じゃ、まずはアレをみじん切りにするにゃ)」
タマはというと、そう言って両前足をぷらぷらさせた。
それによりーープラナリアバジリスクとやらは、サイコロステーキかのようにバラバラになる。
「えっ、ちょっ、そんなことしたら……!」
それを見て、ネルさんは慌てふためいた。
「何かまずいんです?」
「プラナリアバジリスクがなぜ『プラナリア』バジリスクなのか……それは、切っても切っても全身が再生して個体数が増えるからです。しかも、一体一体の強さはオリジナルを保ったまま。アレは斬撃系の技との相性が悪いんです!」
なるほどな。
でもまあ……タマがそうするってことは、これもワザとじゃないか?
「にゃ(とりあえず、下準備はできたにゃ。ここからよーく見ておくにゃ)」
肉片が復活しようと蠢く中、タマはネルさんの方を振り返ってそう言った。
「し、下準備……まさか!」
その発言を聞いて、タマがやろうとしていることの予想がつくと……ネルさんは開いた口が塞がらなくなった。
タマは収納魔法を発動し、おもちゃを一つ取り出した。
覚醒する前の、普通のサイズの猫だった頃から愛用しているネズミ型のあみぐるみだ。
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ、にゃにゃにゃにゃにゃ(優しい人に、ならなくちゃ)」
タマは後ろ足だけで立って前足でおもちゃを掴んだまま、「世界征服」の詠唱文言を唱えた。
すると……ネズミ型のおもちゃの尻尾から、無数の延長した尻尾(とでも呼べばいいのか?)が射出された。
あれがネルさんで言うところのシールドみたいなものか。
発動に必要なのは必ずしもギターというわけではなく、技の使用者の愛用するものであればいいって感じか。
尻尾は全ての再生しきったプラナリアバジリスクに一本ずつ刺さった。
尻尾が刺さったプラナリアバジリスクたちは、互いに互いの首を噛み合った。
その直後、プラナリアバジリスクたちは全身から血を噴き出し……全員微動だにしなくなり、やがて全て消えて戦利品のカプセルへと姿を変えた。
「にゃ(とまあこんな感じにゃ)」
タマは再びネルさんの方を振り返ってそう言った。
「え……えぇ……」
ネルさんはといえば、あまりに呆然として引き攣った笑いが張り付いたような表情で固まってしまっていた。
:こ れ は 酷 い w
:ほんまにさっきのとおんなじ技か?w
:危険度Aボス相手に舐めプw
:ネルちゃん固まっちゃってるよ笑
:【赤】タマちゃんGJ! ¥20,000
「にゃ(実力が上がるほど同接数が増える、実にアイドルらしい技だと思うにゃ)」
「いや同接数の意味がおかしいんですけど……」
やっとの思いでネルさんがそんなツッコミを絞りだしたところで……ボス部屋の床全体が淡く光り始めた。
これは帰還……なのか?
さっきの転移の後じゃもう、何が起こるか想像もつかないな。
という心配は杞憂で、俺たちは無事地上に戻れた。
「えー、というわけで……宝箱からは素晴らしいものが得られましたね! それではまた次回!」
こんな締め方でいいのかと思いつつ、俺はそう今回の探索の総評を述べる。
その後は、しばらくスパチャへのお礼タイムが続いた。
ひとしきりスパチャの勢いが落ち着くと、俺とネルさんはそれぞれ締めの挨拶をし、配信を終了した。
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