第17話 マフィアとの対決①
「マフィアって……そんな物騒なのがうろついてるんですかダンジョンって⁉」
俺はそう聞き返さずにはいられなかった。
ダンジョンがモンスターと命のやり取りを行う危険な場所だってのは理解してたが、そっち方面の危険もあるなんて初耳なんだが……。
迷宮協会のパンフレットや筆記試験にも、そんなこと一言も書いてなかったし。
「ええ、実はそうなんです。ただ、奴らが狙うのは大抵無名配信者ばかりで、しかも誘拐頻度もそこまで多くはないため、一般人からすれば噂話を聞いたことすら無いかと思いますがね」
ネルさんはそう答えてくれた。
なるほど、マフィア側も水面下で細く長く活動し続けられるよう、狙う相手と頻度は調節してるってわけか。
無名配信者なら、急に配信が途絶えても「モンスターにやられた」あるいは「配信業から撤退した」とみなされて終わりだろうし……そんなのばかりがターゲットになってたら、マフィアの話なんて怪しい陰謀論程度の扱いで終わるだろうな。
しかし、そんな奴らが有名配信者のネルさんを狙うとも考え難いが、ネルさんはどこでその存在を知ったのだろうか。
「ネルさんはどうやってその情報を得たんですか?」
「私は直接対峙したことがあります。といっても、私自身が狙われたわけではありませんが……過去に駆け出しの配信者が狙われそうになっているところにたまたま遭遇して、撃退してあげたことがありまして」
なるほど、そういう経緯で直接面識があるのか。
となれば、今回ネルさんが狙われているのも合点がいくな。
おそらくマフィアはその時の恨みを晴らすべく、どこかのタイミングで復讐しようと企てていたのだろう。
今日がたまたまその日だったというわけだ。
流石にネルさんほどの大物を狙えば今までと違って足はついてしまうだろうが、ああいう奴らは面子のためなら暗黙の了解を破って行動したりもするだろうし。
「じゃあ、何としても撃退するしかないですね」
「そうですね……。そういう意味では、狙われるのは今日で逆に良かったかもしれません」
「え……なぜ?」
「マフィアの上層部にはAランク探索者かそれ以上に匹敵する実力者もいると噂を聞いたことがありますが、流石にそいつらもタマちゃんには勝てないと思いますので」
おお、なんかえらく信頼されてるな……。
確かにタマには試験用ゴーレムを破壊するという、Aランクでもできないとされることをやってのけた実績もあるが、果たして本当に対人戦でAランク相当の敵に勝てるのだろうか。
なんて考えていると……タマがこんなことを言いだした。
「にゃ(とりあえず、通信は元に戻すにゃ)」
……え、そんなことできるの?
半信半疑でスマホの画面に視線を向けると……驚くべきことが起こっていた。
:あれ、配信止まった?
:何かあったのかな
:二人とも無事かなぁ……
:おっ、また動き出したぞ!
:みんな生きてる!
:良かった
画面のカクつきが収まり、コメントも再び怒涛の勢いで流れだしたのだ。
タマ……お前はマジで何でも屋か?
「にゃ〜ん、ごろにゃ〜ん(電波を増幅して、うち半分を妨害電波の干渉を受けないよう変調して基地局まで届けてるにゃ。マフィアのものと思われる携帯端末には配信が止まったままの偽映像も流してるし、おそらくマフィア側には妨害電波を突破されたことは気づかれてないにゃ)」
しかも、ただ通信を復活させたのみならず、なんか斜め上の芸当までやってのけていた。
なるほど……作戦失敗を悟らせないようにすることで、マフィアには予定通りこちらを襲撃させ、公開処刑しようってわけか。
相変わらずなんでそんな器用なことができるのか甚だ疑問だが、とりあえずこれは面白いことになってきたようだな。
「にゃ、にゃにゃ(あとは相手が来るのを待つだけにゃ。気配でだいたいの位置は把握してるから、奇襲を受けることもないにゃ)」
それは心強いことこの上ないな。
:あれ、なんでみんな動かないんだろ
:何かを待ってるっぽいけど……何だろ?
:タマちゃん、しきりに鳴いてるな
:なんか解説してくれ!
「ええ皆さん……どうやら先程の配信の乱れは、何者かによる妨害電波が原因だったようでして。これから妨害電波を放った張本人がここに来るので、対決することになりそうです」
視聴者のみんなが困惑しだしていたので、とりあえず俺は簡潔に状況を説明した。
タマの偽映像工作があるのでそこまで配慮する必要はなかったかもしれないが、一応敵に感づかれるのを防ぐため「マフィア」という単語は出さないでおいた。
そうこうしていると……前方から、フードを深めに被った長身の男がゆったりとした足どりで歩いてきた。
「貴様ガ旋律ノネルカ……。今日トイウ今日ハ、決シテ貴様ヲ逃シハセンゾ……」
男はネルさんを指差しながら、片言の日本語でそう宣言した。
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