第5話 不安な未来

「お嬢様が婚約破棄されずに幸せになることを心から願っていたのに、ローズはなんのお役にも立てませんでしたね」


「何を言うの、ローズ。婚約者として過ごした十年をぼうることになったのは忌々いまいましいけれど、これからはわたくしの好きなように生きるわ。わたくしの未来はここから始まるのよ」


「お嬢様、たのもしいあるじを持って、ローズは本当に嬉しいです。ですが、ヒロインが王太子ルートを進んでいるのが問題なんですよ」


 ローズは不安そうに顔をくもらせる。


「“王太子るーと”というのは、リリーシェがアルフォード殿下の妻になるということね?あの二人のことは、もうわたくしには関係ないわ」


「お嬢様ぁ。さては、ローズが今までお教えしてきたことを忘れていますね?」


 ローズは腰に手をあて、しかめっ面でアレグリアをにらむ。

アレグリアはたじたじになりながら答える。


「す、全て忘れたわけではなくってよ。ローズがことあるごとに話すから、ある程度は覚えているもの」


「ではお嬢様、原作の悪役令嬢アレグリアが王太子ルートでどんな最期さいごを迎えるか、覚えていますか?」


「それは…。別の国で婚約者を見つけて、幸せに暮らす、とか?」


「全然違います。いいですか?」

 ローズは両手を腰にあて、アレグリアにすごむ。

「王太子ルートの!悪役令嬢アレグリアは!隣国りんごくとの戦乱せんらんに巻き込まれ、無惨むざんな死を遂げるんです!」


 アレグリアは呆気あっけにとられ、ローズの顔をまじまじと見る。


「無惨な死…?このわたくしが?戦争で死ぬの?」


「そうですよ!だからローズは心配しているんです。まったくもう、これからは原作についての知識をお嬢様に詰め込みますからね。ローズがついている限り、お嬢様を原作通りに死なせるつもりはないんですから」


 ローズがたからかに宣言せんげんしたとき、勢いよく扉が開いた。

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