かわ

 気がついたら皮だけにされていた。

 中身はどこへいってしまったのだろう。骨は。臓器は。わからないまま、じっと、濡れた地面に横たわっている。立ちあがることも、声をあげることも出来なかった。ここがどこなのか、それを知る術すらなかった。

 ぺったり潰れてしまった顔の、中央に小さく開いた二つの穴から、清々とした蒼い風が抜けていった。足の親指の付け根が破れているのだ。そこから内側に入りこんだ鼠が、ちゅうちゅうと耳障りな鳴き声をあげながら、汚れた足でこの皮を踏んでいく。ふくらはぎの内側、太もも、腰、背中、首……。だらしなく開いた口から顔を出し、鼠はそのまま去っていってしまった。

 お前はどこへ向かっているんだい。胸の内で問いかける。歩きまわったってどうせ、得られるものは何もないのに。骨や筋肉があったって、そんなちっぽけな体じゃあ何も成し遂げられないだろうに。

 気がついたら皮だけにされていた。しかしそれを不服には思わなかった。理由などわからないままでいい。動けないままで構わない。何かを求めて泥にまみれるよりも、黙って雨に打たれていたほうがよほど楽だ。

 誰かが近くにやってきた。そいつは冷たい手で皮を持ちあげると、身に纏いはじめた。つま先が腹の内側をくすぐり、長い腕がひじの裏を通っていく。最後に目の周りを合わせれば、サイズはぴたり。

 一体どこの誰だろう。──いや、そんなことを気にしたって仕方がない。誰かがこの皮を着た。ただそれだけのことじゃないか。これからは、名前も知らないこいつの力で、雨の中を歩いていく。

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