第41話 究極奥義のオーブ

 それから10分ほど歩いたところ。


「にゃ(ここにゃ)」


「おお、あった……」

「本当にありましたね……」


 たどり着いた場所には、金色に輝く豪華な装飾が施された宝箱が確かに鎮座していた。


 :おお、着いたww

 :宝箱って案外秒で見つかるんやな

 :↑んな訳ないw 現役Bランクなら分かるがこの早さは異常

 :はえーそうなんや

 :ダンジョン見る専からすりゃ宝箱自体初見やしなあ

 :ワーオ! これはミラクル!(訳:タマ)


 それじゃ中身も気になるし、早速開けてみるか。


「あっ……」


 蓋を開けると……なぜかネルさんが小さく呟いた。

 ……何かまずいことでもしただろうか?


「どうしました?」


「いえ……何でもないです」


 気になって聞いてみたが、ネルさんはそう言って言葉を濁した。


「いや、何かまずいことしたなら言ってくれていいですよ」


「その……冷静に考えたらタマちゃんが誘導した場所なので何もまずいはずはないんですが、あまりにも無警戒に手を出すもんですからつい声が出てしまいました。宝箱、たまにミミックっていうモンスターが擬態した偽物がありますからね……」


 更に問うと、ネルさんはそう返した。


 なるほど、宝箱にはそんな危険もあるのか。

 まあでもそういう問題で良かった。

 ネルさんも言う通りタマが誤誘導するとは思えないし、開けて本物だった以上はもう心配ないことが確定したからな。


 :はえ〜そんな危険が

 :これはガチBランク

 :じゃないと反射的に警戒が必要とか思わんもんな

 :ミミック気にしないでいいのはチート過ぎる…(血涙)

 :一般通過Bランク探索者さんの嘆き草


 さて、中身はというと……なんか真珠をそのまま野球ボールサイズにしたみたいな見た目だな。

 縫い目は無いので変化球は投げれなさそうだが。

 ーーいやそんなことはどうでもよくてだ。

 この球はいったいどういう物なんだろうか。


「これ何なんですかね?」


 俺はそう尋ねたのだが――球を見た瞬間、ネルさんは口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。


「あのー?」


 再度話しかけても、返事はない。


「にゃ(究極奥義のオーブにゃ)」


 俺の質問には、代わりにタマが答えた。


 究極奥義の……オーブ?


「どういうものなんだ、それ?」


「にゃ(使うと念じると究極奥義が覚醒するにゃ)」


「なるほど」


 要はまあ、強化アイテム的な感じの物ってことか。

 じゃあこれは……俺の能力を覚醒させてもしょうがないし、タマに使ってもらうとしよう。


「えー、これは究極奥義のオーブという、なんか能力が手に入る球のようです。なので今からタマに使ってもらおうと思います」


 視聴者向けにそう説明しつつ、俺はオーブをタマの足元に置いた。


 が――。


「にゃ(あ、それタマが使っても意味ないにゃ)」


 なぜかタマはそう言って、オーブの使用を断った。


「え、使っても意味ない? なんで?」


「にゃあ、ごろにゃ〜ん(それはまだ究極奥義を持たない者の能力を開眼させるものだからにゃ。タマには既に夏メテオがあるから意味ないにゃ。他人の究極奥義を真似れば他の究極奥義も使えるけど、それもオーブで覚醒させるものではないにゃ)」


 聞いてみると、タマは詳しいオーブの条件を説明してくれた。


 なるほど、そういうことか。

 残念だが仕様上そうなってるならしょうがないな。

 とすると……じゃあこれはネルさんに使ってもらうか。


「ネルさん」


「あ……はい!」


 再度話しかけると、ようやくネルさんは我に返ってハッとした。


「タマ曰く、これ、既に究極奥義が覚醒してる者には意味ないみたいなので……ネルさん使います?」


 聞いてみると……数秒ほど、ネルさんの目が点になった。

 そしてーー。


「え……え゛え゛え゛え゛え゛え!?!?!? い、いやいやいや……そんなの畏れ多すぎますよ!」


 怒涛の勢いで首を横に振りだした。


「哲也さん、そのオーブ、そんな簡単に人に譲るものではないですよ⁉ ︎迷宮協会で売れば3000万円はしますから! しかも、オークションに出した場合はもっとエゲツなくて……軽く億は越える超激レアアイテムですからね⁉︎」


 どうしたのかと思ったら……このオーブ、めちゃくちゃ高額で取引されてるものだったようだ。


 そりゃまあ、隠し奥義で強化したアイテムだからそれ相応にレアなアイテムなのだろうとは想像もついていたが……3000万は想像の斜め上だな。


 とはいえ、俺たちに使い道が無いことはもう確かだしなあ……。

 あ、そうだ。


「じゃあ、ネルさんが3000万円で買い取るって形にするのはどうでしょう?」


 俺はそう提案してみた。

 仲の良い知り合いにこの金額を請求するのはいささか心苦しくはあるが……タダでは受け取れないというならやむを得ないからな。

 それに、3000万は(直近でそれを越える契約を得たとはいえまだ)俺にとっては超大金って感覚だが……17歳で六麓荘町に家を建てるような人からすれば、あまり大した事もないだろうし。


 キャラとしても「アイドルにしては強い」を売りにしてるんだし、究極奥義を得るというのは自己投資としても理にかなってるはずだ。


「いや、あの……3000万ってのはあくまで公示価格であって、実態としての価値は億をゆうに超えてますからね⁉︎ 私はありがたいですけど、ほ、本当にそれでいいんですか……?」


 それでも、尚も遠慮がちな様子のネルさん。


「にゃ〜ん(じゃ、手に入れた究極奥義を早速目の前で使ってくれたらいいにゃ。それをタマがコピーすれば、実質タマがオーブを使ったみたいなもんにゃ)」


 その様子に痺れを切らしてか、タマは新たな条件を提示した。

 今更驚くことでもないが……人の究極奥義、真似できる前提なんだな。


「あっ、それなら確かにフェアかもしれないですね。もちろん、3000万も支払わせていただきます!」


 ようやくネルさんも納得したようだ。


「じゃあ、行きますね……!」


 おそるおそるオーブを手に取り、ネルさんはそう宣言する。


 様子を見守っていると……ネルさんがオーブの使用を念じたのだろう。

 突如オーブはまばゆく虹色に輝き、視界が白くなるほどに周囲を照らした。


 しかしそれも数秒経つと落ち着き、オーブは燻んだ灰色の球になる。


「できた……んですかね?」


 すかさずネルさんはステータス確認用デバイスを取り出し、変化を確認する。

 しばらくして、ネルさんはポツリと奥義の名称を呟いた。


「世界……征服……」


 ……なんか物騒な名前だな。

 果たしていったいどんなスキルなのやら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る