第22話 viginti unus
自分の想いを閉じ込めるように目を伏せ、斎に向かって告げる。その言葉を引き金に、沈黙が室内を支配した。
少しの間を置いて、女性がお腹を抱えて笑い出した。何がそんなに可笑しかったのかというぐらい、派手に笑い続けている。すぐに、我慢できないと言わんばかりに、手で床を叩き出すと、それを見たひなも同じく床を叩きだした。
「勘弁してくれ……」
斎はそう呟くように言うと、がっくりと肩を落とす。天弥は二人の様子に訳が分からず、斎と女性を交互に見つめた。
やがて、満足したのか女性の笑いが少しずつ収まってきた。そして、笑いすぎて滲んだ涙を指でふき取る。
「あー、ごめんなさいね」
まだ少し、笑いを堪えながら女性が天弥を見つめた。
「私、あれの姉なの」
楽しそうな笑みを浮かべ、斎を指差す女性を天弥はまじまじと見つめる。
「おねえ……さん……?」
思わず、事実確認するかのように聞き返した。
「そう、だからそんな心配そうな顔しなくても大丈夫よ」
落ち着きを取り戻し、斎の姉と名乗った女性は天弥を落ち着かせるように柔らかな笑顔を浮かべる。
「あんな、顔しか取りえのないような男は、弟じゃなくても願い下げだし」
再度、斎を指差しながら女性が言葉を続けた。天弥の表情から、不安の影が消える。
「こっちこそ、猫を百匹ぐらい被っているような女はお断りだ」
不機嫌そうに、斎が女性の言葉に答える。その言葉を聞くと女性は斎へと視線を向けた。
「あんたは黙ってなさい」
妙に迫力のある声音と語調であるが、なぜか顔には笑みが浮かんでおり、それがさらなる威圧感を伴っていた。斎は何か言いたそうな表情のまま、女性から視線を逸らした。その様子に満足したのか、女性は天弥へと視線を戻した。
「ごめんなさい、まだ名乗ってなかったわよね。私は井上神楽、この子はひなっていうの」
ひなを膝に乗せながら神楽と名のった女性は、先ほどの斎に対するものとは違う優しい声音を天弥に向けた。
「あ、成瀬天弥です」
神楽は、安堵の笑みを浮かべながら名乗った天弥を少し見つめた後、何の前触れも無くいきなり抱きついた。その拍子に、膝に座っていたひなが勢い良く滑り落ちる。
「いやーん、可愛い」
神楽のいきなりの行動に、天弥は呆然となり固まった。斎がそれを見て思わず立ち上がる。
「こんな美少女、初めて見たわ」
さらに強く、神楽は天弥を抱きしめた。
「天弥に抱きつくな!」
斎は少し声を荒げながら、二人に近付いた。
「今みたいなマニッシュなのもいいけど、もっと可愛いお洋服を着せてみたい」
斎の制止を無視し、神楽は天弥を抱きしめ続ける。
「抱きつくなって言ってるだろ!」
やめる気配のない神楽に向かって、斎の語調は更に激しくなる。
「あ、あの……」
天弥が我に返り、神楽へ声をかけた。
「あー、ごめんね。いきなり抱きついたりして」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます