第18話 マフィアとの対決②
「来ましたね……」
ネルさんはそう呟いて、ギターを中段に構えた。
一応タマに任せきりにはせず、自分も戦闘態勢には入っておくようだ。
「あいつですか。ネルさんの見立てでは、どのくらいの強さっぽいですか?」
俺は気配を読んだりできないので、その点が気になり、ネルさんの所感を尋ねてみる。
「誘拐に遣わされる下っ端とは格が違いますね。あの時は適当に戦っても余裕で勝てる相手でしたが……今回の敵は、私が五十人がかりくらいでないと勝てない程度には強いかと」
どうやら敵は相当強いっぽかった。
マジか。あの雷バチバチの戦闘ができる人が五十人がかりじゃないと勝てないってどんだけだよ。
などと思っていると、ネルさんはこう続けた。
「というわけで、タマちゃんなら楽勝だと思います。あくまで私の主観による比較でしかないですが」
……それ「というわけで」の接続詞の使い方合ってる?
しかしタマを見るかぎり、いつもののんびりとした雰囲気とさして変わらない様子だな。
タマ自身も取るに足りない相手だと思っているのだろうか。
そんな会話をしていると、フードの男がまた口を開いた。
「オイソコノオッサン。俺ハ貴様ニ感謝シテイルゾ……。ダンジョン内デ配信ガ途切レ、以降旋律ノネルガ失踪スレバ、民衆ハ間違イナク貴様ガ犯人ダト思ウダロウナ」
どうやらこのタイミングでネルさんが狙われたのは、偶然では無かったようだ。
確かに、おっさんと少女が二人きりでダンジョンという
濡れ衣を着せる絶好の機会と見て、この配信を狙ったわけか。
まあ、その作戦はタマの通信復旧により既に頓挫しているわけだが。
「猫トオッサンハ殺ス。旋律ノネルハ生ケ捕リダ。今日カラタップリ闇ノ労働ニ従事シテモラウカラナ」
フードの男は続けてそう宣言すると、全身からドス黒いオーラを噴出させ始めた。
あれも何かの技か?
「出デヨ、暗澹タル浄土ノ主ヨ!」
どうやらその見立ては合っていたようだ。
はじめはただの靄だったドス黒いオーラは、男のかけ声と共に千手観音のような姿を形成したのだ。
「ネルさん、あれは……?」
「さ、さあ……」
見慣れない技の正体が気になり、俺はネルさんに質問したが、あの黒い千手観音が何かはネルさんも知らない様子だった。
「にゃ(コメント固定したにゃ)」
そんな俺たちの様子を見て、すかさずタマがそう鳴いた。
コメントを……固定?
スマホの画面を見てみると、タマの言っている意味が分かった。
・このコメントは「育ちすぎたタマ」によってピン留めされました
:暗黒観音じゃね? 密教を極め、かつ人の道を大きく踏み外した人にしか使えんやつ
てことはアイツAランク上位相当の実力あるんか……
他のコメントは秒で流れていくのに、そのコメントだけコメント欄のトップに残り続けているのだ。
へえ、そういう技なのか。
外国から密教を学びに来るほど宗教熱心なのに、マフィアだなんて悪の極みにまで堕ちるとは可哀想な奴だ。
てかタマ、さっきから当たり前のようにやってるけど、なんで鳴くだけで電子機器を遠隔操作できるんだ?
ほんとしれっとよう分からん能力持ってるよな……。
「多分効かないけど……おりゃあぁっ!」
とりあえず正体は分かったところで、ネルさんは一か八か極太の雷をフードの男めがけて飛ばした。
「フン」
が、雷は暗黒観音手のうちの一本により弾き飛ばされてしまった。
「にゃ(じゃタマがいくにゃ)」
ここで本命のタマに交代。
タマはいつも通り左の前足を上げ……そのままひょいと地面に振り下ろした。
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