第8話 はじめての配信!①

 む〜とふぉるむでダンジョンまで運んでもらうと、早速俺は配信の準備を始めた。

 ヘッドカメラをスマホと同期させてから頭に装着し、ゲラゲラ動画のアプリを立ち上げてライブ配信開始ボタンを押す。


 すると配信前の設定をする画面が出てきたので、俺は各項目を埋めていった。

 タイトルは「はじめまして、先日急に巨大化したうちのタマです」とかでいいか。

 公開設定はもちろん「公開」、概要欄は家で作ってきた定型文をセットしてと。

 一通り終わり「次へ」ボタンを押すと、ついにライブ配信が開始された。


 そしたら今生成された配信のリンクをトゥイッターに貼り付けて、これで告知も完璧。

 まあさっき作ったばかりのアカウントでまだフォロワー0だから、今日は告知してもしなくても一緒だがな。


 スマホ画面では、今カメラに映っている(=配信されている)映像と、コメントや同接数(現在の視聴者数)などが確認できるようだ。

 全く無名の配信者が数秒前に始めた配信なので、当然同接数は0でコメントも無い。


 配信が終わる頃には10人くらい集まってくれてるといいな。

 などと思いつつ、俺は始まりの挨拶を口にした。


「どうもー、『育ちすぎたタマ』チャンネルへようこそ。画面に映っているのがタマで、今喋ってるのが飼い主の哲也です」


 今は誰も見てないが、どうやら配信後には「アーカイブ」と呼ばれるライブの録画が残り続けるようなので、挨拶するのは無駄ではない。


「タマ、進んでいいぞ」


「にゃ(了解にゃ)」


 俺が声をかけると、タマは奥に向かって進みだした。

 それからしばらくは、昨日と同じようにダンジョンを攻略していく時間が続いた。


 ◇


 異変が起きたのは……ヴェノムバットの出現エリアが終わり、全長2メートルくらいの赤いトカゲ(確か名前はフレイムリザードだった)が出てきだした時のことだった。


 それまでの配信は非常にこじんまりとしていて、同接数は5〜10分に一人くらい、ぽつりぽつりと増える程度だった。

 その視聴者も特にコメントを打ってくれるわけではなかったので、俺が喋ったことといえば、タマへの指示と「新規さんいらっしゃい」くらいのものだ。


 本当は雑談でもできればもう少し視聴者を楽しませられるんだろうが、生憎俺にそんなスキルは無いしな。


 だが……フレイムリザードを倒し、そのカプセルを拾った時に新しく入ってきた視聴者は、今までと様子が違った。


「新規さんいらっしゃ――」


 :チャンネルできてて草 スレに報告してくる


「――え? あ、コメントありがとうございます……」


 見に来た瞬間、その視聴者はコメントをくれたのだ。

 はいいのだが、問題はその中身だ。


 スレに……報告?

 スレってあれか、ネット掲示板的なやつのことか?

「チャンネルできてて草」って書くってことは、この人たぶん配信に来る前からタマを知ってる人だよな。

 掲示板で昨日ニンジャゴブリンを倒した動画が話題になってて、そこのスレにリンクを貼ってくれようとしているのだろうか……。


 などと考察していると、恐ろしいことが起こり始めた。


「ど、同接数100……280……1000……1300……まだまだ上がってく……!」


 故障かと思うくらいのペースで、同接数が膨れ上がりだしたのだ。

 一旦それは1500くらいで落ち着いたが、今度はコメントが慌ただしくなりだした。


 :ほんとにやってて草

 :名前、タマちゃんなんだww

 :やってることえげつないのに名前は普通ww

 :俺トゥイッターで宣伝してこよ

 :俺も

 :伝説の始まりに出会えたことに感謝!


 そんなコメントを筆頭に、処理しきれないほどの量のコメントが殺到しだしたのだ。


 視聴者が増えるとこんなスピードでコメントが流れてくるのか。

 流れが速すぎて、何にどう返事すればいいか全然頭が回らないぞ。

 世の配信者たちは、これを上手いこと捌きながら毎日配信を行っているというのか。

 俺もいつか慣れるのかな……。


 とりあえず、全部に返事するのは到底無理なので一旦諦めてと。

 特にありがたいコメントから順に拾い上げていくとするか。


「拡散してくださるという方、ありがとうございます……!」


 コメントの中にちらほら「〇〇(←任意のSNS)で宣伝する」系のがあるため、まず俺はそれらへのお礼を言った。


 そうしていると……またもや確変が起こりだした。


「ど、同接数1700……2500……4000……6000……う、うおおおお!」


 宣伝してくれた人の中にインフルエンサーでもいたのか、同接数の増加にさらなる拍車がかかったのだ。

 最終的には、同接数は1万を超えるに至った。


「こんなにもたくさん……皆さん、見に来てくれてありがとうございます。画面に見えるのがうちのペットのタマです。今後ともどうぞよろしくお願いします」


 とんでもない量の新規が来たことを受け、俺は改めてタマを紹介した。

 というか同接数とコメントに気を取られて気づいていなかったが、ちょうど今次のフレイムリザードがタマの前に近づいているようだ。


「にゃ(ひっかくにゃ)」


 タマが左の前足を振ると、フレイムリザードは真っ二つになり、カプセルへと姿を変えた。


「ご覧いただきましたでしょうか。今のがタマの”ひっかき”です。何で足を振るだけで触れてもない敵が真っ二つになるんでしょうね……でもそういうもんらしいです」


 :えぇ……

 :思ったよりやる気の無さそうな一撃で草

 :↑の割になんつー殺傷能力

 :エグ過ぎて引いた

 :ひっかきの概念壊れる

 :飼い主も疑問に思ってて草 なんでこっち側やねんw


 解説を入れてみると、怒涛の反応が返ってきた。

「なんでこっち側やねん」て言われてもなあ……俺だって二日前まで普通の猫としてのタマしか知らなかったんだから仕方ないだろ。


「タマ、このカプセルの中身って何だ?」


「ごろにゃ〜ん(ナイロンが2キロ入ってるにゃ)」


「皆さん、フレイムリザードから取れたカプセルの中身はナイロン2キロだそうです。ちなみに私哲也はこのようにタマの言葉が分かるので、随時皆さん向けに翻訳しようと思います」


 などと念話を用いた会話を披露したりもしつつ、俺たちは攻略を進めていった。

 タマが前足の一振りでフレイムリザードを瞬殺するたび、コメント欄は大いに盛り上がった。


 ◇


 それから次に流れが変わったのは、フレイムリザードのゾーンを抜け、また新しいモンスターのゾーンに入った時のことだった。

 次に出現したのはクォーツヘッドというモアイ像のような見た目のモンスターだったのだが、それも”ひっかき”一撃で一刀両断できたところで、タマがこんなことを言い出したのだ。


「にゃ、ごろにゃ〜ん(もうこのダンジョン飽きたにゃ。簡単すぎるから、ボス部屋まで一気に移動していいかにゃ?)」


 え……?

 ボス部屋まで一気に移動……?

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