第13話 幕間 原作が生まれる世界の物語3

いまだに汗ばむ陽気ようきが続いている。

エアコンが壊れたコンピュータルームでは、ひたいに汗を流した部長とすずな副部長が、今日も仲良くおしゃべりをしている。 


「副部長、乙女ゲームの見せ場は何だったかな?」


「ヒロインと攻略対象こうりゃくたいしょうの出会いのシーンも重要だと思いますが…。やはり、悪役令嬢の断罪だんざいシーンでしょうか?」


「そうそう。流石は副部長、わかってるじゃないかぁ」


たきなと桜は、部長の丸い体が発する汗の匂いに嫌気がさしつつ、二人の前で黙々と執筆している。


「というわけで、悪役令嬢の断罪が見せ場になるわけだけどもね、たきな君はどういう断罪シーンにするつもりだい?」


部長に話しかけられたたきなは、どのみち部長たちがうるさくて集中できないしね、と思い、パソコンから目線を上げて部長に答えた。


「そうですね。悪役令嬢アレグリアの母国では魔法が禁止されているので、アレグリアは魔法に魅入られた罪で断罪されることにしようと思います」


「へぇ、珍しい断罪理由だねぇ」


「よくあるのは、ヒロインに嫌がらせをしたから、といったものですが、たきなさんは独特な理由をお考えになったんですね」

 副部長はあごに手を当て、意外そうな顔をした。


「アレグリアはそういうことをするキャラクターではないのと、独自の色を出したいと思いまして」


「独創性を求めるその姿勢、いいじゃないかぁ。期待しているよぉ、たきなくん」

 部長は手を扇子のようにひらひらと動かしながら、満足そうにたきなを褒めた。


一方、副部長は眉間にしわを寄せて考える顔をしている。


「ただ、魔法が禁止されている国で育った公爵令嬢が魔法に親しんでいる、というのは、少し無理がありませんか?」


「アレグリアは魔法との距離が近い、特別な環境で育ったという設定にします」


「というと?」


「アレグリアの実家、ディアマンテ公爵家こうしゃくけの分家には、フィニース辺境伯家へんきょうはくけがあります。フィニース辺境伯家は、魔法が普及ふきゅうしている隣国りんごくと、唯一交易をしている家です。交易を行っている関係で時々流れてくる魔導書を、フィニース辺境伯は蒐集しゅうしゅうしているんです」


「悪役令嬢の母国では、魔法が禁止されているんですよね?魔導書を所有するのはいいんですか?」


「全然よくありません。でも、フィニース辺境伯はそういう…ロックなことをするキャラクターなんです」


「ダメって言われると、人間やりたくなるものだからねぇ。いいじゃないかぁ、茶目ちゃめがあってぇ。そういうやつはさぁ、モテるんだよなぁ。しゃくだけど」


「何をおっしゃいます。部長にもありますよ、茶目っ気」


「え、そう?あるかい、僕にも?モテるかな?」

「ええ、モテますとも」

 涼やかでいかにもモテそうな副部長に褒められ、部長はデレデレと笑う。


「部長、副部長、創作と全然関係ない話になってますよ」

 桜は白い目で冷ややかに言った。

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