夏色シャツ

 夏の匂いがするり目の前をかけていく。君は窓から身を乗りだして、風が涼しいね、なんて笑ってる。中庭の木がさらさら揺れて、君のシャツを青葉にそめる。太陽が雲から顔をだし、肩のあたりが朝日でにじむ。


 君が炭酸水のボトルをあけると、プシュリ

と音をたてて、はじけた泡が夏に溶けていく。シャツにシュワシュワ、色がつき、ふいに海の泡が脳裏にうかぶ。


 一口どうぞと君はいう。おだやかな波にも似た声で。ぼくは慌てて透明に光るボトルをそっと押しもどす。君の頬に手をそえて、そのゆるやかに弧を描く唇にふれてみたいなんて、こっそり考えながら。


 夏が鳴っている。大きく、明るく、軽快に。君とぼくが手に持っている、楽譜の五線譜からはみだして。この夏を歌ったらどんなふうに響くかな、と君はきく。たぶん快晴の空みたいに澄んでるよ、とぼくはいう。


 ぼくたちはいつまでこうしていられるんだろうね。今は夏の初めだけれど、少し前までそのシャツはさくら色だったし、紅くなる日もきっとくる。どうかこのまま、ずっと。君と夏をきいていたい。


 

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