救済を与えるナニカ4

ネーちゃんご飯できたってさ」

「はいはい」

 

部屋で勉強していると時間が来たのかドアのノックが鳴り響いた後、弟に夕食に呼ばれ手を止めて下の部屋に降りていく。

 

「遅かったじゃない、今日はあんなたの大好きなおかずよ」

「えー本当!」

 

下の階に降りると私の大好きな匂いと共に母に向かい入れられ、いつも座っているであろう椅子に座り家族全員で食卓を囲む。

いつもの光景なのになんだか胸が躍っている事に少し戸惑いつつ食事に舌鼓を打つ。

 

「明、明日の日曜日は暇か?今度4人でこの前テレビで言っていたテーマパークに行こうと思うんだ」

「マジで!チケット取れないって有名なのに‼︎」

 

どうやら明日は某有名なテーマパークに行けるようで弟が喜びながら反応している。

そこは有名なだけあってチケットはネットの抽選で当てるしかなく、その確率はかなり低く転売でかなり高額のプレ値がつくほどだそうで、今それが一つの社会問題になっているほどだ。

 

「そんなところいいの?」

「何言ってんだよ、明が行きたいって言ったから父さん頑張ったんだぞ」

「へへ…そうなんだありがと」

 

どうやら私が言った事を覚えてくれていたようで、父は自慢げにチケットを見せながら誇っているところを見るに色々苦労した事が伺える。

 

「テーマパークか、そう言えば一度も言った事ないな」

「何言ってんだよネーちゃん、去年別のテーマパークに行ったじゃん」

「そうだっけ?」

「そうだよ!もうボケちゃったの⁉︎」

「はははっ!ど忘れしただけだって」

 

よくよく考えてみれば弟の言うとおり別の所に行ったなと思い出す。

 

「ご馳走様、それじゃ食べ終わった事だし、明日の準備でもしようかな」

 

食事を終えると食器を片付け私は自分の部屋へと戻って準備をする。

準備といっても交通の手配などは親がやってくれるので私のやる事といったら服を選ぶくらいで、クローゼットを開けて沢山ある中から最高の組み合えわせを考える事にした。

 

 

 

 

 

 

「そう、あなたの家族はあったのね」

「何その態度?もしかして羨ましいの?」

「そ、そんなわけ無いじゃない‼︎」

 

後日、家族全員でテーマパークにて楽しんだ話をしたところ日和が羨ましいのか悔しいのか分からなかったが、普段と違い反応がそっけなかったので煽ってみるとやはり私の予想が当たっていたのか羨ましそうに彼女はそう言った。

 

「流石の金持ちのお嬢様でも抽選は平等だったみたいだね」

「覚えてなさい‼︎…て楽しんだみたいだけれども今日の宿題はやったのかしら?」

「げぇ」

「はーはっは‼︎ざまあないわ!」

 

そう言えば先日授業を担当している教員の機嫌が悪かったため、かなりの宿題を出されていた事を忘れていた。

 

「クソ!覚えてろ‼︎」

 

せっかく自慢出来そうだったのに返り討ちに遭い、私は捨て台詞を吐きながら手をつけていなかった宿題に手を出す。

件の授業は午後なので今から本気を出せば多分間に合うだろう。

 

 

 

 

「そうなんだ、私達を置いて随分と楽しいそうだったじゃないかアカリ!もちろんお土産は用意しているんだろうな‼︎」

 

放課後、宿題を完璧にこなした達成感に酔いしれながら屋上に向かうと蒼が先に居たので昨日テーマパークに行った事を話すと少し羨ましそうに言いながらお土産を要求してきた。

 

「もちろん用意しているよ、はいこれ」

「センキュー‼︎」

 

多分言われるだろうなと思いながら準備しておいたお土産を彼女に渡すと何故かネイティブな発音でお礼を言われる。

 

「ごめん遅れちゃった‼︎」

「遅いぞ!後少しで翠のお土産を全部食べる所だったぞ!」

「え?何それどう言う事⁉︎」

 

蒼には本人と家族の分を渡した所自分の分をすぐ平げ、少し物足りなかったのか翠の分も食べようと手を伸ばしていた。

 

「へーあのテーマパークに行ってきたんだ!」

「そうなんだよ、アカリの奴私達を置いて家族で行ってきたんだよ」

「蒼…それは普通だよ。だったら今度3人で行こうよ‼︎」

「え?でもあのチケット抽選で手に入らないんだろ?」

「そうだけど、私のお父さんが多分あそこのお偉いさんと知り合いだから3人くらいならすぐ用意できると思うよ」

「マジか…」

 

どうやら日和の様な成り上がりの小金持ちとは違い、本物のお金持ちはレベルが違うらしい。

 

「それじゃあ今度行こう‼︎連休なら全部回れるよね」

「流石に1日しか取れないよ…それに連休は混んじゃうから明後日にしようよ。ちょうど開校記念日でお休みだし、明さんもそれでいい?」

「いいね!」

 

あっけなく進んでいく話に父の苦労は一体なんだったのかと涙を禁じ得ない。

 

「それじゃテーマパークは翠に任せるとして、この後どうする?」

「そうだね、またダーツにでも行こうかな」

「いいね」

 

特にやる事もないし、長居していると教室が施錠されてしまうためとりあえず場所を移す事にした。

 

 

 

 

 

…今日も楽しかったな。

早めに帰宅し家族全員で夕食を囲む。

いつもの光景なのにどこぞなく違和感を感じるその光景に幸せを感じながらオカズを口に運ぶ。

 

「なあネーちゃん今度の休み釣りしに行かね?ネーちゃん確か好きだったろ?」

「ああうんそうだね…うん?」

 

弟に誘われ返事をしていると自分が涙を流している事に気づく。

 

「どうしたのネーちゃん?もしかして先に予定あった?俺の予定は今度でいいからね」

「あぁ…」

 

頬を垂れていく涙を滴る前に手で受け止める。

弟は自分のせいで泣いていると感じたのか謝罪を始める。

 

「…陽斗、ありがとう」

「何?ネーちゃ…ん⁉︎」

「何をしているんだ明‼︎止めなさい‼︎」

 

気づけば私は弟である陽斗を押し倒し、馬乗りになり彼の首を絞めていた。

まるで猫を無理やり捕まえた時のような感覚が手に伝わり、弟からはまるで信じられないと言った表情を向かられている。

そして普通ならある抵抗が全く感じられなかった。

 

「…私の弟は…家族は…そんなこと言わない」

 

最初から違和感は感じていた、本当は駄目だとわかっていた、けど、これ以上はもう耐えられなかかった。

私の言葉に世界がピシリとヒビ割れ、まるでガラスが砕ける様に世界が崩れ落ち、私の体は何処かに落下するような浮遊感に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

気づけば何処かの屋敷の廊下に立っており、視界にはどこまでも続いていく廊下に無数の部屋の扉が壁に付いている光景だった。

 

一体何を見させられているのだろうかと思い廊下を歩き進んでいくと、扉に名前の書いてあるプレートが貼ってある事に気づく。

歩きながらプレートの名前を確認していくが、特に名前に法則性はなく多分だが被害者の名前が書かれているのだろうと推測する。

 

どこまでも続いていく廊下にいつになれば終わりは来るのか、もしかしたら終わりなんてないのかなんて恐怖が心を支配し始める。

 

「…これは一体」

 

当然と言えば当然だが、名前をなんとなく見ているとそこには蒼の名前が書かれたプレートのある部屋が見つかった。

一体この扉の中はどうなっているのか気になってしまう。

 

この扉を開き中に蒼がいれば彼女を救う事が出来るだろう、だが、もしこの扉を開く事で彼女の何かが欠損して不可逆的な精神異常を起こしてしまえば私は後悔してもしきれないだろう。

 

けど、同じ光景が続くこの幻界の中でこのまま何もせずに通り過ぎれば多分この扉に戻る事は出来ないだろう。

この扉がある意味生命維持装置のような働きをしており、この扉を開けた瞬間中身が廊下へ溢れ出し彼女の生命が溶けて消える見たいな作品をどこかで見た様な気がする。

 

「…」

 

必死にこの扉を開けない選択を裏付ける考察をしたところで所詮は意味のない事で、私は意を決して目の前の扉を開ける。

 

 

幸いな事に部屋を開けて中身が出てくる事はなく、部屋は部屋でただ空間が広がっていた。

広さは大体6畳くらいだろうか、私の部屋と同じ位の広さだった。

 

「…蒼」

 

部屋の内装は単純で壁一面に棚が置かれ、その棚にはぬいぐるみが所狭しと敷き詰められている。そして部屋の真ん中に椅子が置かれそこに蒼が座って私に背を向けている。

 

「…え?」

 

ぬいぐるみは蒼の知っている人間の姿を模したものが多く、中には翠のものや姿は見た事は無かったがサイズ的に考えて多分弟のものまで置かれている。

ぬいぐるみもバリエーションがあり翠は服のデザインがその時の思い出によって違い、その服ごとに数が存在した。

 

きっと思い入れが多いほどその人を模したぬいぐるみが多いのだろう。

だからこそ違和感を覚えるのだ。

 

部屋に飾られているぬいぐるみの殆どを占めているのは蒼の弟ではなく、ましては翠でもなく、会って間もない私を模したものばかりだった。

 

「アカリ…私を私として見てくれるのはアカリだけだったよ…」

「蒼?これはどう言うい…」

 

名前を呼ばれ椅子に座っている彼女の元に行き話を聞こうとすると、彼女は制服の衣装を着た私のぬいぐるみを両手で大事そうに抱きしめながら恍惚した笑みを浮かべ話しかけており、その瞳はどこか虚空を見ていた。

 

きっと私と同じ様に幸せな夢を見せられているのだろうが、少し怖くなってきたので一度部屋を出て扉を閉める。

 

 

人によってあの部屋をどう思うかは分かれると思うが私は戸惑いを感じた、正直人にここまで思われた事は無かったのでどうしたらいいのかわからないのだ。

 

「…あっ」

 

部屋の扉を閉めて前を向くと目の前にあったのは翠の名前の書かれた部屋だった。

蒼の名前がある以上同じく行方不明になった翠の部屋がある事は考えるまでもないだろう。やはり、翠と蒼はいつも仲がいいので幻界の中でも部屋が近かったようだ。

 

「…ひっ!」

 

恐る恐る部屋の扉を開けてみるとそこは蒼の部屋とは違い薄暗く部屋の明かりは蝋燭か何かの灯りだけだった。

そして蒼の様にファンシーで無ければ可愛い感じではなく小さな祭壇が部屋の奥にあり、蒼のぬいぐるみだけが豪華に鎮座していた。

 

「コイツさえいなければ」

「翠…」

 

蒼のぬいぐるみしかない部屋で彼女は椅子に座る事はなく地面に屈みながら座り何か作業を行なっているのか少し上下に振動していた。

 

一体彼女は何をしているのだろうか?

蒼の様に誰かの名前を呼んでいるのだろうか、それとも家族と過ごせていない様なので私の様に家族と幸せな団欒を過ごしているのだろうか?

 

「…そんな」

 

好奇心は猫をも殺すというが、その言葉通り私の心は殺されたのだ。

恐ろしい事に彼女は私を模したぬいぐるみを床に押し付け、それをカッターナイフで何度も何度も突き刺していた。

 

そして薄暗くてよく分からなかったが部屋の隅にはボロボロになった家族だろうぬいぐると知らない男のぬいぐるみ、そして私のぬいぐるみが捨てられており、その比率は私を模した物が多く、今突き刺しているぬいぐるみも私を模した物だった。

 

「あなたが居なければ‼︎あなたさえ居なければ蒼は‼︎蒼が‼︎どうして‼︎なんで‼︎」

 

今なお私を模したぬいぐるにカッターナイフを刺している光景を前に私は何も言えず、そして何もする事が出来ず、気づけば部屋の外へと出ていってしまった。

一体私は彼女に何をしてしまったのだろうか?彼女が消える前は確か一緒に蒼失踪の犯人である日和を追い詰めた所だったが一緒に犯人を探す事は不安ではあったが悪くは無かったはずだ。

 

私は一体何を間違えていたのだろうか?

答えは彼女にしか分からないが、その彼女は幻想に囚われて何も教えてくれない。

 

 

このまま幻界の主を倒せば彼女達は元に戻るのだろうか?この幻界が彼女達を殺さずに元素を集めるなどの装置的な物であればこの幻想を解除すれば治るだろう事は分かるのだが、もう既に彼女達の意識はあちら側に行ってしまい幻界を解いたところで帰って来ない可能性もある。

 

「…」

 

私の力では他人を傷つけることは出来ても他人を癒すことは出来ない。

今はどうすることもできないと勝手に判断し彼女達2人を部屋に残して私は廊下を進んで行った。

 

今なお横にある部屋は知らない誰かの思いが再現された世界なのだろう。

いつもなら面白そうだと片っ端から覗いていくものだが、2人の世界から逃げたかったのか見る気にはなれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして気づけば終わりのないと思っていた廊下は大きな部屋と繋がっていたのか、目の前に巨大な扉のある空間へと辿り着いた。

どうやらここが幻界の主のいる部屋なのだろう、正直体力よりも精神的に辛いがここの主を倒せばどんな結果になろうとも今回の件は終わるだろう。

 

巨大な扉をこじ開けようと力を入れて押すと、扉は案外軽く強く押しすぎたため力の行き場がなくなり前のめりになって倒れそうになった。

 

「おっとっと」

 

まるで雪道で滑った時のようにバランスをとりながらなんとか体勢を立て直す。

部屋を見渡すと大きな扉に相応しいほど広く天井も高く、奥の壁にはモニターが数十台も設置されており色々な人間の夢だろうか皆幸せそうな光景が映し出されていた。

 

「おや、どうやらひとり迷い込んできたみたいだな」

「あなたは…幻影?それとも人?」

 

部屋を眺めていると私がこの部屋に入ってきたことに気づいたのか男が何処からか現れる。

 

「面白い事を聞くんだな、安心していい私は君と同じ人間だ。まあ君が人間をどう定義するかによって変わるがな」

「面倒なこと言わないでください、それであなたはここで一体何をしているんですか?それとこの部屋主は一体何処にいるんですか?」

 

一つの問いに捻た答えを返す奴は大抵碌なやつではないので相手のペースに乗せられないうちに質問攻めで会話を終わらせる。

 

「幻影ならそこに居るだろう?」

「え?」

 

彼は自分の想像した答えが返って来なかった事にがっかりしながらも、私の質問には答えてくれたのか幻影の位置を指差す。

彼が指さしたのは目の前のモニターだった。

 

「どう言う事?」

「どう言うこともない、この幻界は私が作り上げた人工幻影が作り出した物でね、誰かに指名されると言う事を条件に誰かを取り込みその者から命にかかわらない範囲で幻素を少しずつ取り込み、代わりに幸せな夢を見せてあげようってものさ」

「そんな家畜みたいに…」

「ふむ、中々に的を射ているな。そうだこれは人間牧場と言ったほうがいいかもしれないな」

 

彼は中々にぬかしよる見たいな事を言いながら半笑いで答える。

 

「それで、お前はどうしたい?ここであった事を忘れ条件で外に出してもいいが?」

「だったら翠と蒼も解放してください」

「翠と蒼?すまないが個体の名前を把握しているわけではなくてね。ふむ、そうだなお前が名前をあげると言う事はお前と同じように幻想が使えると言うわけになるな」

「そうですけど、それが一体なんですか?」

「すまないが、それは出来ない。君達幻想使いの養分は一般人と比べて効率が良くてね、1人でざっと50人分の幻素を回収できる」

「そうですか、なら」

 

言葉で頼んで駄目ならば次は暴力によって解決しなくてはならない。

これはいつかの秋空先輩の言葉で私はあまり好きでは無かったが、この場ではそれが正解かもしれないなと思う。

 

「ここで死んでください」

 

即座に幻想でナイフを作成しそれを投擲する。

 

「なるほど、そうくるか」

 

彼は私の投げたナイフを少し身体を逸らすだけで躱し、まるで何事もなかったかの様に立っている。

 

「幻想は幻界の中では現実となる訳か、まるほど興味深い」

「何を言っているの…?」

 

正直いい歳の大人が厨二病みたいなセリフを言っている光景に寒気を感じながらも、今度は作成したナイフを掴みそのまま近接戦闘へと持ち込む。

 

「ふむ…動きはまあまあだな」

「何を⁉︎」

 

目の前で丸腰の相手に全力でナイフを振りまわし斬りかかるが、彼は私の動きを全て読んでいるのかそれを全てかわし、体勢が不安定になったところで危険を感じて後ろに下がり目線を前に向けると彼が最初の位置から全く動いていない事に気づく。

 

「はぁ…はぁ…」

「俺に斬りかかっても無駄だ、お前と俺では戦闘経験に差がありすぎる」

「クソっ‼︎」

「はぁ…無駄だと言っているのに」

 

無駄だと分かっていても引けない戦いという物があるので、避けられようが切り掛かっていると彼は呆れた様にため息をつき私の脚を蹴り抜く。

 

「うぐっ…」

 

なんて事の無いローキックだったが、体重差やタイミングによりまるでヒビでも入ったかの様な激痛が脚に響き、あまりの痛みに膝が笑って立てなくなってしまう。

 

「無理する事はない、さっさと諦めて外へ帰れ」

「それは出来ません…私はもう1人になりたくないんだ‼︎」

「馬鹿な子供だ」

 

幻想で痛みが無いと自己暗示をかけ、今度は両手にナイフを作り出し彼に斬りかかるが、彼はもう相手はしないぞと言わんばかりに私の攻撃に拳を合わせてカウンターを決め、私の視界は数回バウンドした後意識が朦朧とし始める。

 

「冥土の土産に面白い事を教えてやろう、この幻影に引き摺り込まれた人間は全てを読み込まれ開示される。つまりお前が自分の能力を知らない事とその能力について俺は知っている」

 

彼は私がふらついている間にモニターについている機械を使って検索して幻影が読み取った私の情報を閲覧しそういった。

 

「それが…なんだっていうんですか」

「ふん、攻撃を受ける時はせめて顎を引いておくんだな意識が朦朧としているだろう」

「…」

「…まあいい、お前の能力それは幻想を現実に変える力だ」

「…え?」

「理解するのはまた後にしてくれ、私もやる事があるん…へぇ」

 

相手が私に情報を提示し優越感に浸っている間に私の持ち得る全幻素を使用して複数の手榴弾を生成し、それをモニターに向かって投擲する。

 

「やるなお嬢さん…いや、ーーーかな?」

 

爆発し吹き荒れる爆風の中、彼は笑いながらその場を動く事はなかった。

 

 

 

 

 

「目が覚めたか?」

「…秋空先輩、みんーーっ⁉︎」

 

目が覚めると天井の模様から保健室に運ばれた様だ。

起き上がり状況を確認しようとすると全身に痛みが走り、自分の体が動けない程に全身が傷付いている事に気づく。

 

「まだ動かない方がいい、幻素を使い切った反動で全身にガタがきている」

「…そうですか、それでみんなはどうなりましたか?」

 

まさか人がいるなんて考えておらず、一度出て終えばもう一度あの幻界に入る事は叶わないと思った為破壊する事を選んだのだが、それにより壊れゆく幻界の中2人を残してしまった事が気がかりになっている。

 

「それは…」

「そう…ですか」

 

みんなの安否を確認すると秋空先輩は何か言おうとしたが、それをどう伝えたらいいのか分からないと言ったふうに口をつぐんでしまう。

その反応を見て私は察してしまった。

 

「…隠してもしかたねえか、被害者は組織のメンバー含めて全員蝕夢により行動不能、特に幻想使いの蝕夢は酷く殆ど廃人状態だそうだ」

「…分かりました…ありがとうございます」

 

私は秋空先輩の続く言葉をただ黙って聞くしか無かった。

 

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夢現の果てに 名代 @minatonasiro

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