第112話 変化
「リリーシェさん。そろそろ子どもたちと一緒に、教会へ戻りましょう。…あら、そちらのお嬢さん、なんだかお顔に見覚えが…。ひょっとして、ディアマンテのお嬢様ではありませんか?二人はお知り合いなの?」
年配の修道女はアレグリアの顔を見て驚き、二人の顔を見回す。
「わたくしたちはちょっとした知り合いですわ。あなたは、どうしてわたくしをご存じなのですか?」
「私はフィニース辺境伯領の教会のマリアと申します。私の教会はディアマンテ公爵家から援助をいただいていますので、ディアマンテ家のことはよく存じ上げております」
年配の修道女、マリアは、アレグリアに恭しく頭を下げた。
「そうだったのですね。リリーシェさんもマリアさんと同じ教会にいらっしゃるのですか?」
「はい。うちの教会でリリーシェさんをお預かりしているんですよ」
マリアはリリーシェの方を見ながら、にこやかに答える。
罰を受けることになったリリーシェが、ディアマンテ家とゆかりの深いフィニース辺境伯領に送られていたことに、アレグリアは浅からぬ因縁を感じた。
「お嬢様ぁ!買って来ましたよ。…あれ、この子供たちは?」
りんご飴を二本持って走って来たローズは、アレグリアの周りに子供たちがいることに困惑している。
リリーシェと手をつないでいたライアンは、ローズの持っているりんご飴を見て目を輝かせ、リリーシェの服の裾を引っ張った。
「なぁ、リリーシェ!このお姉さんが持ってるお菓子、美味しそう!おれも食べたい!」
「ちょっと、リリーシェお姉さんって言いなさいって、いつも言ってるでしょ?」
ローズはライアンとリリーシェの会話を聞いて、ぎょっとした。
「リ、リリーシェ?あなたリリーシェなの?」
「は?そういうあんたは誰なのよ」
ローズとリリーシェはやいやいと言い合いを始めた。
そんな二人を見てにこにこと微笑んでいるマリアに、アレグリアは声をかけた。
「あの、マリアさん。リリーシェさんは、教会ではどのような様子なのですか?」
「リリーシェさんの様子、ですか?」
マリアは、アレグリアがなぜそんなことを気にするのかわからない、というように首をかしげる。
「はい。わたくしの知っているリリーシェさんとは、少し様子が違うようでしたので」
「アレグリア様はきっと、尖っていた頃のリリーシェさんをご存じなのね」
マリアは目を細めてリリーシェを見つめる。
「リリーシェさん、初めはとっても不満そうでしたよ。修道女のお務めもやる気がなくてね。でも、教会で育てている孤児の子供たちと触れ合ううちに、少しずつ明るくなっていったんですよ。
親を亡くして辛い目に遭ってもたくましく生きている子供たちを見て、思うところがあったんでしょうかねぇ。それとも、修道女として祈り続けるうちに、自分を省みることができたのかしら。なにしろここは自然が豊かで、思いを巡らせるにはもってこいですしね」
子供と触れ合うことが人格を変えるほどの変化を与えるのかどうか、アレグリアにはわからなかった。
ただ、緑が多く思索に向いているというのは、たしかにそうだろうと思った。
アレグリアがさらにマリアに尋ねようとしたとき、何かが大きく壊れるような音がした。
音のした方を見ると、広場の端にある屋台が崩れ、燃えている。
人々の陽気な笑い声は、あっという間に悲鳴に変わってしまった。
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