第40話 カプセルの中身と宝箱の在り処
「どうもー、『育ちすぎたタマ』チャンネルへようこそ。こちらのかわいいもふもふがタマで、私が飼い主の哲也です」
:タマちゃん今日もかわいい〜!
:万能ネッコキタ━━━━。゚+.ヽ(´∀`*)ノ ゚+.゚━━━━!
:【橙】本日のにゃ〜る代 ¥5,000
:↑おっスパチャ解禁か⁉⁉
:収益化おめ!
:【赤】じゃあ俺からもにゃ〜る代! ¥10,000
:ジーザス! やっとタマちゃんに貢げるぜ!(訳:タマ) $500
ダンジョンに入ってカメラを起動し、いつもの挨拶をすると……今日はコメントの様子がいつもと違っていた。
あれ、収益化審査完了してたのか。
いったいいつだ?
メールチェックは毎日最低一回は気が向いた時にしてたので、おそらく本当に直近なのだろうが……タイミングがいいな。
ちなみににゃ〜るは買わなくてもスポンサーから際限なく支給されるので、「にゃ〜る代」と銘打ってお金もらうと少し後ろめたさがあるが……。
「早速のスパチャありがとうございます! あの……にゃ〜るはスポンサーから無限に支給されるので皆さんお財布を大事になさってください」
こういうことは黙っておかない方が良いだろうと思い、俺は正直にそう伝えた。
それはそうとして、ゲストの紹介だ。
「本日も久しぶりにあのゲストに来ていただいております。旋律のネルさん、どうぞ!」
「ど〜も〜! 『レスポールさえも凶器に変える女』、旋律のネルで〜す! 今日はまた久しぶりにタマちゃんとダンジョンに来れて、まさに
「ごろにゃ〜ん(よろしくにゃ)」
ネルさんはタマの背中をひたすらさすりながら挨拶し、タマもそれに続いて鳴いた。
「えー、今日の企画はですね……ダンジョン破壊とかで二千万ちょい溜まってたスキルポイントを戦利品グレードアップのみに注ぎ込んだところ、なんか『宝箱グレードアップ天元突破』とかいう変な奥義が開花したので、宝箱を探して開けてみたいと思います。というわけで、今来ているのは奥多摩の危険度Bダンジョンです」
:スキルポイント二千万て何やねんww
:桁がおかしくて草
:戦利品グレードアップは草 よくそんなのに突っ込む気になったな
:未知の奥義があったから結果オーライってか
:何気にネルちゃんが配信上で危険度B来るの初じゃね?
撮影のコンセプトを軽く説明しつつ、歩いて奥へ進んでいく。
しばらくすると、サソリを巨大化させたような風貌のモンスターが姿を現した。
「本命は宝箱ですが……一応元々の『戦利品グレードアップ』の方の効果も見たいですし、アレを倒してみますか」
俺はそのモンスターを指しつつそう喋った。
「にゃ(分かったにゃ)」
タマはそう言うと……左前足を振り、黒い鞭のようなエフェクトを飛ばした。
黒い鞭の周囲は空間が歪んで見える感じとなっており……サソリ型モンスターにヒットすると、モンスターは真っ二つに裂け、そのままカプセルに変わった。
まーたなんか見たこともない新技を。
どこで見たものを真似したのか、あるいは編み出したのか。
……話題がとっちらかるから今は触れないでおこう。
そんなことより、カプセルの中身がどうなってるかだ。
「ネルさん、さっきのモンスターを倒すと通常カプセルの中身って何になります?」
拾いに行きつつ、俺はネルさんにそう尋ねた。
「ガソリンが300リットル入ってますね」
「なるほど。じゃあタマ……このカプセルには何が入ってる?」
「にゃ(開けてみたらいいにゃ)」
続けてタマに中身の判別をお願いすると……なぜかタマは、カプセルを開けるよう促してきた。
え、本当に良いのか?
ただでさえガソリンが300リットルも亜空間収納から出てきたらすごい体積が埋め尽くされそうなのに、もっと量が増えてたらこの道が塞がっちゃったりしないだろうか。
まあでもタマが言うなら……信じて開けてみるか。
「タマ曰く開けて問題無さそうなので、ちょっと見てみましょうか」
俺はそう言ってカプセルを開けた。
すると……中に入っていたのは、ガソリンではなく手のひらサイズの石だった。
宝石のように輝く紫色の綺麗な石ではあるが……ガソリンがこれに変わるのは、果たしてちゃんと上位互換と言えるのだろうか?
「えーと……これは何でしょう?」
困惑しつつ、コメント欄に目を向けてみると……みんなこぞってこんな投稿をしていた。
:は……⁉
:エナジーストーン、だと……?
:OMG
:しかも紫 そんでこのサイズって……
:いやいやいやグレードアップにも程があるて
気になったのは、「エナジーストーン」とかいう耳慣れない単語だ。
なんだそれ。ただの宝石かと思いきや、名前的にエネルギー資源なのは間違いなさそうだが……このみんなの驚きようは一体?
「ネルさん、これは……?」
顔を上げてみると、ネルさんも同じく目を大きく見開いたまま固まってしまっていた。
「ネルさん大丈夫ですか?」
「あ、失礼しました……。あの……これは流石にヤバくないですか?」
「と言われましても。コメントではエナジーストーンとか言われてますが、そんなに凄い物なんですか?」
「凄いとかいう次元をとうに超えてますよ! エナジーストーンは文字通りエネルギーを秘めた石で、専用の装置を組めば電力としてエネルギーを取り出せるんですが……保有エネルギー量によって、色やサイズが変わるんです」
ネルさんは我に返ると、エナジーストーンの解説を始めてくれた。
「まず色については、赤<橙<黃<緑<青<藍<紫の順で単位サイズあたりのエネルギー含有量が多いです。そしてサイズですが……通常のは小指サイズくらいなんですよ。赤の通常サイズですら10万kWhくらいのエネルギー量はあるというのに……これはもうおかしいですよ?」
続けてネルさんは、そう言ってこの石の特異性を強調した。
「あ……そんなに普通の石を逸脱してるんですね」
「ええ、そりゃもう。これなら40億kWhくらいあってもおかしくなさそうですね。これ一つで東京、大阪、名古屋以外ならどの都道府県でも一月の電力を賄えれますよ……」
「へ……?」
具体的な数値を出されると、今度は俺が耳を疑ってしまった。
いや、これそんなヤバい代物なのか。
上層部の通常モンスターでこの調子じゃあ……俺、ここ周回してるだけで日本のエネルギー問題解決できちゃう?
:極めるとここまでエグいんか……
:戦利品グレードアップ、もしかして結構有用スキルだった?
:↑いや、そもそもこの人二千万ポイント注いでるからな 誰が真似できんねん
:↑確かにw 最重要なとこ見落としてたw
:でもポイント余りまくってるベテランSランク探索者とかからしたら、これ結構貴重な検証結果なんじゃ
……うん、まあとりあえずこれはこれとしてだ。
奥義じゃない通常部分でこの効果なら、「宝箱グレードアップ天元突破」への期待がより高まるな。
んじゃそのためにも、先を急ぐか。
「ネルさん、このダンジョンだと宝箱ってどこにあるんですか?」
俺は目的地をはっきりさせるべくそう尋ねた。
しかし……帰ってきた答えは、予想とは違うものだった。
「さあ……具体的にどこ、ってのはありませんね」
……え?
「といいますと?」
「宝箱は神出鬼没なんです。ここは危険度Bだと比較的見つかりやすいと評判なので選びましたが、正直それでも一回の探索で見つかるとはあまり期待できないんですよね。今日見つからなかったら、この配信はシリーズものにする必要があるかもしれませんね」
どうやら宝箱は、想定以上に見つかりにくいもののようだった。
マジか。それほどとは……。
じゃ、普通にいつも通り攻略するしかないか。
見つかるかどうかは、神に祈りつつってなところで。
そう思った俺だったが……今度はタマがこんなことを言いだした。
「にゃ〜(なんか宝箱の波動を感じるにゃ)」
見てみると……いつになく、タマはしきりにヒゲをひくひくさせている。
しばらくすると、ヒゲの動きがスッと止まり、タマはこう呟く。
「にゃ(見つけたにゃ)」
そしておもむろに、何か確信がある様子でタマは歩き出した。
いや、確かに猫のヒゲは触覚みたいな役割を果たしているとは言うけどさ……。
そこまで行ったらもう、感覚器官というよりダウジングとかの域じゃね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます