第24話 viginti tres

 大好きなおやつを作ると聞き、ひながそわそわし始める。

「ひなたん、かえるー」

 天弥の膝から降りるとひなは、急いで神楽へと向かった。

「えっと、ごめんね。女の子と間違えて」

 申し訳無さそうな表情と言葉に、天弥はゆっくりと首を横に振る。

「私とひなは帰るから、ゆっくりしてってね」

 神楽は手早く荷物をまとめだした。斎が本気だと言った以上、邪魔をする理由がなくなった為、早急に帰宅帰宅を決めた。

「じゃあ、またね」

「またねー」

 神楽とひなが揃って手を振り、リビングから出て行く。天弥も、二人に向かって手を振った。

「んじゃ、頑張って」

 腕を組みながら廊下の壁にもたれかかっている斎に声をかけると、神楽は玄関へと向かった。その後を追うように、斎も歩き出す。

「めずらしい、見送りしてくれるの?」

 ひなの靴を履かせ終えた神楽が、嬉しそうに声をかける。

「鍵をかけるだけだ」

 神楽は、ぶっきらぼうに答えた斎を見る。まさか、相手が男の子だとは思いもしなかった。それだけ本気なのだろうと思う。考えるまでもなく、家に招いている時点で本気だと気がつくべきだった。

「たかみくんに、よろしくね」

 神楽とひなは、先程までとは違いあっさりと玄関の外へ出て行った。閉じられたドアを少しの間見つめ、斎は軽くため息を吐くとドアの鍵とチェーンをかけた。

 玄関に背を向け、すぐにリビングへと向かい、不安と戸惑いが入り混じったような表情の天弥を確認する。

 天弥は斎の姿を視界に捉えると立ち上がり、足を踏み出した。ゆっくりと傍へ近づくと、その目の前で立ち止まる。少し手を伸ばせばすぐに触れられる距離だが、その手を伸ばすことが出来ず、静かに斎を見上げた。

 ためらいがちに自分を見上げる天弥に手を伸ばすと、斎はその身体を引き寄せ強く抱きしめる。

 神楽に本気なのかと聞かれた時、迷いはなかった。あの圧倒的な魅力に囚われ、本よりも何よりもあの天弥が欲しいと思った。

「俺は、天弥のなんだ?」

「先生」

 天弥が即答する。それは、あまりにもらしい答えで、斎は少し脱力感を覚えた。

「それでいいのか?」

 気を取り直して、もう一度問いかける。だが、今度は答えが返ってこなかった。

「ただの教師と生徒でいいのか?」

 念を押すような斎の問いかけに、天弥は力なく首を横に振ると目を伏せた。

「嫌だけど……。でも僕……、男だから……」

 震える声で、搾り出すように答える。同性同士で恋人になれるわけが無いことは理解している。そして、斎が自分の傍にいる理由も知っている。

「そんなの最初から分かってる」

 斎の言葉に、もしかして期待をしても良いのだろうかと、胸が少し高鳴る。

「先生……、男の人が好きなんですか?」

 突然の問いに、斎の身体から力が抜けていく。

「なんでそうなるんだ……」

「だって、僕は男だし……、そうなのかなと……」

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