第16話 はじめてのコラボ配信③
「どうもー、『育ちすぎたタマ』チャンネルへようこそ。こちらのかわいいもふもふがタマで、私が飼い主の哲也です」
:おはようにゃー
:もふもふ! もふもふ!(>ω<)
:一週間ぶりのタマちゃんキタ━(゚∀゚)━!
:国境なき探索者さんちっすちっす
:出たww史上最強のDランク探索者ww
:マジでコーヒー吹いたからなあの試験結果
始めの挨拶をしている間にも、怒涛のコメントが流れてくる。
「本日は素敵なゲストにも来ていただいております。旋律のネルさん、どうぞ!」
「ど〜も〜! 『レスポールさえも凶器に変える女』、旋律のネルで〜す! 今日は激きゃわわなタマちゃんと一緒にダンジョンを蹂躙できることになって、テンション爆上がりで〜す!」
「ごろにゃ〜ん(よろしくにゃ)」
続けてネルさんを紹介すると、ネルさんはタマの頭をわしゃわしゃと撫でながら決まり文句の挨拶をした。
タマは空気を読んでタイミングよく鳴いた。
:味方と分かった途端これは草
:ネルちゃんずるいぞ! 俺にももふらせろ!
:↑ネルちゃんやから許されとるんやで
:↑お前がもふったら即ひっかかれて一発アウトやで
:みんな辛辣で草
「さて、今私たちは春日部市の危険度Cダンジョンに来てるわけですが……今日はどんな作戦で攻略しましょうかね?」
「そうですね……」
言われてみて、俺はハッとした。
そういえば、どんな立ち回りでこのダンジョンを攻略するかとか、全然決めずに配信始めちゃったな。
ただダンジョンを攻略するだけであれば、正直作戦など考える必要は全く無い。
この程度のダンジョンなら、いかなる敵もタマのひっかきか渾身の一撃で沈むことがほぼ確定だからだ。
何ならむ〜とふぉるむでボス以外を蹴散らし、ボスとのみまともに戦えば秒速クリアも不可能ではない。
しかしーー配信という点においては、そんな攻略はお粗末としか言いようがない。
せっかくのコラボなのにネルさんの出番が最初の挨拶だけでは、あまりにもゲストに対して失礼だろう。
かと言って、協力して倒すほどの敵がいるとも思えないしな……。
いったいどうしたらいいだろうか。
「逆にどんな作戦がいいと思いますか……?」
こんな時は、ベテランの意見に従おう。
そう思い、俺は質問をそのまま返した。
ネルさんは少しだけ顎に手を当てて考えた後、こう提案した。
「そうですね……せっかく今はタマちゃんが盤石の安全を保証してくれてて、私が途中で力尽きても何のリスクもないわけじゃないですか。この機会に、前半戦で一度私の全力をお披露目するってのはどうでしょう? 私がバテたらタマちゃんと交代ってことで」
なるほど、そう来たか。
確かに、普段ネルさんが単独で探索する時は体力のペース配分を考えて戦ってるだろうし、本当の意味での「後先考えない全力の戦闘」はネルさんのファンですら見たことないだろう。
それをこのチャンネルでやれば、ネルさんはファンに普段と違う一面を見せられるし、俺とタマは「珍しいネルさんを引き出した立役者」としてネルさんのファンからの好感度を上げられるってわけか。
まさにウィンーウィンなコラボになるな。
一瞬でそこまで考えて提案してくれるとは、やはり人気配信者は頭が良い。
「ぜひそれで」
俺は二つ返事で賛同した。
「分っかりました! では、しばらくはっちゃけさせてもらいますよ……フフッ」
ネルさんはギターをグルングルンと回しながら、不敵な笑みを浮かべた。
:お、これは……
:もしやがっつりトールハンマーが見れる?
:やべえ神回来た
:wktk
:タマちゃんの前だからって張り切りすぎww
コメント欄を見る限り、視聴者も大いにワクワクしてくれているようだ。
「にゃ(置いてかれないようにしなきゃにゃ)」
タマはというと、おもむろにむ〜とふぉるむに変身し、俺を念力で引き寄せた。
ついていくためだけに変身までするとは……そんなに超高速で敵を捌いていくのか?
まあ、どうなるか見ものだな。
タマの背中の上からネルさんの様子を観察していると、ネルさんはギターを回す速度を急激に上げながら、全身に稲妻を迸らせだした。
そして次の瞬間、ネルさんは稲妻だけを残して姿を消した。
「……え?」
それから数秒の間、俺は不思議な光景を見せられることとなった。
先週ボス部屋まで一気に突き進んだ時よりは少し遅いくらいの速度で、タマはダンジョン内をズンズン進んでいくのだが……俺の視界に映るものは、稲妻とドロップ品に変わりつつある魔物だけなのだ。
あとは後ろからカプセルが吸い寄せられてくるのがちょくちょく見えるくらいのもの。
どういうことだ?
ネルさん、本気を出したら肉眼では追えないほど速いってのか?
「にゃ(動体視力を強化するにゃ)」
などと思っていると、タマは俺がネルさんの姿を捉えられていないのを察したのか、そう言って俺の目に力を与えてきた。
すると……ようやく状況が分かるようになった。
帯電したギターのボディでモンスターの頭をぶちのめし、首から上を木っ端微塵にしたり。
ギターを思いっきり投げて、モンスターの胴体を貫通させて大穴を開けたり。
投げたギターに向けて雷を放ち、ブーメランのように軌道を変えさせて手元に戻したり。
そういった動作が、辛うじて見えるようになったのだ。
マジか。ただ稲妻が走ってるだけのように見えた場所で、あれほどの攻防が繰り広げられていたとは。
いや、攻防なんてもんじゃないな。
モンスターたちはほとんど自分が攻撃されたことに気づかないまま死んでるし、あんなのは一方的な殺戮以外の何物でもない。
てか、肉眼で追えないほどの猛スピードって画的にどうなんだ……?
まあ、稲妻と共に敵が爆散する光景だけでも様になるから問題ないと言えばないか。
それにネルさんがくれたカメラ、ハイスピードカメラとしても一流の性能って書いてあったから、あとでこのシーンのスローモーション版の動画でも出せば二度楽しんでもらえるかもな。
とはいえどこかで一度くらいは、ネルさん本人の攻撃する姿が生配信上で見える場面も欲しい気がするが。
と思っていると、ふいにネルさんは曲がり角を曲がったところで静止した。
そしてーー。
「はあぁぁぁーーーーーっ!」
思いっきり叫びつつ、地面に向かって極太の雷を落とした。
雷は高熱で地面を蒸発させながら前に進み、進行方向の地面を抉っていく。
その過程で、地面に潜っていたであろうモグラ型やワーム型の巨大魔物が何匹か丸焼きにされ、地面から放り出されながらカプセルに変わっていった。
なんじゃありゃ。
雷タイプは土タイプに弱いとかありそうなもんだが、そんなの一切お構いなしだな……。
が……流石に今のはネルさんにとっても負荷が大きかったのか、ネルさんはハァハァと息を荒くしながらゆっくりと地面に降り立った。
「いやー、最大出力をぶっ放し続けると、流石にこのくらいでガス欠になっちゃいますね……」
ネルさんは力なく笑いつつその場にへたり込んだ。
:お、おつかれ……
:エグすぎやろ……
:ほぼ稲妻しか見えんかったわ草
:アーカイブ0.25倍速で見直そ
:Bランクって本気出したらこんな強えんか
:レベチすぎる B目指してたけど完全に心折られた
時間にしてみれば数十秒程度の出来事だっただろうが、視聴者たちは満足してくれているようだ。
「お疲れ様」
「ありがとうございます。それじゃあ続きはタマちゃんお願いします!」
「にゃ(まかせるにゃ)」
タマはむ〜とふぉるむを解除し、猫の姿に戻った。
「にゃにゃ?(良かったら、タマの背中に乗っとくにゃ?)」
ヘトヘトで歩くのもしんどそうなのを見かねてか、タマがネルさんを運ぶことにしたようだ。
「ありがとうございます! やったー、もふもふ交通だー!」
ネルさん……運んでもらえることよりタマをモフれることの方を喜んでないか?
別にタマが嫌でなければ何でもいいけども。
ネルさんを乗せたタマは、てくてくと歩いて焼跡の残る地面を進み始めた。
タマにとっては平気なのかもしれないが、地面の中央は未だ赤熱していて普通に歩くと足を火傷しそうなので、俺は端の方を歩きながらついていく。
次はどんなモンスターが出るだろうか。
などと考えつつ、スマホの画面に視線を落とした時のことだった。
「あれ……?」
俺はそこで異変に気づいた。
コメント欄の流れが止まっており……プレビュー画面もカクついたり、映像が乱れたりしているのだ。
さっきまで普通だったのに……いったいどうしたんだ?
通信障害でも起きたか?
「ネルさん、なんか画面がラグいんですが……これ通信障害ですかね?」
せっかくのコラボ配信なのに、タイミング悪いなあ。
などと残念に思いつつ、ネルさんにそう聞いてみた。
が――それを聞いたネルさんは、途端に顔色を変えた。
「え……哲也さんそれ本気で言ってます?」
「はい、画面もこうカクついてますし」
「ま、まずいですこれは……!」
険しい表情で動揺するネルさんの様子に、俺は少し訳が分からなくなった。
確かに、配信トラブルはまずいことに違いないが……これほどのベテランの方が、ここまで慌てるようなことだろうか?
「一体どうまずいんですか?」
尋ねてみると、ネルさんはこう答えた。
「これがただの通信障害だったら全然いいんです。ですが……ダンジョンで配信が乱れた場合、それはもっと恐ろしい事の前兆の可能性が非常に高いです。――アイドル配信者を誘拐する目的で、配信を遮断するためにマフィアが妨害電波を流しているケースかもしれません」
ネルさんが怯えている理由は、想像の斜め上を行っていた。
おいおいおいおいおい。
そんな急に物騒な話になるのかよ……。
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