かわ
気がついたら皮だけにされていた。
中身はどこへいってしまったのだろう。骨は。臓器は。わからないまま、じっと、濡れた地面に横たわっている。立ちあがることも、声をあげることも出来なかった。ここがどこなのか、それを知る術すらなかった。
ぺったり潰れてしまった顔の、中央に小さく開いた二つの穴から、清々とした蒼い風が抜けていった。足の親指の付け根が破れているのだ。そこから内側に入りこんだ鼠が、ちゅうちゅうと耳障りな鳴き声をあげながら、汚れた足でこの皮を踏んでいく。ふくらはぎの内側、太もも、腰、背中、首……。だらしなく開いた口から顔を出し、鼠はそのまま去っていってしまった。
お前はどこへ向かっているんだい。胸の内で問いかける。歩きまわったってどうせ、得られるものは何もないのに。骨や筋肉があったって、そんなちっぽけな体じゃあ何も成し遂げられないだろうに。
気がついたら皮だけにされていた。しかしそれを不服には思わなかった。理由などわからないままでいい。動けないままで構わない。何かを求めて泥にまみれるよりも、黙って雨に打たれていたほうがよほど楽だ。
誰かが近くにやってきた。そいつは冷たい手で皮を持ちあげると、身に纏いはじめた。つま先が腹の内側をくすぐり、長い腕がひじの裏を通っていく。最後に目の周りを合わせれば、サイズはぴたり。
一体どこの誰だろう。──いや、そんなことを気にしたって仕方がない。誰かがこの皮を着た。ただそれだけのことじゃないか。これからは、名前も知らないこいつの力で、雨の中を歩いていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます