第3話 太陽と月

私たちは、あの後こっそりと二人でその場を抜け出して、教室までダッシュだ。


置いていったことが美零たちにバレたら絶対二人揃ってしばかれると思ったが


生憎、好奇心という名の欲望は止められないのだ。


ただもう一つしばかれる前に問題があった。


私の体力という問題。


サッカー部所属の体力化け物の渚は先に階段をスタコラサッサーと一段飛ばしで


走っていってしまう。


私は1段飛ばしなんか以ての外。ただ、登ってるだけでも息が上がる。


なんとか、教室の前まで走り切ることができて、体重を預けるように扉に体重をかける。


今日、ポニーテールで来たことが唯一の救いかもしれない。


そのおかげで、派手に乱れずに済んだ。


ハァハァと肩で息をしている私を呆れた目で渚は見てくる。


疲れすぎて右肩からスクールバッグがずり落ちているのは見ないことにしよう。



「はぁはぁ…な、なんで進級早々…全力で走る羽目に…」


「お前、なんのために陸上部入ってんだよ。」


「それとこれは…別よ…」


痛いとこ、ついてくるな…この人…


その後は、出席番号旬の席に着きある程度の朝の準備を終わらせる。


去年とそれほどA組のメンバーは変わっていなかった。


みんな、頭いいもんな…


私と渚の席は前後だった。去年もだ。


『二条(にじょう)』と『柊』。にとひの間には誰もいないらしい。


準備も終わり、席に着くと渚もどこかから戻ってきて椅子に座り、私の方を向く。


凛月もいないし、暇だから何か話したいんだな…


しょうがないから私は先ほど考えていたことを渚に言う。


「そういえばさ、もうちょっとでサッカーの大会なんだっけ?」


私の言葉を聞いた渚は、足を組み直して答える。


「あぁ。。いつだっけ…確か…来週だったか?…忘れちまった〜。」


そう言ってニシシ〜といたずらっ子な笑みを浮かべる。


あぁ、この笑顔だよ。君にはその笑った顔がとっても似合う。


美零の笑顔も太陽みたいに優しい。


けど、渚の笑顔もずっと見ていたいと思う。


まるで______


美零の笑顔は月の光を浴びて優しく微笑むコスモスのように穏やかな笑み。


渚の笑顔は太陽の光をいっぱいに浴びたひまわりのような笑顔だ。


正反対の月と太陽だけど、どちらも明るいことには変わりない。


ずっと、見ていたい。そんな気持ちになる。


もう、渚と何年いる?…中学から…だから…1、2、3、4…4年とちょっとか。


4年も一緒にいたら、こう思うのは普通なのだろうか。



「ん?俺の顔に何かついてるのか?」


と、言って自分の顔や頭をペタペタと触る。


「あっいや、そういうわけじゃないよ!」


そんなに凝視していたのだろうか。


私は焦って咄嗟に否定する。


「と、とにかくっ。来週なのね、了解。」


…何を焦ってるんだろう。別にこんなの普通でしょ。


いつものことじゃない…


「なに?俺の、応援に来てくれんの?」


また、揶揄うような笑みを浮かべる。


「_なっ、何言ってんのよ!美零が凛月の応援に行くついでよっ!ついで!」


私は、ベシベシと渚を叩く。


当の本人はへーへーと、言いながら前を向く。


。。。。。本当に何をこんなに焦っているんだろう…


これはあれだ、きっと美零が朝から彼氏だの恋だのと、からかって来たから


意識しすぎただけだ。


そうだよ。


私が、恋をするはずがない。



__私が、渚のことを好きなはずないもの______







「??一花??どうしたの?顔赤いよ?」

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