第3章 物件情報は正確に

「ああ、あのお客さんでしたら、賃貸マンションを紹介しましたよ。即契約されて、今住んでられるはずですよ」

 仙崎紗友里は温和な笑みを浮かべた。

 歳はアラフォー位か、艶やかな黒髪は後ろで束ね、化粧もささやかに施している程度だが、十分に美しい。がっちり引き締まった体躯は何かしらの武術か格闘技の経験者だろう。だが白いブラウス濃紺のスカートとブレザーと言った装いが、彼女の雰囲気を控え目で清楚なものへと演出している。

 彼女は「すむさき不動産」の社長なのだ。

 店舗の中は意外と広く、また、客は四方が入店した後も何人か入って来ている。街の小さな不動産屋のイメージだが、結構繁盛している様である。

 四方の横で宇古陀が興味深げに店内を見回せている。

 助手のつぐみはカフェの人手が足りていない為、今回は参加しておらず、それを知った宇古陀は悲しそうな表情を浮かべたものの、昨日に引き続き四方がスカート姿で調査に行くと知ってからはすこぶる機嫌がいい。

「そのマンション、教えて頂く事って出来ますか? 」

 四方が彼女に問い掛けた。正直のところ、一か八かの質問だ。

 こう言った事案は、時と場合によってだが、個人情報保護の関係があり、中々そこまで教えてくれなかったりする。

「いいですよ、ご案内しましょうか」

 仙崎は一瞬思案する素振りを見せたが、すぐに首を縦に振った。

 意外な返事だった。四方の依頼を、彼女は快く受けてくれたのだ。

「ここから近いんですか? 」

「ええ、この上ですから」

 仙崎は微笑みながら天井を指差した。

「ここのビル、一階が商業施設でそこから上が居住区になっているんです」

 仙崎はパンフレットを取り出すと、四方達の前に広げて説明を始めた。

 十五階建てのマンションで、賃貸と販売の双方の部屋があり、階の途中にフィットネスクラブや共有スペース、屋上にはジョギングコースのある庭園やビアガーデン迄ある。

「不思議な形をしていますね」

 思は息を呑んだ。ビルは五角形になっており、中央が吹き抜けになっている。吹き抜けのフリースペースは公園になっており、子供達の遊び場として開放されていた。

「案内に営業担当の南雲が付きますので。今からでも参りますか? 」

「はい、宜しくお願いします」

 仙崎の心遣いに四方は素直に答えた。

「南雲と申します。私がご案内させて頂きます」

 四方の傍らに、長身でスリムな風貌の男性が現れた。歳はアラサー位か。

「じゃあ、早速お願いします」

 四方は席を立つと、南雲に声を掛けた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る