第117話 出立

一週間後、出来上がった防具をローズが持って来た。


「ディアマンテ公爵領の棟梁の工房にお願いしたものです…」

「そう。グレゴリーさんとエリックさんの作ったものなら安心だわ。ありがとう」


「お嬢様、本当に戦場へ行かれるんですか?」

 ローズは今にも泣きだしそうな顔をしている。

「戦場に行ったら、死んでしまうかもしれないんですよ!?シナリオの悪役令嬢は、ラルカンスとの戦争に巻き込まれて死ぬんです。ひょっとしたら本当にその通りに…」


「そうかもしれないわね」

 アレグリアがあっさりと言うので、ローズは言葉を失った。


「でも、ラルカンス軍はネーレンディアに魔法の使い手がいるだなんて思っていないでしょう。だから、上手くいけば不意をつけると思うわ」


「そんなに上手くいくとは思えません!」

 ローズはアレグリアの肩をつかんで揺さぶる。

「お嬢様、考え直してください」


アレグリアは自分の肩にあるローズの手を優しく取り、両手で握った。


「わたくしはディアネル殿下の体で人を傷つけてほしくないの。だから、彼を止めたい。それに、戦争が止まれば多くの人が助かるわ。ディアネル殿下に教えてもらった魔法だから、ディアネル殿下が喜ぶ使い方をしたいの。それがわたくしの本望なのよ」

 

ローズはアレグリアに見つめられ、ぐすぐすと鼻を鳴らした。


「わかってます。お嬢様はこうと決めたら曲げない方だって。どうか、無事に帰ってきてくださいね」

 ローズはアレグリアの手を握り返した。

「お嬢様、無事に帰ってこられたら、物語を書きませんか?」


「物語?わたくしにできるかしら」


「ネタには困らないはずですよ。この数カ月、色々なことがあったじゃありませんか。お嬢様がラルカンスの魔法学園に通っていたことは秘密ですから、架空の登場人物の冒険譚のように書くんです。ドラマチックな脚色を加えたりなんかして、楽しそうじゃありませんか?」


「ふふ、そうね。自分のことを語り草にするのは少し恥ずかしいけれど、ローズと一緒に書いたら楽しそうだわ。完成したら誰に見せようかしら」


「楽しみですね」

 

二人は顔を見て笑い合い、アレグリアはローズの笑顔を目に焼き付けた。

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