第6話 タマが話題になっていたみたいだった

 次の日。

 ドロップ品の扱いについてネットで調べていると、どうやら「迷宮協会」という農協のダンジョン版みたいな組織が買い取ってくれるらしいことが分かったので、俺は最寄りの迷宮協会さいたま市支部に向かうことにした。


「タマ、この場所まで『む〜とふぉるむ』お願いしていいか?」


「にゃ〜ん(まかせるにゃ)」


 スマホの地図検索画面を見せつつお願いすると、タマが連れて行ってくれることになったので、変身してもらって移動開始。

「む〜とふぉるむ」による高速移動はこれで三回目だが、昨日の往復で慣れたおかげか、今回はもうほとんど怖さを感じなくなっていた。


「ありがとう。じゃ、ちょっくら売ってくるから適当に待っててくれ」


「にゃ(了解にゃ。上で待っとくにゃ)」


 あまり人目につかないよう、協会支部近くの裏路地で降ろしてもらうと、そこからは歩いて協会の建物へ。

 タマはむ〜とふぉるむのまま上空に戻り、そこでホバリングしながら待つことにしたようだ。


 建物に入ると、俺は戦利品売却用の受付を探し、その列に並んだ。


「次の方どうぞ〜」


「こちらの売却をお願いします」


 俺の番が来ると、俺はバッグからポリエチレン入りのカプセルと石灰入りのカプセル計二十個を取り出し、カウンターの隣の台の籠に入れた。


「かしこまりました、それでは中身を確認しますね。……中身はこちらでお間違いないでしょうか?」


 籠の中身は機械的に測定できる仕組みになっているようで……受付の人が機械を操作すると、目の前の液晶画面に「マッドモンキーのカプセル×10、ヴェノムバットのカプセル×10」と持ち込んだ戦利品の内訳が表示された。


「はい、問題ないです」


 表示内容を見て、俺はそう即答した。

 中身ではなく、倒した魔物の名前の方で表示されるとはな。

 昨日あの後戦った魔物の名前を調べておいてよかった。


 ちなみに俺が調べたサイトは「越谷市のダンジョンで出現する魔物一覧」みたいな名前だったはずなのだが、なぜか最後にタマが倒した忍者風小鬼だけはいくら探しても出てこなかった。

 理由は分からないが、まああのカプセルは回収してないので別に問題ない。


「かしこまりました。では探索者証を見せていただけますか?」


 俺の回答を聞くと、受付の人が今度はそう尋ねてきた。

 ……え?

 何だそれ、聞いたこともないぞ。

 いや、ちゃんと調べればどっかのサイトには書いてたのだろうが、検索結果の見出しだけ読んで来ちゃったからなあ……。


「すみません……探索者証は持ってないです」


 リサーチ不足で来たことを申し訳ないと思いつつ、俺は素直にそう答えた。

 すると……受付の人がキョトンとした表情になった。


「え……お客様、もしかして探索者登録もせずに危険度Dのダンジョンに挑まれたんですか⁉」


「申し訳ありません。そういうのを取得してから挑むものだと知らなくて……」


 あまりにも驚かれたので、俺は「探索者登録してからじゃないとダンジョンに入っちゃダメな法律でもあったらどうしよう」と内心ヒヤヒヤしながらそう答えた。

 すると受付の人からはこう返ってきた。


「あ、いえ、結果ご無事だった以上は問題無いといえば無いのですが。ただ、素人がいきなり危険度Dのダンジョンなんかに挑めば十中八九命を落とすので、通常は探索者登録時に実力を測定し、私どもから推奨難易度をご提示してるんです」


 良かった、とりあえず法に触れてはなかったか。

 そういうことなら、まず探索者登録を済ませてから再度売りに来れば問題なさそうだな。

 などと考えていると、受付の人から続けて質問が来た。


「ちなみにお客様はどのような戦闘スタイルでダンジョンに挑まれたんですか?」


「戦闘スタイルですか……。正直、俺が戦ったわけではないんですよね。戦闘は全て飼い猫任せでした」


 なぜそんなことをと思いつつも、一応答えると……受付の人は何か合点が行ったかのように手をポンと叩いた。


「ああ! お客様、あの話題の巨大猫の飼い主様でいらっしゃるんですね!」


 ……へ?


 一瞬、俺は何を言われているのか分からなかった。

 話題の……巨大猫?

 飼い猫が戦ったとしか言ってないのに巨大猫の飼い主だと特定されたのも訳が分からないし、タマが今話題だなんてもっと意味不明だ。

 一体何がどうなっているのやら。


「飼い猫は確かに巨大ですけど……話題ってどういうことですか?」


 逆に俺はそう質問し返した。


「え……飼い主さんなのに知らないんですか? ……昨日、お宅の猫ちゃんがニンジャゴブリンを瞬殺したのは心当たりありますよね?」


「ニンジャゴブリン……名前は初めて聞きましたが、忍者みたいな見た目の小鬼は確かに、はい」


「あれ、アイドルの配信に映り込んでたんですよ。その放送が切り抜かれて、今絶賛大バズり中なのですが、その様子ですとご存知ないみたいですね」


 それを聞いて……俺は背筋が凍った。

 そういえば、昨日のあのギターを担いだ少女……あれアイドルだったのか⁉

 だとしたらマズイぞ。アイドルが倒すはずだった魔物を横取りしてしまったなんて、そんなのめちゃくちゃ炎上するに決まってる。


「はぁ……ついてないなあ俺……」


「どうして落ち込まれるんですか⁉ お宅の猫ちゃん、今大人気なのに!」


「え……人気なんですか? アイドルの獲物を横取りしてしまったのにですか?」


「横取りって……あのですね、ニンジャゴブリンは本来危険度Bのダンジョン深層にいるモンスターですよ。それがなぜか、昨日は危険度Dのダンジョンに転移してきてたんです。そのイレギュラーをサクッと片付けたんですから、お宅の猫ちゃんは今アイドルを救った英雄ですよ⁉」


 と思いきや……どうやら事情は全然違ったようだった。

 マジか。あれ、そんなピンチな状況だったのか。


 てかタマ、なんか地味にすげー強敵を屠ってたんだな。

 もしかして、実は本当にめちゃくちゃ強かったりするのだろうか。


「そうだったんですね。一旦安心しました! では一旦、売却のために探索者証を作って戻って参ります」


「全く、こんなに実力がありながらダンジョン周りの事情に疎い人は初めてですよ……。ちなみに探索者証が無くても売却するだけなら可能です。討伐記録に反映はできませんけどね。……何度も行き来するのも面倒でしたら、売ってから作りに行かれてもいいですがいかがしますか?」


「あ、じゃあ買い取りお願いします。何度も手続きしていただくのも申し訳ないので」


 そして売却自体は今すぐ可能とのことだったので、換金手続きだけは今済ませてしまうことにした。


「では、買取価格200円のマッドモンキーのカプセルが10個と買取価格300円のヴェノムバットのカプセルが10個で、査定額は計5000円となります」


「ありがとうございます」


 換金は一瞬で済み、俺は五千円札を一枚受け取ってカウンターを後にすることとなった。

 二束三文にしかならないかと思ったが、意外と馬鹿にならない金額が手に入ったな。

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