第24話 はじめての企業案件
退職を巡ったバトルは――俺の大勝利に終わった。
こちらにも退職の意思があることは隠し、「できれば引き続き働かせてほしいが、どうしてもというなら会社都合なら呑まないこともない」というスタンスで一貫して押し通したところ、激論の末に役員が折れ。
更にその後、引継ぎ資料の作成や会社支給の備品の整理をしていたところ、法的に間違いなく時間外労働の証拠と見なせるものが山ほど見つかったのだ。
具体的な司法手続きは当然これからだが、弁護士曰くざっと見積もっても千万以上は取り返せるとのこと。
なんと、未払い残業代だけで懸賞金の全額を超える事態にまでなってしまった。
弁護士曰く、「いやー、こんなにも尻尾丸出しのザル会社は、ブラック企業多しと言えどもかなり珍しいですね」とかなりイージーゲームなご様子。
会社の財務状況もよろしくなかったらしく、残業代が支払われれば会社の倒産もあり得るとのことだった。
これほどバッチリ決まった復讐もなかなか無いだろう。
俺は今までに無いほど晴れ晴れとした気分で、意気揚々と帰宅した。
そして、いつも通りスマホを確認していると。
<ゲラゲラ動画公式からの新着メッセージがあります>
携帯の振動と共に、見慣れない通知が流れてきた。
「なんだこれ?」
登録者10万人、100万人の節目を超えた時の「盾の送付先は登録時の住所で間違いないですか?」の確認メールなど、今まで何度か公式からのメッセージを受け取ったことはあるが、今回は特段心当たりが無い。
収益化の審査結果にしたって、その通知が来るまでにはもう少しかかるはずだ。
いったい何の連絡なのだろう。
気になって、俺はメールボックスを確認することにした。
するとそこにはこんなメッセージが届いていた。
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件名:【企業案件の打診】まつもとペットフード様よりメッセージです
本文:
木天蓼 哲也様
いつもゲラゲラ動画をご利用いただき、ありがとうございます。
この度「まつもとペットフード株式会社 水原 一葉」様より
企業案件のお申し出がございましたため、ご連絡致しました。
お預かり致しました文面を以下に記載致しますので、
内容をご確認頂き、この方とご連絡を取られるかのご判断をお願い致します。
以下、お預かり致しました文面でございます。
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「育ちすぎたタマ」 運営者様
突然のご連絡失礼致します。
まつもとペットフード株式会社 国際事業部の水原と申します。
弊社はドッグフード/キャットフード<代表商品:
この度は弊社主力商品の販売促進のため、ぜひとも「育ちすぎたタマ」様とタイアップさせていただければと考えております。
少しでもご興味を持っていただけましたら、PR動画配信に向けて条件面を含め色々ご相談をさせて頂きたく存じますので、ご連絡を頂けますと幸いです。
(ご相談につきましては電話でもWEB会議でも構いませんが、一度音声にてお話しできればと考えております。もちろん、む〜とふぉるむで本社まで飛んできてくださるということであれば大歓迎いたします!)
ご検討、何卒よろしくお願いいたします。
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まつもとペットフード株式会社
水原 一葉
〒421-2211
静岡県静岡市清水区油比0141
メール:mizuharak@〇〇〇〇〇〇〇〇〇.〇〇〇
電話番号:054-XXX-XXXX(内線:XXX)
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ご不明点がございましたら何なりと運営までお申し付けください。
今後ともゲラゲラ動画を宜しくお願い致します。
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「……おお、マジか」
届いたメッセージは、まさかの企業案件の打診だった。
それもどこぞの怪しい商品の会社とかではなく、犬か猫を飼っている人であれば誰もが知るあの有名ペットフード企業からだ。
「
断る理由も無いので、俺は即座に案件を受ける旨の返信をすることにした。
本社に来ても大歓迎とのことだし、芦屋まで飛べる体力があれば静岡くらい余裕なので、こちらから向かわせてもらうことに。
退職してフリーになったので、日程は水原さんの都合が合う最短で……と返信したところ、ちょうどメールをチェックしてる時間だったのか、速攻で返信が返ってきた。
なんでもいきなり明日10時から来てOKだそうだ。
俺はその日程に承諾する旨を返信した。
暴論で人をクビにしようとするクソ企業もあれば、こうして手を差し伸べてくれる企業もあって……「捨てる神あれば拾う神あり」とは、まさにこのためにある諺みたいだな。
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