第17話 ローズと幼馴染

切り立ったがけに挟まれた谷川の上を渡り、馬車はラルカンスへ入った。

辺境伯へんきょうはくの言っていた通り、国境こっきょうを超えるのは簡単だった。


「お嬢様、ラルカンスで使う、偽りの身の上話は覚えておられますね?」


「ええ。ネーレンディアの貴族の娘として生まれたものの、両親が事業に失敗し、貴族の身分を失う。幸運なことに、ネーレンディアの辺境伯へんきょうはくの仲介で、両親と親交しんこうの深かったラルカンスの商人に引き取られることになった」


「その通りです。貴族の令嬢として生きてきたお嬢様が、生粋きっすいの平民を演じるのは無理がありますから。お嬢様が貴族ムーブをかましても、貴族として生まれたから、ということでごまかす方針です。ローズも日々の生活をお手伝いしますからね」


「ローズは、わたくしの姉という設定だったわね?」


「そうです。ローズとお嬢様は一歳違いの姉妹という筋書きです。…ですが、ローズがお嬢様の姉というのは無理がありそうですよねぇ。お嬢様は作法さほう完璧かんぺきなのに、ローズがやけに平民らしいと、ぼろが出そうです」


「ローズはディアマンテ公爵家こうしゃくけ侍女じじょとしてずっと働いてきたのだから、作法はきちんと身についているわよ。あとは、堂々としていることね。それに、ローズの目的を果たすためでもあるんだから、気合を入れなくちゃ」


 アレグリアはローズを真剣に見つめる。


幼馴染おさななじみが、もし自分と同じように転生しているなら、再会したい。それがローズの望みでしょう?ラルカンスに行けば、捜索そうさく範囲はんいも広がることになるわ。ネーレンディアの中しか探せなかった今までは、かんばしい結果が出なかったけれど、ラルカンスで見つかるかもしれないわ」


「そうですねぇ。ひょっとしたら幼馴染もこの世界にいるのかも、という淡い期待があるだけですけど。それに、もしこの世界にいるのなら、ローズが早く見つけないと…」

 ローズは不安げにまゆをひそめる。


「ローズが前世で亡くなったとき、その幼馴染も一緒だったの?」


「死んだときの記憶は曖昧あいまいなんですよねぇ…。そもそも、彼はまだ死んでいなくて、ローズのことはすっかり忘れて、元の世界で楽しく生きてる可能性もありますよ。そっちの方が、むしろ嬉しいですよね。なので、もし会えなくても、ローズは大丈夫ですから」

 そう言って笑うローズは無理をしているように見えて、アレグリアは胸が痛くなる。


「ローズが転生してきた以上、幼馴染もこの世界で生きている可能性はあるはずよ。やれるだけのことはしてみましょう。彼も同じくらいの歳で、魔法学園に通っている、なんていう幸運もあるかもしれないわ」


「もし本当に同じ魔法学園にいたら、ありえない幸運ですね」

 ローズが笑ったので、アレグリアも嬉しい気分になった。

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