第12話 ローズの怒り

アレグリアにあてがわれた部屋の前で、ローズは落ち着きもなく行ったり来たりしている。

辺境伯へんきょうはくに連れて行かれたきり、アレグリアが戻ってこないのだ。

もう日が暮れると言うのに。

ちょうど護衛ごえいの騎士が通りかかって、ローズは声をかけた。


「あの、すみません。アレグリアお嬢様がどこにいるか、ご存じありませんか?」


「それが、フィニース辺境伯様と一緒にお出かけになったきり、戻って来られないのです」


 騎士の返事を聞いて、ローズは血の気が引くのを感じた。


「お嬢様が、あの女たらしの辺境伯様とお出かけに!?もちろん、護衛の方々も一緒ですよね?」


「いえ、辺境伯様が護衛はいらないとおっしゃるので、二人きりでお出かけになりましたよ」


 ローズはめまいがしたが、ふらつかないように必死でこらえた。


「騎士様、お二人がどちらに行かれたか、ご存じですか?」


「山の方へ行かれました。魔物が出るので危険だとお伝えしたのですが、辺境伯様は絶対ぜったいについて来るなとおっしゃって…。我々も心配しているところです。ひょっとしてすでにお戻りかとも思ったのですが、やはりお帰りになっていないようですね」


ローズがいよいよ倒れそうになったとき、一階がさわがしくなった。

騎士とローズは顔を見合わせ、そろって階段を降りる。すると、屋敷の入り口に、マントを羽織はおった辺境伯とアレグリアが立っているのが見えた。


「お嬢様ぁ!今までどこに行っておられたんですか!」

 ローズは大声で叫び、辺境伯から引き離すようにアレグリアを抱きしめた。


「ごめんなさい、ローズ。心配をかけたわね。でも、大丈夫よ」

 アレグリアはそう言ってローズの背中を叩く。


アレグリアから体を離したローズは、アレグリアの手にきずがあることに気づいた。


「お嬢様、お怪我をなさっているではありませんか。フィニース辺境伯様、お嬢様をどんな危険な目に遭わせたんです?」

 ローズは上目遣うわめづかいで辺境伯を睨む。


「いやぁ、私の監督不行かんとくふゆとどきだね。怪我をさせてしまったことは本当に申し訳ない。でも、これを見てくれ。全てアレグリア様の成果だよ」

 辺境伯はジャラジャラと音を立て、ふところから石のようなものを沢山取り出した。


「これは何ですか?」


「魔石よ、ローズ。わたくしがオオカミの魔物を狩ったの」

 アレグリアはほこらしげに胸を張る。


「やはり、原本をアレグリア様に託した私の判断は正しかったようですね。素晴らしいご活躍でしたよ」


「期待に応えられた、ということかしら?」


「…様」

「え?」

「お嬢様!なんて危ないことを!この後はお説教ですからね」

 腰に手を当て、真っ赤な顔でこちらをにらむローズを見て、アレグリアはごくりと唾を飲み込んだ。

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