第15話 はじめてのコラボ配信②
これ……撮影用の浮遊カメラだよな。
それもあの時店に置いてあった中で一番高価な、AI制御で最高の画角から取ってくれる機能が搭載された超高画質カメラじゃないか。
い、いや……これ確か16万くらいしたよな。
いくら何でもこんな高価な物を受け取るのは忍びないような……。
「さ、流石にこれを貰うのはあまりに畏れ多いですよ……。ご自身で使われた方が……」
「私は既に自分用のを一個持ってますから。それに私、前回の哲也さんの配信を見て気になってたんです。ヘッドカメラだと画面揺れとかどうしても出てしまうし、浮遊カメラに変えた方が絶対いいのにって」
見てくれてたのか。
その上で選んでくれた商品となると、断るのもそれはそれで失礼って話になってくるな。
「お高かったでしょうに……ありがとうございます」
「いえいえ、命に比べたら屁でもない値段ですから。それに哲也さん、あの時ニンジャゴブリンのカプセル置いていかれたじゃないですか。あのドロップ品、8万くらいするんで……実質割り勘していただいているようなもんですよ?」
「なるほど」
それならまだいい……のか?
まあいいや。
どうせ貰うなら、悩んでてもしょうがないし。
そうこうしていると、俺はパンを食べ終わったので、コーヒーを一気に流し込んで朝食を終えた。
そのタイミングで話題が変わり、俺たちは今日の予定について話すことに。
「で、今日のコラボ配信なんですけど……行き先はどうします?」
「僕は……ネルさんのおすすめとかあればそれで。どこのダンジョンにどんな特徴があるとか、正直よく知りませんから」
「おすすめですか、そうですね……哲也さん、訳分からない点数配分でDランクになられてましたもんね。でしたら、ひとまず危険度に関してはCのダンジョンでいかがですか?」
質問されたので聞き返すと、ネルさんはそんな提案をしてくれた。
……ん? DになったからCへ?
なんか妙にちぐはぐなことを言われてる気がするが、その心はいったい。
「ええと……それはどういう……?」
「あ、説明が漏れており申し訳ないです。ダンジョンって、危険度Dまでは特に入場制限とか無いんですけど、危険度Cからは特定の条件を満たしてないと入れないんですよね。その条件が、『自身がCランク以上』あるいは『自身がDランク、かつBランク以上の付き添いがいる』なんです。それに照らし合わせれば、今回の私たちのペアは後者の条件を満たしてるんで、危険度Cでいいかなと思いました」
なるほど、そういう理屈か。
俺とネルさんの二人で入れる最高難易度がCだから、そこにしようってわけだな。
「ま、私が付き添いってのはあくまで形だけで、本当の最高戦力はタマちゃんですけどね」
「いえいえ、ネルさんは頼りになる付き添いですよ。戦力面はともかく、配信のコツとか色々学ばせていただきたいんで」
「も〜、そんなこと言っちゃって〜」
ネルさんは両手でほっぺを押さえながら、若干照れたようにそう言った。
「じゃ、ここから一番近い危険度Cダンジョンは春日部市にあるんで、そこに行きますか」
「はい」
危険度を決定したら、ネルさんが場所を提案してくれたので、俺は二つ返事でそれを了承することに。
「じゃ、私ファンのみんなに向けて告知しますね〜。配信のリンクが必要なんで、哲也さんは配信の予約をお願いできますか?」
「予約……はい」
着いてからポチポチと配信設定や告知をするんじゃなくて、あらかじめやっとくって方法があるのか。
早速、配信ノウハウに関する学びがあったな。
予約登録が完了すると、ネルさんがそのリンクを取得し、各SNSで告知を流した。
そこまで準備が完了すると、いよいよダンジョンに向かうことに。
俺たちは家の外に出て、タマにはむ〜とふぉるむに変身してもらった。
そして俺とタマはむ〜とふぉるむの飛行で、ネルさんは雷神飛翔で、それぞれ春日部のダンジョンに飛んでいった。
◇
ダンジョンの近くで着陸し、一分ほど待っていると……雷鳴と共にネルさんが到着した。
着地の衝撃が凄まじかったらしく、ネルさんの周りの地面には無数のヒビが入ってしまっている。
「ちょ、え……む〜とふぉるむ、いくら何でも速すぎません⁉︎」
そんなネルさんの第一声は、タマのスピードへのツッコミだった。
「一瞬で突き放されて、姿を見失っちゃったんですけど……! 目的地が分かってたんでまだ良かったですけどね。慌てて全速力で追いかけたら、減速しきれずにちょっと着地に失敗しちゃったじゃないですか!」
ネルさんは若干肩で息をしながらそう続けた。
マジか。落雷のイメージからネルさんのスピードはタマと遜色無いと勝手に思ってたが、そんなこともなかったか。
てか今の着地、失敗だったんだな。
言われてみれば、家の前の道路はこんなヒビだらけになってなかった気がする。
「にゃにゃ(すまんにゃ、修理するにゃ)」
ネルさんのツッコミを聞くと……タマはそう言って、軽く両前足を上げた。
そして両足でドシンと地面を踏み込むと、振動でヒビが全部完璧に閉じた。
……え、どういう原理?
「タマちゃんありがとう!」
ネルさんは疑問を持つことを放棄したようだ。
まあ、考えたところで分かるものでもないだろうしそれが正解だろうな。
「それじゃ早速ダンジョンに入りましょうか! Cランク以上のダンジョンの場合は、あんな感じで入り口前に迷宮協会が設置した無人ゲートがあるので、探索者証をかざして通ることになります」
ヒビ修理の話はさておき……ネルさんは入り口前の改札みたいな見た目の装置を指し、入り方を解説してくれた。
「了解。……あれ?」
言われた通り、俺は探索者証をゲートにかざした。
しかし……それではゲートは開いてくれず、ただエラー音がピーピーと鳴るだけだった。
「あ、危険度より下のランクの探索者証ではゲートは開きませんよ。付き添い込みで入る場合は、二人の探索者証をまとめて読み取るんです」
なるほど、そういう仕組みだったか。
ネルさんが自分の探索者証を重ねて置くと、やっとゲートが開き、俺たちは中に入ることができた。
「じゃ、カメラを起動して、配信開始ボタンを押してください!」
「了解」
スイッチをオンにすると……浮遊カメラはフワッと空中に浮かんだ。
続けてゲラゲラ動画のアプリを開くと、浮遊カメラとスマホの同期が始まり、カメラに映る映像がスマホに表示される。
その状態で配信開始ボタンを押すと、配信が始まった。
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