第7話 配信への挑戦を決意した

 さてと。

 売却が終わったので、次は探索者登録を――するべきなのだろうが、その前にちょっと気になることがあるな。


 それは、あの例のギターの少女が配信をしていたということだ。


 ギターを持っていたとはいえ、あれは別にダンジョン内でMVの録画とかをしていたわけではないはずだ。

 自分がプロデューサーだったら、大事な商品にそんな危険なことをさせるなんて絶対に許可しないだろう。


 どちらかと言えば、あの子はやはり「ギターっぽい武器で戦う探索者」で、ダンジョン攻略そのものを配信する系のアイドルだと考えた方がしっくり来る。

 それに確か、言われてみればなんか聞いたことがある気もするんだよな、「ダンジョンで動画配信して動画の収益で食ってる人たちがいる」って。


 ――もしかして、やりようによっては俺にもできることなんじゃなかろうか?


 あのかわいらしい少女とは違い、冴えないおっさんになど何の需要も無いだろうが、それでも俺には勝機がある。

 勝機とはもちろん、タマの存在だ。


 ペットの犬猫の動画というのはいつの世も需要があるものだし……今タマがバズっているのだとしたら、そんなの好機以外の何者でもない。


 探索者登録は急いでしなくても罰則とか無いみたいだし、一旦そこは後回しにして、俺もダンジョン配信を試してみたほうがいいんじゃないだろうか。

 いてもたってもいられなくなった俺は、建物を出て路地裏に向かい、空に手を振ってタマを呼んだ。


 まあ、昨日のバズりは偶然が重なっただけの奇跡だし、本当にそれで食えるレベルに達するってのは夢見過ぎな気もするけどな。

 それでも、万が一成功すれば今の超絶ブラック企業を辞められるかもしれないのだから、試してみないという手はないだろう。


 などと考えているとタマが降りてきたので、俺は次の行き先を伝えた。


「最寄りの家電量販店まで飛んでくれ」


「にゃ(了解にゃ)」


 配信をするにしても、俺はそのための機材なんて何も持っていない。

 なのでまずは、家電量販店で最低限の装備を揃えることにした。


 二十秒ほど飛ぶとそこそこ大きい電気屋の屋上に着いたので、そこで降ろしてもらい店内へ。


 とりあえずまずは撮影道具からと思い、カメラコーナーに行くと、ちょうどそこには「ダンジョン配信に使う機材特集」というコーナーがあった。


 どうやらカメラは大きく分けて二種類あって、頭に装着するカメラか自動制御で自分の周辺を撮影してくれる浮遊カメラ(あるいはカメラを取り付ける三脚)あたりが主流のようだ。

 最悪カメラはスマホについてるのでも良い気がしなくもないが、カメラをタマに向けたままコメントを読むとなるとやりづらい気もするし、どちらかのタイプは買っておいて良さそうだな。


 まだ成功するかどうかも分からないのに巨額の投資はできないと思い、とりあえず今回は比較的リーズナブルな頭に装着するタイプを買うことにした。

 マイク機能付きで一万円のものがあったので、それを購入することに。


 他にも色々と周辺機器を揃えだしたらキリがなさそうだが、特集のコラムを読む限り一旦カメラとスマホさえあれば配信できないことはないようなので、それだけ買って店を出ることにした。


 ◇


 屋上に戻るとまたタマに乗り、早速ダンジョン……へ行く前に一旦帰宅。

 本当はそのまま行きたかったところだが、よく考えたら俺は配信用のアカウントも何も持ってないので、先にそれらの準備をするのだ。


 まず用意すべきは配信サイトのアカウントだが……これはまあ無難に「ゲラゲラ動画」のアカウントでいいか。

 ライブ配信に特化したアプリは色々あるようだが、正直それぞれどんな特色があるのかさっぱり分からないし、であればとりあえず世界最大手のサイトに登録しとくのが間違いないだろうからな。


 動画投稿こそしたことはないものの、「ゲラゲラ動画」ならいつも動画を見るのに利用しているので、ある程度使い勝手も分かるし。

 まあ、俺が見るのはMLBメジャーリーグNPBプロ野球となんjまとめ系のチャンネルばかりなので、ダンジョン配信を見たことは無いけども。


 アカウント作成にあたって必要なのは氏名・メールアドレス・生年月日に……ここでチャンネル名も決めるのか。

 齢30を超えて巨大化したタマの活躍を映すってのがコンセプトなわけだし、チャンネル名は「育ちすぎたタマ」とかにしとこう。


 次はプロフィール画像の設定……これはスマホの写真フォルダの中にあるタマの写真のうち一番かわいいやつに設定しとくか。

 俺からすればどれも最高にかわいいんだが、一応客観的に見てもベストショットであろうやつをな。


 あとはチャンネルの概要欄とかを適当に埋めて……一旦初期設定は完了っと。

 そしたら他には告知用に、同じく「育ちすぎたタマ」名義でトゥイッターアカウントも設定しておこう。


「よし、ひととおり終わり! それじゃタマ、昨日のダンジョンに行こうか」


「にゃ(ぜひ行きたいにゃ。昨日途中で終わっちゃったから物足りなかったしにゃ)」


 タマもやる気なことだし、早速ダンジョンへ向けて出発だ。

 ニンジャゴブリンを倒せたあたり、危険度Bでも通用する実力はあるのかもしれないが、慣れない配信をしながらアクシデントとかが起きても嫌だし、とりあえず攻略対象は昨日と同じ越谷のダンジョンにしておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る