第11話 辺境伯との危ない遊び

フィニース辺境伯へんきょうはくはアレグリアを連れて屋敷やしきに入り、階段を上がって自分の書斎しょさいに入った。

いくつも引き出しが並んでいる棚の前に立ち、引き出しを次々と開けては閉めていく。

最後の引き出しを閉めたとき、ガタッと音がした。

そして、辺境伯が棚を動かすと、向こう側にもう一つ部屋があるのが見えた。


「これは、父の書斎と同じ仕掛けですわ」

 アレグリアは驚いてつぶやく。


「そうでしょうとも。私の先祖せんぞが、本家ほんけにも同じ仕掛けを作ったそうですよ。なにしろ、秘密の宝物を隠しておくには、こういう仕掛けはもってこいですから」


 秘密の宝物、という言葉を聞いて、アレグリアには中に何があるのか理解した。


「辺境伯様。もしかすると、持っていてはいけないものをお持ちなのでは?」 


 アレグリアの言葉を聞いて、フィニース辺境伯はにやりと笑う。


「アレグリア様のおっしゃる通りです。さぁ、中へ入りましょう」


 フィニース辺境伯にうながされて進むと、中にはかべを埋め尽くすように本が保管されていた。


「アレグリア様の予想通り、これは全て魔導書まどうしょです。といっても、大半は写本しゃほんですがね」

 フィニース辺境伯は魔石具の明かりをつけながら言う。


「魔導書がネーレンディアで禁書きんしょとされるのは、忌まわしい魔法に関する本だからという、ただそれだけです。この国の貴族は、魔導書を不気味ぶきみな呪いの本か何かだと思っている。しかし実際は、ネーレンディアの貴族ならば理解できるはずの本だ。書かれている内容も、実のところは我が国の歴史でもあるというのに」

 フィニース辺境伯は残念そうにため息をつく。


「その点、アレグリア様は魔導書の価値をご存じだと、公爵閣下こうしゃくかっかに伺っています。反応を見る限り、どうやらその通りだったようですね」

 部屋中にある魔導書を見て目をかがやかせるアレグリアを見て、フィニース辺境伯は目を細める。


「これが全て魔導書なのですか?なんて素晴らしいのでしょう」


「ふふ、アレグリア様をこちらへご案内した甲斐かいがありました。魔導書好きのアレグリアに、私から特別な贈り物を差し上げましょう」


 フィニース辺境伯は、机の上から、ほこりまみれの本を取る。手で丁寧ていねいにほこりをぬぐい、アレグリアに手渡した。アレグリアが両手で受け取ったのは、深紅しんくの魔導書だ。


「それは私の曽祖父そうそふが手に入れたものです。魔導書の多くは写本ですが、これは違います。魔法の始祖しそと呼ばれる、はじまりの魔法使い、その弟子が自ら記した原本げんぽんです。大変貴重な品ですよ」


「まあ、そのように貴重なものをいただくわけには参りませんわ」


「いいんですよ。この本もアレグリア様に使ってもらえれば本望でしょう。アレグリア様ならたやすくこれを読めるでしょうし、上手く使いこなすことができれば、きっとこの先、アレグリア様の助けになりますよ」


「わたくしの助けに…?それは一体どういう意味でしょう」


「文を読み上げてみると、何か良いことが起きるかもしれませんよ。今から試してみますか?」


 フィニース辺境伯は、にやりと笑って片目をつぶった。

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