第23話 viginti duo

 神楽は天弥を解放するが、すぐにその手を取り握り締める。

「あまりにも可愛いからつい」

 神楽は瞳を輝かせ、天弥を見つめた。勢いに押され、天弥は言葉を続ける事が出来ずに呆然とする。

「それにしても、生徒に手を出すような甲斐性があんたにあったとはね……」

 天弥の手を握り締めたまま、神楽は斎へ視線を移した。

「いいから、帰れ」

 斎がリビングのドアを指差す。

「やけに来るなとか、帰れとかうるさいと思ったら、生徒を連れ込む気だったとは……」

 深くため息を吐いた後、神楽は天弥へと視線を戻す。

「ねえ? この髪型や服装って斎の趣味なの? もっと可愛いお洋服を着てみたくない?」

 神楽は小首をかしげながら、天弥に笑顔を向けた。

「お姉さんが買ってあげるから、今から一緒にお出かけしましょ!」

 可愛い洋服を着た天弥を想像しながら目を輝かせ、話し続ける。それを聞いた斎は、神楽の手を取り天弥から引き剥がした。

「天弥に触るな。勝手に連れ出そうとするな」

 思わぬ行動に、神楽は意地悪そうな笑みを浮かべる。

「何? ヤキモチ?」

 斎は、掴んだ神楽の手を離す。

「頼むから、帰ってくれ……」

 肩を落としながら頼む斎を無視し、神楽は天弥を見た。

「ね、斎なんてほっといて、お買い物に行きましょ?」

 斎の頼みも空しく、神楽はそう言うと再び天弥の手を掴む。

「あの……」

 嬉しそうに笑みを浮かべる神楽に、天弥が声をかけた。

「僕、男なんですけど……」

 少し困ったような表情で、天弥は告げる。性別を間違えられるのは慣れていたが、それを伝えた時の騙されたと言わんばかりの相手の反応が、あまり好きではなかった。

「え?」

 信じられないという表情を浮かべ、神楽はじっと天弥の顔を見つめた。

「嘘でしょ!? この顔で、この白くてスベスベのお肌で男の子なの?」

 そして、両手で天弥の顔を挟むように掴んだ。

「すみません……」

 勢いに押され、思わず天弥が謝罪を口にする。その言葉を聞くと神楽はおもむろに立ち上がり、斎の腕を掴んだ。そしてそのままリビングの外へと、引きずるように連れて行った。

「あんたさっき、手を出したっていうの否定しなかったわよね」

 神楽の言葉に、斎は何も答えずに視線を逸らす。

「本気なの?」

 変わらず、斎は視線を逸らし口を閉ざしている。

「本気なのかって聞いてるの」

 いつもとは違う真剣な声と様子に、斎は思わず視線を向けた。普段とは違う、真面目な表情をした神楽が斎を見つめている。

「そうだ」

 一言、斎が答えると神楽の表情がいつもと同じになる。

「そう。それならいいわ」

 何か責められる事を覚悟した斎は、神楽の言葉に拍子抜けする。

「あんたに好きな相手が出来たら応援するって決めてたし」

 神楽はそう言うと、斎に背を向けた。

「お邪魔だろうから、帰るわ」

 帰宅を告げると、神楽はリビングに戻りひなの姿を捜した。ひなは天弥の膝の上に座り込み、楽しそうに笑顔を向け何かを話しかけていた。

「ひな、帰るわよ」

 声をかけると、ひなはすぐに天弥にしがみ付く。

「いやー、ひなたん、まだいるー」

「えー、困ったなー、今日はオヤツにクマさんのクッキー作るのになー」

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