第3話 ソラくんは上客である。

テチテチテチ。

小さな竜人、ソラくんがやってきた。

会社のドアから受付まで、とっても長いけど、抱き上げたい気持ちを我慢して、私はじっと待つ。


「可憐! 褒めて遣わす!!」


 小さな胸をそりかえりそうになる程張ったソラくんかわいい。


「ははー! ありがたきお言葉。反響はどうでした?」

「それがな。魔法学校の生徒なのに、字を読めなかったらしいのだ……。だが! 可憐達はとってもよくやってくれた! お礼がしたい!!」

「ありがとうございます!!」


 ソラくんの報酬は、最初にくれたルビーだけではない。

 ソラくんには、アニメイターがお腹を空かせているイメージがあるらしく、いつもお野菜の差し入れをしてくれる。自宅で栽培しているのだとか。

 最も、それは研究所に接収されていて、先日少し食べれたくらいだ。

 今度くれるのはなんだろうか。宝石も嬉しいが、ファンタジー的なものも欲しい。


「うむぅ。ダンジョンコアは危ないしな……」

「そうですね。なんか夢の詰まった物とかないですか? 安全なやつで」

「ふむ」


 ソラくんは、色々出してきた。

 瓶に入ったのはポーションだろうか? それに、大きくてキラキラした石は魔石だろうか。


「危険なのを除外すると、こんな程度しかないな」

「ちょっと危険なのは?」

「空飛ぶ箒とか」

「それください!」

「よし、じゃあ追加報酬は空飛ぶ箒で」


 10本ほど、ソラくんはカウンターに乗せていく。


「それで、次の依頼だが」

「なんでも仰ってください」

「帝国の王子の英雄譚を読み上げるゆえ、これをアニメにして欲しい」

「レコーダー取ってきます」


 大きなサファイアが、カウンターに転がった。

 ソラくんは本当、良いお客様である。

 あ、空飛ぶ箒も研究所が全部接収していった。

 安全と使い方がわかったら返してもらえるだろう、一本ぐらいは。


「あと、幼児から中学生向けの勉強動画とアニメ、日本語学習動画は用意できるだろうか」

「日本語ですか?」

「向こうの言葉は発音に自信がなくてな。書き言葉なら、時間を掛ければなんとかなるのだが。つまり、読み聞かせがしてやれない」

「読み聞かせ」


 ソラくんが読み聞かせをする側なのか。


「だんだん面倒になってきたから、翻訳するより生徒達に日本語習ってもらった方が早いかなって。あとは日本の教科書を横流そうと思う」

「日本語難しいですよ?」

「なんとかなるだろう。教材を全部翻訳するのは我が大変だ。プリチーな我と屈強な軍人でもある生徒達。苦労すべきはどちらだと思う?」

「軍人かぁ」


 日本の知識を軍人に吸収させるのはまずいのでは。


 私は考えた。


「そうだ! 生徒達が苦労すべきなのだ!」

「まあ、良いですけど。報酬は何をいただけます?」

「手で握れば魔法を使えるコインはどうだ」

「良いですね。いっぱいください」

「危険物だから取り扱いには気をつけるのだぞ」

「はい! 一週間で集めて見せます!」

「頼んだ」



 そうして、ソラくんは一生懸命つっかえながら帝国の英雄譚を読んでくれた。

 これを文字起こしして、纏めて、アニメ化して提出である。

 

「一度自由にやってみてくれ。その後、王子に確認して直すべきところを直すから」


 そこで、自由にやってみたのだが、問題が発覚した。

 英雄譚だからか、男率が多すぎるのである。これはむさい。

 なので、少々日本風に手直ししてみた。


 ちょっと手直ししすぎたかもしれない。

 

 その甲斐あり、帝国の王子様の英雄譚は日本で大ヒットした。

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